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第十四話 Fire and Brimstone (永久の断罪:後篇)
神代より続きたる輪廻の縛鎖を断ち切り
獅子の日に集いし宿星は夜天の空に舞う

 
  

長い旅になる…きっと…

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14th Piece / Fire and Brimstone-3


スタジアムを幾重にもわたって包囲する傀儡兵の戦列、それに対して敷地内に侵入させまいと最後の抵抗を試みている武装局員達の姿が遠くからでも見て取れた。

「第六の魔力杭を打つべき場所まであと一押し、といったところか…見事な働き振りよ、テスタロッサ卿。先陣は天駆ける空戦魔道師にとってこの上なき名誉。胸を張り誇るがよい。そなたはそれを見事果たしたのだ」

“末娘”は上機嫌だった。一人、また一人と傀儡兵の振るう切っ先の前に倒れていく。一般の局員では束になってかかっても適う道理がなかった。勝敗は…ほとんど決していると言っていい。

お願い…もう抵抗は止めて…

不法に世間を騒がせておきながら本当に勝手な言い草だ。虚しさしか込み上げてこない。近付く者を殺めることしか知らない強兵の群れを抑えるのにかなりの疲労を誘った。

少しでも気を緩めれば局員の誰かの命を奪いかねない…

「それにつけても愚かなことよ…仮にも主上なる神の前で術の研鑚を誓って盟約を交わした筈の魔道師共が事もあろうに我が行く手を遮ろうとはの…世も末よ…」

「いえ…現代では魔法使役の有無で人が区別されることはありませんから…」

「ほう…それが前にそなたが話しておった“平等”とやらか?そなたらの時代に生きる者は何とも罪作りなことをするものよ…ヒマノスの末裔(魔法資質の乏しい人間)と神々の眷属(魔道師)とが一つ屋根の下に何の隔たりもなく住まうとは…」

「え…?平等が…罪ですか?」

「水と油が決して交わらぬように…姿形は同じでも持てる者と持たぬ者、得たる者と得られぬ者とに袂(たもと)を別(わか)つのは世の必然…寸分違(たが)わぬ同じ物でこの大地が溢れ、万物の全てが一つの色で塗り潰され、響きたる音も一つで構わぬと申すのなら、そんな無味無臭の世界もよかろうが…他方、そなた達は常に新しきを求め、変化を求めておるではないか?画一的な価値を輩(ともがら)に求めながら、自らは多様性という名の独尊を求める…さしずめそれは出口のない迷宮を彷徨うが如き所業よ」

“野に種を蒔けば百の花が咲く(十人十色)”という古い言葉がアルトセイムにある。

純粋無垢で世の中の穢れと一切無縁な小さい子供達ですら興味を示すものがそれぞれで全く異なっている。元々違うものを持って生まれてくる子達を無理やり狭い部屋(枠)の中に閉じ込めて、同質の価値観を持つように育てることは人間そのものを否定するのも同然だ。だから“平等”という概念には本来は節度が求められる。際限なくそれを求めてしまえば双方が不幸になるだけだからだ。

質量兵器とそれを生み出す“科学”を封印したミッドチルダは替わりに“魔法”を肯定する道を選んだ。その結果、魔道師と魔法を使えない人との間には埋めがたい“違い”が生まれてしまった。それを埋めるための努力と試行錯誤が長年にわたって繰り返されているけれど、“ある”ものを“ない”ように振舞うのも、“ない”ものを“ある”ように何かで埋め合わせるのも、結局、どちらも同じ様に不幸だった。

「それでも…人には“知恵”があります…貴女がもたらした“松明”の灯火がここにはあるはずです…」

“末娘”の表情が僅かに動いたような気がした。

「たとえ、今は欠陥が多くても時が経てばきっといつかは…」

「それは欺瞞(ぎまん)だ、テスタロッサ卿。“ゼロ”から“1”を生み出すことはこの私はおろか、アルハザードに集いし神々でも出来はせぬのだ。それは“科学”にも“魔法”にも共通する神の真理だ…」

