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第四話 Fabrication (嘘)

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4th piece / Fabrication (嘘)


新暦76年12月24日 PM08:15 
ミッドチルダ首都グラナガン中央区8番街
 
嫌なら席を立てばいいのになぜ私(フェイト)はこの場に留まっているんだろう。その答えは簡単。

気が付かないふりをしている…自分の弱さに…

ずるずるとこうして無為に時間を過ごしているのは怖いからだ。なのはに会うのが。

もう…私の名前を読んでくれないかもしれない…そう考えると怖い…堪らなく怖いんだ…

「あ、そういえば今日はクリスマスイブってやつじゃないですか?違いましたっけ?確か第
97管理外世界の宗教儀式の一つですよね?」

「えっ!ど、どうしてそれを…」

自分の考えを見透かされた不快感よりも心臓を抉(えぐ)られるような衝撃の方が大きかった私は思わず顔を上げて正面の記者を名乗る男の顔を見た。

「やっぱりそうか。まあちょいと色々あなたのことは調べさせてもらったんでね。ああ、記事を書くためですよ?勿論…」

男は不気味な笑みを口元に浮かべながら何本目かのタバコに火を付ける。

「高町一尉も元機動
6課の部隊長さんもその世界の出身ですよね?あんたも幼少期をそこで過ごしたとか。ミッドの人間から見れば馴染みが無いんでよく分かりませんけど今年は祝わないんですか?」

「…」

ズケズケと人の家に勝手に上がり込んで来る様な無遠慮な言動に怒るどころか、私は完全に動揺していた。

そういえば…私がクリスマスを祝うようになったのはどうしてなんだろう、自然に私の中に入ってきた異世界の風習に今まで私は全く疑問を持ったことがなかった。

笑われるかもしれないけどあえて言えば…

普段は伝えられない特別な想いを年に一度訪れるこの日に贈るなんて素敵…

ひょっとしたらその程度にしか考えていなかったかもしれない。

私は毎年クリスマスにエリオ(エリオ・モンディエル)とキャロ(キャロ・ル・ルシエ)にプレゼントを贈っていた。

プレゼントを目の前にした二人は始めキョトンとしていた…

無理もない。ミッドチルダでは誕生日以外、宗教行事にプレゼントなんて贈ったりしないのだから。最初、エリオなんてクリスマスを自分の誕生日と誤解したくらいだ。

エリオも私と同様に“本来の意味”での誕生日がなかったから…

でも二人の嬉しそうな顔を見たとき、私は改めて気付かされたんだ。
クリスマスに限らないけど…人の優しさに触れることで私は母さんに捨てられた過去の自分を必死に足掻(あが)いて終わらせようとした、全く新しい自分を始めようとしていたことに。

こう考えるのは傲慢なのかもしれないけど…私が救われた様に優しい心をあの子達に届けたい…だから生活の基盤をミッドチルダに移しても私のクリスマスはまだ続いているのかも…そしてそれは同時になのはとの絆の一つにもなっていた…と思う。

だから…今の私がここにある…

筈…だった…

でも…あの日、なのはが倒れたあの日、私は気が付いてしまったんだ。

自分が本質的に何も全く変わっていないことに…



長い内省から覚めた私はすっかり冷め切ってしまった最後の紅茶を一気に飲み干し、そして自分に向けられている視線を睨み返した。

「そういえば…まだお名前を伺っていませんけど本当にミッドタイムスの方なんですか?」

「そうですよ。ご挨拶が遅れましたけど…ええっと…名刺、名刺っと…お!これだ!はいどうぞ。どうです?これで満足ですか?」

ホント…いちいち癇に障る言い方をする人…

紙幣と買い物のレシートがだらしなく入り混じった財布の中から名刺を一枚取り出すと私の目の前に無造作に置く。

「エド…フォレスター…さん」

「ええ…こう見えて俺も昔、執務官を目指していた時期があったんだが残念ながら魔法資質に恵まれなくてねえ…法務の知識が幾らあっても実際の捜査が出来なければ全く意味がないでしょ?それで食うためにこの世界に入ったというわけですよ。まあ法律の知識は記事を書くに当ってそれなりに重宝しますがね」

「執務官を…そうだったんですか…どうりで次元法にお詳しそうな印象あったので納得です」

「ま、俺も自分がマスコミに向いているかどうかなんてよく分かりませんけど…この商売をやってるとたまに役得っていうか、ラッキーなこともあるんですよ。なんだかお分かりになります?」

