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第十三話 Fire and Brimstone (永久の断罪:中篇)



間違いからは間違いしか生まれない…
ならば…

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フェイト…

母…さん…母さん…!

そんなに…そんなに魔道師になりたいなら…

母さん…ごめんなさい…私…

私があなたの後見をしてあげる…せいぜい立派な魔道師になるがいいわ…

私が間違っていました…だから…

あなたは選んでしまったの…今更…後戻りは出来ないのよ…?

私は魔法を捨てます…だからお願いです…許してください…

覚悟はいいわね…?フェイト…

母さん…私はその名を捨てます…もう二度と“アリシア”にやきもちを焼いたりはしません…

七徳の法衣をまといしこの者を…

これは…盟約の儀…!いやだよ…!母さん…!お願い止めて!

我が盟約者とせよ…

止めて!いつまでも私の母さんでいて!

君よ…

母さん…!話を聞いて…!

心優しき…

母さん…

心優しき…金色(こんじき)の閃光となれ…

母…さん…

これで…おしまいね…何もかも…二つ名(魔道師としての称号)を得たお前はもう…後戻りは出来ないわ…あなたも…そして私も…

こんな…こんなのって…

喜びなさい…フェイト…これは…これはアリシアを否定したお前(フェイト)が選んだ道なのよ…だから…

違うよ…!私は…私が魔法を覚えようと思ったのは…ずっと…ずっと母さんと一緒にいたいと思ったから…母さんのようになりたかったから…!

私はお前のことが…

母さん…私はまだ子供だったから…自分のことしか考えられなかったんだよ…私は…アリシアのままでよかった筈なんだ…母さんとずっと一緒にいられるなら…

お前のことが大嫌いだったのよ…





 
「母さん!!」

痛いほどの日の光が背の高い窓ガラスから差し込んでいた。小春日和の美しい朝だった。

「また夢…」

薄いレースの天蓋を通して人影がゆっくりと近付いてくるのが分かった。

「目が覚めたか?テスタロッサ卿。どうした?今朝の目覚めはあまりよくなかったらしいな」


プレアデス…

「い…いえ…」

「悪い夢でも見たと申すのか?ん?ふふふ…寝起きのそなたも随分とかわいいではないか…」

何に対する抵抗なのか…私は自分の顎に当てられたほっそりとした白い“末娘”の指から首を振って逃れた。


「まあそうムキになるでない。起こしたことは謝ろう。だが賓客に貸し与えるゲストハウス(
※ 正しくは英語でSecondary Suiteというが言葉の通りが悪いのでこちらを使用する)とは違って母屋に逗留する者はたとい客であろうとも女主人に生活の基準を合わせねばならぬ。ま、そなたは特別の中の特別だ。主人の間の向こうに食事を用意させてある。すぐに着替えてくるがよい。略装で構わぬぞ」



「今日はそなた達にしっかりと働いてもらわねばならぬ。そうだ。よいことを思いついた。特別にそなたの使い魔にも同席を許そうではないか。これは大変な名誉だぞ?ありがたく受けるがよい」

返事も聞かずに瀟洒(しょうしゃ)な緋色のドレスを着た“末娘”は足取りも軽やかに私の寝室を後にする。その後姿を見送りながら私はため息を一つついていた。

盟約の儀…か…

13th piece / Fire and Brimstone-2

 

私が母屋の主人の間にほど近い少人数だけで朝食やブランチを楽しむことが出来るこじんまりとした部屋に姿を見せると“末娘”は旧来の友人を迎えるように愛好を崩して立ち上がって私の腕を取り、そして引っ張るようにして席へと促した。