私は何も答えず、再び目を閉じると荒れ狂う傀儡兵達の指揮に戻る。

確かに貴女の言う通りかもしれない…永遠に終わらない未完成のままのパズルを私達、人間は抱えたまま生きなければならないのかも…

「ふっ…大人しくしておれば手心を加えるつもりであったが…テスタロッサ卿…どうやら卿(けい)の同輩がこちらに向かって来ておるようだ。そなたも感じておろう」

「…はい…」

なのは…はやて…出来ればここで会いたくなかった…

「ほう、これは面白い…まさかこの時代にベルカの将星と見えようとは…テスタロッサ卿、白き魔道師の方はそなたに任せる。我が聖なる槍バルディウスと七徳の法衣をそなたに預けよう…」

「え?」

「どうした?そなたが我が法具を手にするのはこれが初めてではあるまい?」

返事に窮する私の顔を“末娘”は覗き込むように見詰めていた。顔は笑っていたけど目は全く笑っていない。魔道師にとって自分の法具(デバイス)を他人に貸し与えることは特別な意味を持つ。

盟約の儀…それは主従、従属関係を明らかにする儀式でもある…

「踏み絵…というわけですか…」

「なかなかに物分りがよい…聡い女はわらわの好みよ…見事討ち果たしてまいれ…」

プレアデスは私に手を伸ばすとインパルスフォームのマントをゆっくりと外した。風を孕んだマントはたちまち虚空に舞い、どこともなくクラナガンの上空に飛び去っていき、そして漆黒のローブが替わりに私にかかる。

「いいでしょう…ただし、失敗作とはいえ私は“心優しき疾風なりし紫電”プレシア・テスタロッサの娘として生まれました…“魔道師”としての私なりの流儀があります…そのつもりで…」

私に突き出された黄金に輝く槍の柄を握った。

「なんと小気味よい返事か…ますます惚れ直したたぞ、テスタロッサ卿…いいだろう…お互いの勝負には口出し無用といこうぞ」

「お互い…」

まさか…この子…既に見抜いているというの…はやてのことを…

「ベルカの聖王を守護したる十二神将の一柱…夜天の“シュベルトクロイツ”とはちょっと因縁があっての…ふふふ…異存はあるまい?」

いくらはやてが強くても…いくらなんでも…


 

「もう大丈夫!!すぐに応援が駆け付けるからね!!」

絶望の淵に立たされつつあった武装局員を励ますなのはちゃんの声が辺りにこだました。“無敵のAce of Ace”の姿を見た局員達の士気は否応なく高揚する。沈黙しかけていたスタジアムの入り口前に敷いたバリケードが急に息を吹き返したかのようだった。

「味方を巻き込まへん自信ないけど…とりあえずいてこましたるでぇ!」

どこからともなくウジャウジャと涌いて出てくる傀儡兵の戦列に私は挨拶代わりの一撃を撃ち込んだ。まるで木の葉か何かのように吹き飛んでいく。

「ははは!見ろ!敵がゴミのようや!」

「はやてちゃん…キャラが変わってますぅ…」

「しゃあないやろ、リイン。なのはちゃんと違って精密射撃出来へんもん。手加減(巻き添え的な意味で)は諦めてるよ。ほな、バンバンいこか?」

だ、ダメですぅ…コイツ…早くなんとかしないとですぅ…

JS事件の後遺障害が完全に癒えていない今のなのはちゃんは持ち味の法撃を封じられている。戦いが長引けば鉄壁誇る防御魔法と打撃だけではさすがにバリエーション的にも限界が出てくるだろうし、何よりも責任感が人一倍強いなのはちゃんは他の局員達の危機を救うために自らのことを省みずに躊躇なく砲撃魔法を使うに違いない。