「役得…ですか?さあ…全く想像がつきませんけど…」

「あなたみたいな美人とお近づきになれるってことですよ。ははは」

真面目に考えた自分がまるでバカみたい…人を小娘だと思ってからかって…

「ほんの冗談ですよ。もしかして怒ったんですか?でも怒った顔も魅力的ですねえ。そんなに睨み付けられると僕は
Mですから思わずイッちゃいそうになりますよ」

「な、なにを言ってるんですか!ふざけないで下さい!」

こ、この人…急に…

「おやおや顔が真っ赤ですよ?与太話にそんなにムキにならなくてもいいじゃないですか。あなたくらいの美人ならそれなりに男性経験だってあるでしょ?まさか…無いんですか?」

「へ、変な冗談は止めてください!」

「いや…冗談と言うか…早婚傾向が強いミッドだとあなたくらいの歳なら早い人だと子供がいたっておかしくないでしょ?少し落ち着いたらどうです?あんたが大声を出すもんだからバイトの子が心配そうにこっちを見てるじゃないですか。で?実際のところはどうなんです?」

「だ、だから!どうしてそんな話になるんですか!そういう話には興味ありません!か、からかうのもいい加減にして下さい!」

「興味が無いっていうのは男性に興味が無いってことですか?じゃあ同性愛者ってことでおk?」

「ちょっと!本当に怒りますよ!」

「まあ…座ってくださいよ…例えばさっき様子を伺っていた高町一等空尉とはどうなんです?どんなご関係ですか?ミッドを代表する著名人二人がデキてたとなると…こりゃかなりのスクープだな…」

「な、なのはは!高町一尉は関係ありません!!ご家族が見えられていたから水を指さない様に気を利かせただけです!!」

「気を利かせた…なるほど…物は言いようですねえ。そうは見えませんでしたけど?どっちかというと不倫相手の本妻に焼もちを焼く愛人って感じの方がしっくりくるような…ま、それぞれがどういう役回りかは分かりませんがね」

「バカバカしい!あなたの猥談に付き合っている暇はありません!他に用が無いなら帰ります!」

「こんなの猥談の内にも入りませんよ?」

「あなた個人の基準には関心がありません!これは立派なセクハラです!それに事実無根のことで記事にするようなら然るべき手段に訴えることになりますからその心算でいて下さい!それでは失礼します!」

テーブルの端に置いてある伝票を引き寄せようとすると男はいきなり私の手首を握ってきた。ハッとして私は思わず男の顔を見る。目が合った途端、下から私の顔を見上げていた男が噴出し始めた。

「ハハハハハ!いや、あんた本当に分かりやすい人だな!」

顔から火が出るほど赤面しているのが自分でも分かる。

信じられない…何よこの人…ホントにムカつく…

「一体何がそんなに可笑(おか)しいんですか!いい加減に手を離してもらえませんか?」

「はいはいっと。それにしても…細せえ腕だなあ、あんた…ちゃんと食ってんのか?」

「余計なお世話です!もういちいち構わないで下さい!私のお会計票を渡して下さい!もうこれ以上あなたとお話しすることはありませんから!」

私は振り払うようにして男の手から逃れると男の前に落ちている伝票を見る。また触られるかもしれないという警戒心が邪魔をしてとても手を伸ばす気にはなれなかった。

「やれやれ…手首を握ったくらいでそんなにガミガミ言いなさんな。相手をわざと怒らせて失言を狙ったり、相手の本音を引き出したりするのはマスコミの常套手段だろ?少し大人になった方がいいなお嬢さん。性的っていうより…色々な意味で…」

ま、また…一体どういうつもりよ…これも無意味な挑発って言いたいわけ?