不思議な人…我がままでプライドが高くて言いたい放題なのに…でも嫌いじゃないな…こういう子…

隣にはアルフが座っていた。アルフは全く表情を動かさず、ただ黙々と目の前に置かれた銀食器の中のドッグフードに手を伸ばしていた。私はそっと頭を撫でてやる。

この部屋に入るのは何年ぶりだろう…“離れ”に追い出されて以来、かな…

「お茶のお替りは如何でございますか?テスタロッサ卿」

記憶の襞(ひだ)を探るように部屋を眺め回していた私は不意に声をかけられて不必要に焦る。“末娘”からヴィンセントと呼ばれている漆黒のフロックコートに身を包んだ長身の男性が立っていた。

「あ…あの…い、頂きます…」

「畏まりました」

自分の肩口辺りで豊かに立つ芳香に思わず酔いしれる。三十半ばだろうか、落ち着いた物腰と肩にかかる栗色の髪が印象的な紳士、という感じだった。父親という存在を知らない私が自分よりも年上の男性と自然に接するのは物凄く難しかった。

ふと、右肩に“黄金の双頭竜”と“槍と戦斧” の紋章をあしらった金糸の刺繍が付いているのが目に留まる。使用人という職業が一般的でなくなった現代のミッドでは違和感の方が先立つけど、中産階級が台頭する以前は多くの地方領主達にとって従僕(※ Footman /英)たちは財産の一種だったらしい。自家の紋章を縫い付けるのはある意味で“刻印”のようなものだ。現代と違って昔は使用人と使い魔の境界は極めてあやふやだ。

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます…」

このヴィンセントさんは“末娘”のButler(※ 英/執事、使用人頭)という紹介を受けていた。メイドたちが部屋の入り口まで銀色に輝くワゴンで運んでくる料理やデザートを女主人と賓客に給仕するのは使用人頭のみに許された名誉ある仕事…なのだそうだ。

母さんが住んでいた時には人気が全くなかった筈の母屋に、今、一体どれだけの人がいるのだろう…

「あ、あの…」

「何か粗相がございましたか?」

「い、いえ…美味しいですね…この紅茶…なんか花の様な果物の様な…とても不思議な香りがしますね?」

「これは…お目が高いですな。さすがは黄天のテスタロッサ卿。今朝届いたばかりのロンドクリフト産のロイヤルリーフの新茶でございます」

「は、はあ…」

ど、どこよ…そこ…全然聞いたことないし…

「ははは。ヴィンセントが淹(い)れた茶ばかりを褒めておっては料理長のローザ・ルイーゼが焼きもちを妬くというものよ、テスタロッサ卿。この新鮮なスズキを使った料理も悪くはあるまい?」

「あの…前から気になっていたんですけど…その卿(きょう)というのは止めて頂けませんか?」

「これは異なことを…何故(なにゆえ)だ?」

「何故って…その…なんか落ち着かないし…私はそんな柄ではありませんから…」

「やれやれ…またその話か…あの薄汚い牢獄から救い出し、この“庭園”にそなたを連れて戻った時にも申し渡した筈だぞ?わらわはそなたの“帰還“を認め、絶えて久しかった我が父フォノンの眷属の筆頭にして黄天の大魔道師テスタロッサの名跡を正式にそなたが継ぐことを許す、とな。この地に侍(はべ)る我が家臣や使用人どもがそなたに敬意を払い、尊ぶのは当然のことよ。のう?我が執事ヴィンセントよ?」

「はっ。不肖の私めも高名なテスタロッサ家に所縁の方とお目にかかることが出来、光栄に存じます」

「まあ…もっともテスタロッサと呼ぶよりもカスティルローゼの方がわらわにとってもここの皆にとっても馴染み深い発音ではあるのだが…そなたの時代ではそうだと申すのだからこれに倣うより他あるまい」

「で、でも…現代(いま)にあまりそういうものは馴染みませんし…やっぱり…」

「馴染まぬ、か…それはまったく望外の言葉よ…フェイト・テスタロッサよ…そなたは少々誤解しておるようだな…」

「え…誤解?」

「本来、名と申すものはの…草や木に付けられた“名称(名詞、呼び名)”とは似て非なるものよ。その者に相応しき“価値”と“栄誉”を具象化したる、言霊の宿りし先祖伝来の“財産”が名である。それを否定するかの如き言動や逆に下劣極まる名乗りを上げて無下に扱うことはそなたの父母、先祖に対する無礼に留まらず、主筋に対する重大な僭越(せんえつ)である…その罪、万死に値しようぞ?」