命に係わることをさせないためにも…私が…

「私がやらな、誰がやるねん!女は…度胸や!」

自分でもビックリするくらいアドレナリンが出ていた。地上のなのはちゃんからの指示に従ってスタジアム上空から四方八方に魔力砲を打ち込む。

こんなに…連射が疲れるもんやとは…なのはちゃん、一体どんだけ今まで無理しとったんや…

範囲を絞っているとはいえ広域魔法は誰かの射撃管制サポートが無いとポイントを絞ることは難しいし、射撃間隔は決して短くはない。にも拘らず普段以上に息が上がる。

「さすがはやてちゃんだね!形勢逆転だよ!」

「はあはあ…そ、そうか?そりゃよかった…」

「西側ゲート手前200メートルにもう一発お願いしたいんだけどいけるよね?」

「え゙っ…ま、まだ撃つの…?もう、ほとんど全滅状態やんか…」

「ここで手を抜いちゃダメだよ。相手に立ち上がる力を残さないように全力全開で叩きのめさないと。止めは二回刺すくらいが丁度いいんだよ?」

やだ…この子…いきなりの魔○発言とか…

「了解ですわ…なのは隊長。ほな、詠唱開始しま…」

「待って!何かが私達に近付いてきてる!すごく大きな魔力反…」

なのはちゃんとの会話が終わらない内に稲妻のような閃光が走ったかと思うと私の目の前に戦場に不似合いな古めかしいドレスのようなバリアジャケットを着た魔道師が現れていた。夕日を浴びて輝く金髪と白い肌と澄んだ赤い瞳…その姿をみて私は思わず言葉を呑む。

「こっちの方はもうお出ましや…どうやら…かなりせっかちな性格らしいわ…」

なのはちゃんからの応答はない。その理由は容易に想像が付いた。

一瞬、本人かと思うたけど…よう見たら似てるけどどっかがフェイトちゃんと違(ちご)うてる…ということはこっちが本命か…

「あんたが…プレアデスか…?」

「ふふふ…そうであった…今はプレアデスであったな。いかにも我こそがプレアデスよ」

やや間を置いて耳を劈く轟雷が辺りに響き渡る。まさに“雷”そのものだ。

なるほど…そういうことか…

「全く局の警戒網にも次元転送のログにも掛からなかった理由がようやく分かったわ。あんたは今まで次元転送も物質転送も使ってなかったんやな。移動も運搬も全て“通常飛行”に過ぎなかったっちゅうわけや。その尋常じゃない“高速移動”を除いて、な…」

「なかなか物分りがよいではないか?ベルカ十二神将の一柱、夜天のシュベルトクロイツよ。転生に次ぐ転生でこれまでに幾度も見(まみ)えていたが…よもや現世の“夜天の王”がわらわと然程(さほど)変わらぬ歳の女魔道師とは思いもよらなんだわ…」

魔力反応を感じてコイツが現れるまでに何秒や…早すぎて目で追えへん…いや…見えないんと違う…これじゃ時間を止められてるのと変わらへんわ!どうする…勝てないまでも負けない戦いが出来るやろか…

「まあよい。今宵、汝は我が封土(
※【よみ】ほうど。主人から与えられた領地という意味)に敷かれたる黄天の大魔法陣に落つ」

「な、なんやそれ…!?危ないやっちゃな…新手の中二病患者かいな…」

騎士杖(シュベルトクロイツ)を握る手に汗が滲む。軽口とは裏腹に私の鼓動はどんどん早くなっていく。

「そなた自慢の守護騎士達はどうした?シュベルトクロイツよ。聖王の朝議を左輔右弼(
※【よみ】さほうひつ。輔弼と同義で補佐するの意)する者が直接切り結ぶことを選ぶとも思えぬが?ふふふ」

コイツ…

「やっぱりあんたやってんな…シグナムとヴィータをやったのは…重傷のフェイトちゃんがヴィータを一刀の下に切り伏せるとも思えへんしな」

「シグナム?ああ…我が依り代を傷つけたあの痴れ犬のことか…確か、もう一人…“アルタナの日”にいなした魔道師がいたような気もしたが…きゃつらが汝の騎士達であったか?神槍を振るうまでもなかったわ。ははは!」