「ど、どういう意味ですか!」

「あんたさ…考えていることがバレバレなんだよね。すぐ感情が表情に出るし、頑固だから同じ行動パターンを無意識の内にトレースしがちで、おまけにいちいち相手の言うことに翻弄されて結果的に相手のペースに引き込まれていく。それじゃ相手にすぐ先読みされちまうから自分が攻めてる時はいいだろうけど、一度手詰まりになると後が続かねえぜ?防御に自信があるってんなら話は別だが…まあすぐに突っかかっていくその性格だったらそっちの方は期待できそうにねえな…あんた空戦適性があるんだろ?だったら一瞬の隙がなおさら命取りだよな?必ず魔道師としての限界に突き当たるよなあ…」

「ま、魔道師…」

その一言がまるで澄んだ水の中に落とした黒いインクように私の中に広がっていった。

いちいち嫌なところばっかり…この人…どこまで私のことを…一体なんなのよ…

カフェの店員の目も気になった私はおずおずと元いた席に座ってしまった。

「執務官をドロップアウトした挙げ句に魔道師崩れで挫折しちまった俺だから余計分かるんだよ…もっともあんたの方は遠の昔に限界を感じたのか、執務官の道を選んで純粋に魔道師として生きる方向には背を向けているようだけどな。皮肉なもんだよなあ…あのテスタロッサの娘がよ…」

「…」

「さて…随分と長い間、話が脇にそれてしまったが俺の本当の目的はね…実を言うとプレアデス事件なんかじゃない…あんた自身なんだよ…」

「わ、わたし?」

「そう!あんただ。正直なところあんたの恋愛遍歴だの性癖だのゴシップだのにこっちは一切興味が無えんだ。今まで散々回りくどいことをしていたのも本音を引き出すため、言ってみりゃ見せかけだけの自分に汲々としているあんたのその作られた仮面を引っ剥がすためだ。お蔭でこっちも余計な時間を食っちまったよ…そりゃなのまねなんだ?本来の自分を偽って別人として生きるためなのかい?お嬢さん…」

「…」

PT事件後にあんたは公判中にもかかわらず管理局の嘱託魔道師になってるね?それから例の闇の書事件の後でリンディ・ハラオウンの養子になって第97管理外世界で学校に通いながら執務官キャリアを目指してるよな?どうして魔道師としての道を…本来の自分の領分に背を向けようとしてるんだ?」

「そ、それは…」

「過去と完全に決別して新しい自分を始めようとした、まずはそんなところだろうな?」

「…」

「図星かい?だが自分の本質や過去を捨て去って全く新しく自分を始めるってのは言葉ほど簡単じゃない。生まれ変わるわけじゃあるまいしな。ハラオウンの家系も魔道士っちゃあ魔道士だが魔力属性も魔道士としての純粋性もあんたの母親プレシア・テスタロッサとは全く異なる。人間は恩義を忘れたらそこらの犬コロと何ら変わりはねえが…実際そんなに簡単に捨て去れるもんかね?自分のルーツってやつを…本来の自分を…」

全身が鳥肌立つ。そっくりだった…例え言葉や表現は違っても…

この人と同じような事をジェイル・スカリエッティにも指摘された私は今と同じ様に激しく動揺した…

もし、私がスカリエッティにそんな自分自身に対する弱さを攻め続けられていたら…私はあの時…完全に堕ちていたかもしれない…

スカリエッティが犯した唯一の間違い、それは離間策に走るあまり私がエリオやキャロを利用しているという方向に重点を置いたこと。

冷静に考えればそんなことは無いと断言できるようなことに…普段は思いも付かないようなことに揺さぶられるのは…やはりこれも私の根本的な“弱さ”のせいだ…

私は元々…泣き虫で…臆病者…いつも何かに怯えて常に周囲の顔色を伺っている…自分でも何が本当の自分なのか…分からない…

だから…いつも私は他人の力を必要としている…自分では…何も出来ないから…

そんな弱さを含めて私だと一度は思った…でも…そんな小さな自信は今、完全に崩れ去ってしまっていた。

「あんたがプレアデス事件のことに関して何もいえないってのはよく分かる。そりゃ専任の報道官がもういるんだからそれをスルーしてあんたに聞くと言うのは筋違いだし、時空管理局の人間が捜査の段階でまだ何にも言えないってのも当然だ。だが…あんた個人としてはどうなんだ?ハラオウン…いや、フェイト・テスタロッサとしては?」

「おっしゃる意味が…よく分かりませんけど…」

「じゃあ端的に言いましょう。犯人が誰なのかまでは分からないにしても、だ…少なくともあんたは知ってるだろ?プレアデスの意味するところが…プレシア・テスタロッサの娘なら知らないはずは無いんだよ…」