「ご、ごめんなさい!で、でも…」

「でも、は余計だ!!思い上がるでない!!小娘が!!」

「こ…そんなに変わりませんよね…?私達(年齢的な意味で)…たぶんですけど…」

「う、うるさい!うるさい!うるさい!こ、こういうことに…と、歳は関係ないのだ!!///

「ふふふ…」

「な、何がおかしいのか!テスタロッサ卿!わ、わらわは今、そなたに説教いたしておる!」

「い、いえ…可笑しくて笑っているのではありません。そうですね。あなたの仰るとおりです。正しいことを正しいと伝えてその人を諭すのに老いも若きも、上も下も関係ありません」

「ははは!確かに妙齢のご令嬢同士で小娘はございませんな…ははは、おっと失礼致しました…」

「ヴィンセント…お前まで…」

眩い光に包まれる懐かしい部屋に溢れる笑い声はどこか心地よく、そして少し切なかった。

かつて私は心が折れそうになっていた時に同じ様な言葉をかけられて救われたんだ…あの子達に…

「もしも道を間違えたら僕達がフェイトさんを叱ってちゃんと連れ戻します!」

でも…もう私にはいないんだ…あの子達も…

生まれるべきではなかった命を受けた私は最初から間違いだらけだったのかもしれない。その私が与えられた名前はスカリエッティが言っていた様に単なるプロジェクト名、“フェイト(Fate / 諦観的運命)”だ。その名が全てを示すように私は…全てを諦めるべきだったのだろうか…

フェイトという“存在”とは一体何なのか?

それを求めてしまった私は母さんから認められたい一心で魔法を覚え、そして自覚のないまま魔道師となってしまい、挙げ句に母さんを壊してしまった。アリシアと呼ばれたあの日…あの時に私もどこか歯車が狂ってしまったのかもしれない。あの時…私が自分というものを強く意識しなければ…あるいは…

そう思わずにはいられない。そう考えなかった日はただの一度もない。私はその全てに背を向けるために新しい自分を始めようとしていた。そして自分の周囲の人に頼り、縋りきっていた。でも…どこまでいってもどこにも“私”という存在は無い。砂漠にしみこむ水のように積み上げるものは貪欲に虚無の中に飲み込まれてしまう。歪んでいたんだ…何もかもが…

最初が間違っていれば導き出される結論もまた間違いになる…単純な公理のはずだ。

「そうだ。テスタロッサ卿よ。庭に出てはみぬか?」

「え…庭ですか?」

「食後の散歩に付き合えと申しておるのだ。浮かぬ顔をしておるそなたにもよき気晴らしとなろう?それにわらわもそなたに幾つか聞きたいこともある。なに、難しい話をしようというのではない。レディー同士の秘め事よ…くっくっく」

「は、はぁ…」

嫌な予感しかしない…




大陸の南端に位置するアルトセイム地方はクラナガンに比べれば穏やかで温暖な地域だ。

とはいえ季節はまだ二月の末…ショールだけでは肌寒くて私達はコートを着て母屋の外に出る。

「いつ見ても惚れ惚れするほど見事な庭園よ…特にあのガゼボ(※ gazebo/英:西洋風の東屋)からの眺めには感嘆しか漏れぬ…4月に入れば蕾(つぼみ)どもは一斉に綻び始め…5月の声を聞く頃にはこの庭園が馥郁(ふくいく)たるバラの芳香かつてバラは貴族達にとって貴重な収入源だったに包まれるかと思うともう…わらわの心は今から軽やかに(ワルツ)ステップを踏み出すのよ!ははは!」