多重結界にコイツをぶち込む…それしかない…問題はどれだけ魔力蓄積の時間を稼げるか、やな…

「考えてる間はあらへん…今までの発言を自白と見なして連続テロ事件の主犯、及び先般の管理局員襲撃の実行犯としてお前を逮捕する!リイン!」

「は、はいですぅ!」

「コイツとのガチンコ勝負に射撃管制は不要や。私から離れて地上のザフィーラと合流…」

「その必要は無い…主はやて…少し離れた場所にシャマルも控えている…奴のスピードは我々が抑える!」

ザフィーラ…シャマル…わざわざ上がってきたんか…!?でも、おおきにな…百人力やわ…

「ふっ…抑えるだと?笑止な。使い魔如き下郎どもに何ほどのことが出来ようぞ。我が閃光(Lightning)の秘術…止められるものなら止めてみよ!」

 “プレアデス”を名乗る容疑者目掛けてシャマルとザフィーラのチェーンバインドが伸びる。
網膜を焼く幾筋もの光の軌跡…そして雷鳴…

「き、消えた…」

「やれやれ…どこを見ておるやら…」

何の前触れもなくザフィーラが弾き飛ばされ、そのまま地上に叩き付けられていた。

「出でよ!閃光の槍兵(Lgihtning Lancer)!眼下の敵を撃ち貫け!」

声を上げる暇もなく光の槍が雨あられのようにザフィーラの上に降り注ぐ。

「ザフィーラ!!コイツ…絶対にゆるさ…」

「汝、シュベルトクロイツよ。下僕のことよりも己の身を案じる方が先では無いか?」

「!!」

な、なんやて…!?い、いつの間に背後に…気配すら感じへんかった…

「我が雷光の白刃(Ark Seiver)で汝の首を落とせば次はいつ転生して会えるのであろうな?ふふふ…もっとも、その前にヒマノスの末裔共が穢したるこの地に我が天誅の七杭(魔力杭)を打ちたててアルハザードへの道を拓く方が先であろうが…」

「天誅の…七杭やって…?そうか…それがこの事件を起こしたお前の目的っちゅうわけか…」

「はやてちゃん!」

シャマルが遠隔地から転送してきた部分結界が背後にいた”プレアデス”を弾き飛ばすのが振り向き様に見えた。

な、なんやの…コイツ…詰められた間合いを離すためだけの単純な結界やんか…もしかして意外と虚弱体質…い、いや…ひょっとして…

「ちっ!余計な真似を…あのベルカの結界術者め…忌々しい!ならば貴様から血祭りに上げてくれるわ!」

「そうは問屋が卸さへんで!来よ!怒れる大地の雄叫び!炎の海より産まれし大剣となりて打ち下ろせ!フラーメンミーアシュベルト(das Flammenmeer Schwert)」

真下から巨大な火柱が吹き上がると一瞬の内に上空の”プレアデス”を一気に呑み込んだ。

「さすがは夜天の王よ!炎の巨人スルトの大剣を呼び出すとはなかなか楽しませてくれる。だが…もうここには汝一人だぞ?」

“プレアデス“の右手には赤く染まった帽子が握られていた。

「なんやて…ま、まさか!?シャ、シャマル!!シャマル!!」

私の広域攻撃魔法をかわすだけではなく…気配を消し去っている遠く離れたシャマルを見つけ出すなんて…化け物や…常識を超えてる…

「勝負あったようだな?どうする?シュベルトクロイツよ。矛を下ろす(恭順)か?それとも…ここで死を選ぶか?」

「は、はやてちゃん!逃げましょう!なのはさんと合流して…」

「アカン…」

「え?」

「アカンわ…私…完全にぶちギレてもうた…リイン…ユニゾンや…コイツだけはホンマにいわしたらなアカン!覚悟しいや![自主規制]女!」

「ユ、ユニゾン…まさか…む、無理ですよ!たった一人で!しかも目で追えない相手ですよ?」

「追えない相手は追わんでええ…逆に追おうとするから相手の術中に嵌る…」

機は熟した…ザフィーラ…シャマル…命懸けの時間稼ぎ…その心…確かに受け取った…

「愚かな…気でも触れたか?シュベルトクロイツ…そなたの下僕が申す通りぞ?大人しく矛を下ろしてこの場を退けば命だけは取らぬ心算であったが…直接切り結ぶとあらば魔道の作法に則(のり)して容赦は出来ぬな」