やっぱり知っている…この人はプレアデスの意味…いや…私との接点を…

「プレアデス…ミッドチルダにおける古代伝承に出てくる天上のプレアデス七姉妹…この七姉妹の父は雷と破壊を司る雷神フォノン…ミッド語のフォトン(
photon)はこのフォノンが異世界で鈍(なま)って成立した言葉が逆輸入される形でミッドチルダに伝わったとされる外来系のミッド語だ。そして数ある黄道系魔道属性(電撃等)の中でも最強を誇る雷神フォノンのスキルを伝える直系魔道師の家系はその傍流を併せても残念ながら今では殆どが没落してしまっている。大魔道師テスタロッサの家系もその例外では無い。どうしてあんたが数百年は特別拘置所で拘留されるほどの凶悪次元犯罪の片棒を担いだにも拘らず保護観察つきで放免されたのか、自分でも不思議じゃないですか?実質的な無罪を勝ち取れたんだから…あんたも大人になってしかも執務官として奉職しているならこの辺が如何に特殊で異常なことなのか分かるだろ?」

「どういうことですか…?」

「あんたも分かってて惚けてるなら大した役者だねえ…まさか気が触れた母親のために何も知らずにロストロギアを採集していただけのいたいけな少女だった、てだけで都合よく無罪になると本気で信じてるのかね?幾ら司法と警察権を一手に掌握している管理局だとはいえ…未遂とはいえ次元震発生に関与したという時点で無罪の芽なんてあるわけねえよ。過去の次元法院の判例を当ってもそんな例なんざただの一件たりともありはしねえ。仮に命というか生きる時間を奪われずにすんだとしてもせいぜい魔力の永久封印を受けた上で辺境の管理外世界に追放というのがまあ妥当だろうよ。それだけの無理を通すにはどう考えても見返りが必要なのは自明だろ?」

「ま、まさか!」

「当時の担当執務官クロノ・ハラオウンとその上官のリンディ・ハラオウンがどんな裏技を使ったのかは知らんがあんたのレアスキルと罪状の棒引き、つまり司法取引以外にあんたが無罪になる道理が無いってこった…あれだけのことをしでかしておきながら情状酌量だけで無罪になるかね?そんなに管理局は甘っちょろくはないぜ?ハラオウン親子もあんたを手土産にして何らかの見返りを受けてるかもしれねえなあ…それで味をしめて“闇の書事件”でも同じ様に司法取引で処理したって寸法だ。特にリンディ・ハラオウンがどうしてあの歳で管理局幹部の仲間入りを果たしているのか、俺なんかは興味をもっちまうがねえ…」

「う、嘘です!!そんなの!!」

「おや?どうして嘘だといえるんだ?何かソースでもあるかい?」

「そ、それは…」

「じゃあ…ついでにもう一つ…どうしてあんたは魔法学院時代に観戦試合に出場させられたんだ?」

「そ、それは…私の対戦相手が古代ベルカ式の術師だったから…」

「ちっ!あんたはどうしようもなくお人よしだな…少しは人を疑うってことも覚えたらどうなんだ?レアスキルの持ち主同士の対戦だからわざわざお偉方が見に来たんじゃねえかよ。“無印”の奴の模擬戦を見て何の意味があるんだよ?あんたもレアスキル認定を受けてるから選ばれたのに決まってんだろが」

確かに…私はレアスキル認定を受けている…

「冷静に考えてみるこったな。ミッド出身のあんたがどうしてレアスキル認定を受けてるんだ?ミッドにありふれた黄道系魔道の中でレアスキル認定者は僅かに二人…あんたとあんたが保護責任者になっているエリオ君…まあ彼は近代ベルカ式の使い手らしいが古代ベルカ式と異なってそれだけでレアスキル認定の要件は満たさないだろ?しかも…あんたとエリオ君に共通しているのはプロジェクト
Fの残滓だということ…そしてプロジェクトFは大魔道士プレシア・テスタロッサも関わっていた。ここでぴたりと全てのパズルが一つに結ばれるってわけよ」

プロジェクト
F…

「止めてください!!そんな妄想を振り回すのは止めてください!!何の証拠があるって言うんですか!!」

「確かに証拠は無いが周辺の状況が見事にそれを物語ってるとは思わねえのか?」

嘘よ…こんなの…

「つまり…あんたも…エリオ君もとっくの昔に売られてるってわけだよ…気の毒にな…」

音を立てて崩れていく…私の中で何かが…

もう…何も見えない…



第四話 完 / つづく
 

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