「ちょ、ちょっと!あの…わ、私…踊れな…」

“末娘”はいきなり私の両手を取ると強引に引っ張り回し始めた。

「どうした?テスタロッサ卿?ステップの一つも踏めぬようでは教養豊かで確かな殿御を射止めることなど出来ぬぞ?卿(けい)も我が姉クルタスのように(結婚に)失敗しとうはなかろう?いま思えばマグニア義兄上の取り得は無骨で奔放という自由人気質だけよ。読書好きの姉上であったが流石に男の選び方までは書物に書いてなかったと見える。ははは!かようなことを申すとアルハザードに戻った暁にはわらわは姉上の長~くてうんざりする説教を聞く羽目になろうかの?ふふふ」

「く、クルタスの男選び…ってちょっと!それかなり失礼…」

現代のミッドでは“クルタス”は勉強、あるいは仕事しか出来ない女性を揶揄(やゆ)する言葉としてすっかり定着してしまっている。本来は努力家の代名詞である筈のクルタスもこれではさぞ不本意だろう。

「あーあ、よく笑った…今日はなんとよき日か…これほど愉快だったのは久しぶりじゃ…感謝するぞテスタロッサ卿」

「プレアデス…」

私達は庭園全体を見渡すことが出来る東屋からの光景を暫くの間、眺めていた。

ここの何もかもが懐かしい…母さんの愛した庭…

「で?時にそなた…ヴィンセントのことを好いておろう?」

「え゙っ…や、藪から棒にな、なにを言い出すんですか!あなたは! ///

物思いに耽っていると“末娘”は思い出したかのように私に意地悪そうな笑みを浮かべた顔を向けてきていた。

「ふふふ。図星か?卿はよくよく隠し事が出来ぬ性質(たち)と見えるな。顔を見ておればよっぽどのノロマでない限りそなたの心は手に取るように分かるわ。何の術もいらぬ。はっはっは!」

「ちょ、ちょっと…!い、いい加減なことを言うと怒りますよ?」

顔から火が出る…まさにそんな形容がぴったりだった。暦の上では既に春でもそれを実感するにはまだ冷たいアルトセイムの風も私の熱を冷ます助けに全くならなかった。

「そなたも初心(うぶ)よの、テスタロッサ卿…それでは先が思いやられる。恋も戦(いくさ)も駆け引きが肝要…くっくっく…下心を巧みに隠した強(したた)かな狼の如き殿御の手にかかれば夜会などでそなたは格好の好餌(こうじ)となろう」

な、なによ…!人を子ども扱いして…!わ、私だって飲み会くらい……あ、あれ?ほとんどはやてと二人だし…!

「よ、よ、余計なお世話です!それに勝手に決め付けないで下さい!ほ、ホントに何でもありませんから!」

「ほう?ならば我が見立てに狂いがあったのかや?」

「そ、それは…その…ちょっとだけ…なんというか…素敵だなぁ…とは思ったり…思わなかったり…」

「(どっちだよ…)まあ…ならば卿には友人として忠告しておかねばならぬな。悪いことは言わぬ。あの者のことは諦めよ」

「え…き、急にそんなことを言われても…どう…反応していいのか…」

冷や水を浴びせられたような…いや…そもそも一体今まで何に対して舞い上がっていたのかもあやふやなまま、私は不意に自分に向けられた“末娘”の背中を見詰めた。

「アルトセイムの(バラの)大輪は早咲きで有名だが流石にまだ今日は“獅子の日(2月28日)”…蕾たちもまだ固く口を閉ざして引き篭もっておる…そなたの心のようにな…その固く固く閉じた蕾が僅かばかりの温もりに触れて息吹を吹き返すのは悪い話ではない。恋路は女の最たる嗜(たしな)みじゃ。出来ればそなたのよき友として協力したいと思うが、人にはそれぞれ持って生まれた“分際(※ 身のほど)”というものがある。意味無き者がこの地上で生を受ける故が無いようにの…あの者とは深い仲にならぬことじゃな…」