「余裕綽々もそこまでやで…今までこそこそと魔力杭を打ちこんどったお前がなんで今回に限ってわざわざ仰々しくここに乗り込んで来たんか、ようやく分かったわ…」

「なに…?」

「背後を取られた私をサポートしてくれたシャマルがその理由を教えてくれたんや…お前は私やシャマルの古代ベルカの(封印)術式と、魔力結界を直接破壊出来るなのはちゃんのS.L.B.を恐れてるんやろ?折角打ち込んだ“杭”を吹き飛ばされたら今までの苦労も水の泡やもんなぁ…せやからフェイトちゃんを誑(たぶら)かして騒げば私らがここに現れると踏んだ!違うか!」

「っ…!ふっ…ふふふ…はははは!その慧眼、敵ながら見事!褒めて遣わすぞ!仮にそうだと言ったらどうだというのだ?我が一閃万里の雷光の前では全て無力だ!」

「能力、資質の差だけが“魔道師”の妙やないことを教えたるわ…庶民から見れば気位の高い女ほど付け込む隙は多いんやで?詠唱…“夜天の書”に降り来たれ…“蒼天”の息吹…“祝福の風”よ…今ここに“紺碧の聖典”となせ…召喚!ドゥンケルブラウビーベル(紺碧の聖典/die Dunkelblau Bibel)!!」

「無駄な足掻きよ!あの世で下僕どもに己の無力を詫びるがよいわ!詠唱…アルカス、クルタス、エイギアス、闇を貫く雷神の槍よ、眼前の愚者を薙ぎ払え…バルエル、ザルエル、ブラウゼル、夜を切り裂く閃光の戦斧、轟雷と共に打ち砕け…雷神の名を継ぎし我が命に応えよ!審判の雷!!Dies Irace Tonitrus!!」

「覚悟しいや!プレアデス!封印術式…ウンシュテルプリッヒ・ズィーゲル (永遠の封印/das unsterblich Siegel)!!」

魔道師同士の勝敗は一瞬で決まる…試合には負けても…最終的に勝負で勝てばええ…最後の最後まで立ってた方が…勝ち…や…

「はやてちゃん!!しっかりして下さいですぅ!!」

くそ…こんなんで…終わり、かいな…


「自らが囮となって…わらわを空間トラップに誘い込むとは…小賢しいマネを…だが見事な戦い振りであったぞ…当代のシュベルトクロイツ…汝の奮闘に敬意を表して…今ここに汝の墓標たる第六の杭は打たれる!!フォイエル!!イルフェリノ!!」

ロッサ…どうせまた…子ども扱い…するん…やろな…




 

ベルカの法撃が…止まった…

それに呼応するかのように地上だけではなく、首都上空でも傀儡兵たちが次々に反撃に転じ始める。空も大地も再び激しい戦いの火花が上がる。

戦いはいつまでも続く…使役者の魔力と命の灯火が完全に尽き果てるまで…それが“無限の傀儡兵”と呼ばれる所以(ゆえん)だ。疲れを知らない兵団の列が間断なく召喚魔法陣の光の中から現れる。

元々、身体の弱かった母さんが魔道研究者(魔道師)の職を辞して、アルトセイムで出来損ないの私を作って一緒に住むようになったのは、アリシアを喪ったという精神的なショックもあったけど、療養生活を送ることも主な目的だった。母さんが召喚した“無限の傀儡兵“が時の庭園で数に限りが出てしまったのは…病気で母さんの魔力…いや、なによりも生命力自体が弱っていたからだ。

私がジュエルシードを捜し求めていた時も、母さんは本当に死んじゃったんじゃないかって心配するほど、一日のほとんどをベッドの上で過ごしていた。私が帰ってくると決まって不機嫌になったけど…それは病魔のせいだったんだと…今は信じたい…起き上がるだけでも相当の負担だったんじゃないかな…

大魔力の放出は心肺器官に常人では考えられないような負担を魔道師に与える。

呼吸困難による昏睡、そして大量の吐血…そう…胸の病は魔道師にとって宿痾(
※【よみ】しゅくあ/持病。長い間治らない病気のこと)みたいなもの…大魔道師と呼ばれるような優れた魔法資質の持ち主ほど長くは生きられない…その生物学的な宿命を、自然災害が“神々の怒り”と考えたように太古の人間は“魔法使役の神への対価”と理解して…そしてそれを長い間、受け入れてきた…

人は生き急いではいけないの…フェイト…

なのはの世界に比べてここミッドの平均寿命が決して長くないのはそのせいもある。

ゆっくり…生きるべきだったんだ…そして、出来ることなら…強大な力は求めるべきじゃないんだ…人間は…

周囲の喧騒とは裏腹に私達の間には無声映画のような長い沈黙が続いていた。

なのは…今だからはっきりと言える…君が私の目の前で倒れた日のこと…

カーペットに点々と続く吐血の痕を見た時、私は無理に無理を重ねる君が母さんと同じ病(後遺症)を患っていることを直感したんだ。発症すれば十中八九、助かる見込みのない不治の病…

誓って言える…君は…私の全てだった…その君を失ってしまうかもしれない…母さんと同じ病で…そう思うと私は…私は…

「フェイト…ちゃん…」

長い沈黙を破った君に今…私は何を語り掛ければいいんだろう…

アリシアの名前を呼んだ母さんとなのはの姿が何度も重なった。アリシアに嫉妬したように私はまたユーノに嫉妬したのかもしれない…立ち聞きする心算はなかった…でも…

おめでとうなんて…言えない…!!

「お願い…フェイトちゃん…私の声…聞こえてるんでしょ?」

新しい自分なんて…やっぱり無理だった…所詮は“人生をやり直す”なんて幻想だったんだ…生まれたこと自体が間違いだった私は…生きている限り間違いしか…他人を不幸にすることしか出来ない…

「フェイトちゃん…どうして…どうしてこんなことに…ウソ、だよね…こんなのって」

出来そこないの私は…未完成のパズルは…絶望しか生まないんだ…!!だから…!!

「私は…還るべきなんだ…自分のあるべき場所に…」

「そうだよ…だから私と一緒に帰ろうよ…今ならまだ間に合うよ?それにヴィヴィオも寂しがって…」

「それは…ウソだ!!」

「え…ええっ…?!」

「私が…他人を不幸にする私が…還るべき場所は…君の…君のところじゃない!!」

母さんの余生を狂わせ、そして挙げ句に命までを奪った私…エリオとキャロを魔道師の道に誘ってしまった私…そして、今…生きることの喜び、未来、そして希望の全てを与えてくれたなのはの運命さえも狂わせようとしている…ヴィヴィオだって…母親を奪われれば…

そんな…そんな自分が許せない…!!

「生まれるべきじゃなかった…だから私は“無”へと還るべきなんだ…君や…ヴィヴィオや…ユーノの幸せを…」

「フェイトちゃん…やっぱり知っていたんだね…あの…なかなか会えなかったから話せなかったけど…私…直接、フェイトちゃんに会って色々お話したいこととかあったんだ…わたし…ずっと会いたかったんだよ?ずっと、ずっと謝りたかったんだよ?どうして…どうして名前を呼んでくれないの?」

私達はお互いの目を見詰め合っていた。

「もう…止めましょう…話せば辛くなるだけです…お互いが…」

「フェイトちゃん…」

そんな哀しそうな目で私を見ないで…

「フェイトちゃん!!」

簡単だよ…?友達になるの、とっても簡単…名前を呼んで…

とても…力強くて…暖かい声…急に胸に込み上げてくる感情の波が私から言葉を奪う。返事さえも出来ないほど…

私だって帰れるものなら…後戻りができるのなら…そうしたい…病魔に蝕まれつつある君を今すぐ抱き締めたい…でも、それは適わない願いとなってしまった…そして…“友達になる”という約束を私は果たせなかった…