「ど、どうして…?」

自分でも意識しないまま、ほとんど反射的に聞き返していた。変な方向に話が進んでいるという気持ちが強かったけど、今は自分の胸を突いて出てくる疑問の方が遥かに勝っていた。

「住む世界が違いすぎることが一つ…そしていま一つは…あの者はヒマノスの末裔、すなわちただの人間であるということよ…卿(けい)は紛いなりにも魔道師でありアルハザードの眷属の一角を暖める者…関われば結局傷つくのはそなただ…」

「ご忠告は感謝します。仮に私がヴィンセントさんに好意を持っていたと仮定して…どうしてそれが私を傷つけるのでしょうか?私だって、ただのにんげ…」

ただの人間…プロジェクトFの残滓である私が本当にそう言い切っていいのだろうか…

“末娘”は急に立ち上がるとゆっくりと振り向いた。透き通った真紅の瞳に今まで見たこともないほどの悲哀の色を湛えているが分かった。

天上のアルハザードにおいてもっとも情深く…そして愛深き故に“名”を奪われたといわれる雷神の末娘…名前は“価値”と“栄誉”を形にしたものと私に諭した張本人に呼びかけられるべき名前がない…

プレアデスとは元々、雷神フォノンの住まう館があるとされる場所のことだ。そこには黄道系魔道師の魔力の源泉である、“フォトンバンド”があると言われている。自分の生まれ故郷をただ名乗っているに過ぎなかった。

「そなたはわらわにとって特別な存在じゃ…だからあえて申すのだ…名を奪われたこの身を嘆いたことはただの一度も無い…だがの…幾年(いくとせ)が過ぎ去り…かつてわらわが燃え盛る松明と共に降り立ったこの大地も今では無残に変わり果て…わらわの愛したものは、もはやこの地上に何も残ってはおらぬ…そなたなら我が心の渇きも分かる筈だ…一人は…もう飽(あ)いたのだ…長い間、ずっと一人であった…この地上に残るべき理由などもうないのだ…」

同じだった…もう…ここに残る理由などない…そう思っている私と何処までも…

“末娘”が言外に何を言いたいのか、少しずつ分かってきた気がした。人間には魔法資質に恵まれる人と全く魔法が使えない人の二種類がある。それが遺伝によるものなのか、後天的なものなのか、未だに解明されていなかった。分かっていることは“リンカーコア”の強さに大きな個体差があることだけだった。でも…それが人間の価値や尊厳を決めてしまっていた不幸な時代がかつてあった。古代ミッドチルダの封建時代がまさにそれだった。現代では魔道師はただの“才能”のように扱われているけど魔法資質に恵まれない人たちから見ればやはり大きく劣等感を刺激してしまう。“魔法”という存在は“使える“、”使えない“に関わらず人々の心に何らかの影を落とすものだ。

母さんが魔道師という生き方に苦しんだように…私も魔道師としての道に迷い、そして自分を見失ってしまっている…それと同じ様なことが形を変えてこの地上で巡り巡っている…ヴィンセントさんもきっと何かを失ってしまったんだろう…エリオやキャロだってそうだ…二人とも持って生まれた“力”のせいで翻弄されていた…そんな二人が私の影響を受けて魔道師の道に入ってしまい、しかも私は二人を止めるどころか、結局、盟約者となって“二つ名”を与えてしまった…

私という存在はやはり…“Fate”という名が示すように周囲の人々の運命をも巻き込んでしまうのだろうか…ならばいっそ…生まれるべきでなかった私は…元の姿に還るべきなんだ…

「テスタロッサ卿…卿(けい)は胸を張り、そして誇るがよい。そなたの名…“フェイト(Fate)”はそなたが思っておるほど恥ずべき“名“ではない。信じるがよい。その名を与えたそなたの母を…」

「か、母さん…を…信…じる」

「プレシア・テスタロッサ卿は善き魔道師であった…信じるのだ…そなたの母を…」

「で、でも…母さんは…母さんは…私を捨てた…」

止め処なく流れる涙を私はとても堪えることが出来ず、思わず冷たい石畳の上に両手をついて跪いていた。

「善き“名”を授かり…そして…盟約の儀で麗しき“二つ名”を卿は母親より与えられた…だからこそ…そなたもそなたの“盟約者”に善き二つ名を与えることが出来たのだ…我が父フォノンの御名においてな…卿が己が本分に目覚める時…きっとそなたの使い魔も“意思”を取り戻すであろう…さあ、面(おもて)を上げて立つがよい…」

母さん…キャロ…エリオ…アルフ…わ、私はどうすれば…ここに来たのは…プレアデスを自首させるためじゃなかったの…?でも…私は…私という存在が間違いだったのなら…

「テスタロッサ卿…同じ過ちは繰り返してはならぬ。そなたを縛る不遇の時、不毛の地の鎖を今こそ断ち切れ!闇を貫く雷神の槍、我がバルディエルに、そなたの友、夜を切り裂く閃光の戦斧バルディッシュを合わせよ!」

だ、だめ…私…もうだめだよ…一人で生きられるほど強くないもの…一人はもう嫌なんだ…

「勇ましく鳴り響け!轟雷の如き我が陣触れよ!出でよ!雷神の聖なる将兵たちよ!時は来た!雷神の名を継ぎし我は命ずる!我が聖地を侵したる愚昧なるヒマノスの末裔に聖なる雷を振り下ろせ!」

庭園の上空に雲霞(うんか)の様に傀儡兵たちが現れる。

「さあ…行こうぞ…テスタロッサ卿…我らが戦場へ…卿が奪われた盟約者を我らの手に取り戻すのだ…」

「え…エリオと…キャロを…?」

「そうだ。そなたの盟約者は我が眷属も同様よ。身の程も弁えぬ痴れ者共より奪い返し、共にアルハザードの道を拓き、そして全てを無へと返すのだ!」

そうだ…すべてが間違いだったのなら…私があの子たちのために出来るだけのことを…

「行くぞ!我が精鋭よ!我が戦士よ!金色の双頭竜の旗の下、汝らが槍と戦斧を今こそ勇ましくかき鳴らせ!我が将に加わったテスタロッサ卿に先陣の名誉を与える!」

「はい…その役目…お受けします…!」


金の閃光


新暦77年2月28日の日も西に沈みつつあった頃、折からの犯行予告で厳戒態勢を敷いていたミッド戦勝記念スタジアム全域に突如として魔道機械の兵団が現れた、という報告を警戒中の武装局員から受けていた。

「魔道機械やって!?今までに全然ないパターンやんか!ほんならこっちの待ち伏せ作戦は看破されてるってことやな!緊急指令!総員、戦闘態勢!迎撃や!一匹たりともスタジアムに近付けたらアカン!」

「りょ、了解!」

「画像出せるか?急いでこっちに回しや!」

陸士特捜部司令室のモニターを見ていたリンディさんとなのはちゃんが呆然と呟く。

「ま、まさか…そんな…」

「二人とも…何か見覚えでも?あの魔道機械に…」

どうしたものかと思い悩む素振りを見せていたリンディさんとなのはちゃんの後ろからクロノ君の声が聞こえてきた。

「はやて…あれは間違いなく傀儡兵だ…」

「く…傀儡兵…?」

「ああ、間違いない。昔、PT事件でプレシア・テスタロッサが使役していた…ガジェット・ドローンのような魔道機械というよりも、どちらかというと高い知性を持った召喚獣の類だ。Sランク相当の魔道師でも複数に囲まれれば手こずる…かなり手強い相手だぞ…あれは…一般の武装局員ではとても警戒線を維持することは不可能だろう…」

「プレシア・テスタロッサ…そ、そうか…あれがフェイトちゃんの…」

さすがにリンディさんを目の前にして“本当のオカン”みたいな表現は憚られたが誰もが同じことを頭に思い描いているに違いない。ただ…それを声に出してしまったら“何かが終わってしまう”ような、奇妙な強迫観念に囚われていた。