「Sir……」

バルディッシュ…いえ、リニス…貴女はこうなることを予見していたんですね…寡黙な貴女があの時、炎に包まれたビルの中で私に語りかけてきた理由が…今はよく分かります…

母さんに追い出されて以来、足を踏み入れたことがなかった母屋に戻ってようやく私は全てを理解した。
この事件だけじゃない。私という…失われた筈のアルハザードの秘術がこの地上に息づいている限り…悲劇は繰り返される。必ず。

私も…そして“プレアデス”もプロジェクトFによって生み出されたのだから…

不本意ではあるけど他に方法が無い以上、あの子の大魔法陣は完成させなければならない。プロジェクトFに関わるもの全てを“無”に還さなければ…
この負の連鎖は断ち切れない…!!

七徳の法衣を翻して私は神槍“バルディエル”を両手で構えた。悲哀に満ちた互いの視線が交錯する。

「虫のいいお願いだとは分かっていますが…どうか…ここは手を引いて下さい…そして、何も言わず黙ってエリオとキャロの身柄を私に引き渡して欲しい…」

「エリオとキャロの…もしかしてそれが医療センターを出た理由なの?フェイトちゃん」

“盟約の儀”は一種の魔法契約…主従従属、師弟関係を超えて“盟約者”の遺志を継ぐことを同時に意味した時代があった…一般家庭の親子同士ならそれもありかもしれないけど…私は…違う…!!

人間じゃない…!!忌まわしき秘術で生まれた人工生命体のオリジナル…諸悪の根源…

「それも確かに理由の一つです…あの日以来、二人とは全く連絡が取れない…」

エリオとキャロとの間にある私との“盟約“を解き、二人を縛る呪鎖を断つ…エリオ…君が私と違って”オリジナル・クローン“じゃなかったことは唯一の救いかもしれない…

「会って…どうするの…?」

「…」

「フェイトちゃん…お話してくれなきゃ分からないよ?」

「君には…関係ない…」

「だったら…それは出来ないよ…フェイトちゃん…レジングハート…モードリリース…」

「All right, my master

なのはを見る目に力が篭(こも)る。

「出来ることなら君と戦いたくない…」

「なら尚更…話合いで何とかすることを考えない?私だって…戦いたくないよ…フェイトちゃんと…」

「話しても…恐らく…無駄…」

「無駄じゃないよ。絶対に…確かに、何が正しくて、何が間違っているかなんて…私が決めることじゃない…でも、それは悲しいこととか…辛いことを一人で背負っているフェイトちゃん自身が独りで決めることでもないよ!人は一人じゃ生きられないもの!そんなに強くないよ!フェイトちゃん!私だって…そんなに…強くはないんだから!!フェイトちゃんがいてくれたから頑張ってこれたんだよ!!」

その時…私は見た…
私が大好きだった君…君のその大きくて円らな黒い瞳から…次々に涙が溢れてくるのを…

思わず私も天を仰いだ。獅子の日の空に瞬く今宵の一番星、常勝の女神アルティナスの宿星が滲(にじ)んでいく。

「時は今…どうやらお別れの時間です…」

私の背後で巨大な火柱が立つ。ミッド戦勝記念スタジアムは瞬く間に炎に包まれていた。

「フェイトちゃん!!待って!!話を…」

「きっと…長い旅になる…だから…ここに来たのは返事をするため…」

「お、お返事…?一体なんのこと…?何を言ってるの?フェイトちゃん!」

「それは…」

この子の幸せに…私は存在すべきじゃない…

「生まれてきたことは間違いだったけど…一つだけいいことがありました…君に…出会えて…よかった…さようなら…」

音速を超え…更にその向こう側を私は目指す。闇夜を切り裂き、天を駆ける閃光はいつも孤独だ。

もう一切の躊躇も無い…タイロン(時の神)の世界から解き放たれ…私の身体は光の中に溶け込んでいく。

奔れ、雷光…轟け、雷同…



第14話 完 /  つづく

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