せやけど…なんやろか…この“詰んだ”感じ…

「第一警戒ライン突破されました!!と、とても歯が立ちません!」

「くっ!!悩んでる暇なんてあらへん!!」

どうする…地区政府のお偉方と繋がっていた地下組織と交戦中のフォワードチームを呼び戻すか…いや、拘留中のオッサン連中の自白が期待できへんだけに出来ればあいつらを討ち洩らしたくない…かといってザフィーラとリインだけでここを抑えるのは無理や…

「よし…私が出るで!後の指揮はなのh…」

「はやてちゃん!私もスタジアムに行くよ!いいね!」

「は?ちょ、てかはやっ!」

振り返ると既になのはちゃんは白いバリアジャケット(しかもエクシードモード/純戦闘形態)に変身し終わっている姿が目に飛び込んでくる。いきなり出鼻を挫かれた私は口をパクパクさせるしかなかった。

やだ…このコ…めっちゃ全力全開やん(殺る気的な意味で)…つか、速攻仕掛けたくらいで私が「うん」とか言うとでも…

「分かった!なのは!ここの指揮は僕に任せろ!」

おい!そっちかい!自分!クロノ君、偉くなってもやっぱ空気読めへん性格(キャラ)は相変わらずや!

「ありがとう!クロノ君!早く行こう!はやてちゃん!あれ?まだ着替えてなかったの!?」

「ちょ、おま…えっ!?はぁ!?」

な、なんやのこの二人!?ツッコミが追いつかへん!!

「あーもう!!どうにでもなれ!!せやけどなのはちゃん!!絶対撃ったらアカンで!!絶対やで!!」

「分かってるって!!」

局の地上本部を飛び出した私となのはちゃんの元に間髪入れずに最も恐れていた情報が飛び込んできた。フェイトちゃんが次元法院附属医療センターを4日前の2月24日に“脱走”していた事実が判明したのだ。

「なんでそんな大事なこと今まで黙ってたんや!!アホ!!」

「も、申し訳ありません!次元法院始まって以来の大失態ということもあって今の今まで医療スタッフが見て見ぬ振りを続けていたようです…」

「ちっ!もうええ!この落とし前はきっちり付けたる!」

オペレーターを叱り飛ばしても仕方が無いことは百も承知だったけどそれでも私は何かを叫ばずにいられない心境だった。正直、私には“裏切られた”という想いしかなかったけど、私の隣を全速力で飛んでいるなのはちゃんは何も言わず、ただじっと一点の曇りもない瞳でスタジアムの方角だけを見据えていた。

今更ながらに思うけど…ホンマに強いなぁ…なのはちゃんは…

状況の全てが無言の内にフェイトちゃんが“真っ黒”だと告げているにも関わらず、恐らくこの瞬間、この子だけは世界でただ一人、あの子のことを信じ続けてるんや。そんなことを考えている内にすぐに臨海特区の上空に差し掛かる。街のあちこちから黒煙が幾筋も立ち上っていた。

「見えた!司令室!こちらロングアーチ01!目的地を肉眼で確認や!」

「はやてちゃん!私はスタジアムの左から最前線に合流して戦線を維持するから!右から法撃サポートお願い!敵前面の戦列を潰して!」

な、なんやの…これ…!?怒り…寂しさ…ありとあらゆる感情が入り混じってる筈やのに…この戦術眼の確かさは…

「悔しいほど完璧やな!“Ace of ace“は伊達やないことがよー分かったわ!リイン!!こっちに上がって来や!!射撃管制!!唸れよ!シュベルトクロイツ!」

眼下に決壊寸前の最終ラインが見える…文字通り薄氷を踏むような危うい状況…それでも…

「信じるんや!!来よ!!猛き戦火!!ry」

ついに戦いの火蓋は切って落とされた…



第13話 完 / つづく
 

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