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第十六話 Farewell (さよなら…:中篇)


 推奨BGM : 深海の孤独


新暦77年3月3日…名も無き乙女が地上に降臨したと伝わるその日…
古代より続く因縁に終止符が打たれる…


黄天の大魔法陣

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末娘は、情深く、禁断の園に入りて火をヒマノスに伝える
天上を追われてその名を失い、大地は七日の内に火に包まれる

 

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16th piece / Farewell-2

 
金色の閃光が奔る…深い眠りに付く街に…

孤独という闇の中、逆巻く悲哀を乗り越えて…


気を失っているユーノ達がいる博物館から陸士部隊の首都駐屯地は距離にして僅か5km、天を駆ける雷光ならそれはほんの一瞬でしかない。広大な敷地が瞬間移動のように目前に迫る。

キャロ…もう時間がない…

次の瞬間、目に見えない強い力でいきなり横殴りの雨が降る闇夜に投げ出されていた。

「な、なに…!?これ…まさか、古代ベルカ式の広域結界…」

あの子に重傷を負わされた はやて にこんな強力な結界が張れる魔力が残っている訳…

そうか…これは騎士カリム、ね…さっきユーノも騎士カリムがここ(クラナガン)に来ていたって言っていたわね…

考える暇もなく静まり返っていた首都にけたたましい警報音が鳴り響く。エリオたちのことが既に伝わっていることは考えられない。5分…いや、3分も経っていないのだから。はやて たちが“プレアデス”の奇襲を警戒して既に周到な臨戦態勢を取っていると考えるべきだった。これでは罠の中にわざわざ飛び込んでいくようなものだ。


それに加えて古代ベルカの結界内では“Lightning”はおろか、神代ミッドの術式は効果が半減してしまう。でも…

「是非もなし…私に残された時間は…もう無いんだから!行くよ!バルディッシュ!バカな私に今までずっと…ありがとう…お前は本当にいい子だった…」

「Sir…」

「そして…私の友と対をなすバルディエルも…私に力を貸して…!」

「Yes, your highness!」

右手に戦斧、左手に神槍をそれぞれ握ると、脇目も振らずに結界目指して突っ込んで行った。

「はあああああ!!砕けろ!!」

ありったけの魔力をバルディッシュに集中して結界に向って何度も何度も叩きつける。当代一流の結界術者が張ったものを破るのは並大抵のことではない。コードを解析するか、こうして地道に直接破壊するしかない。

額を伝う滝のような雫が汗なのか雨なのか、全く分からなかった。

それに…結界は…なにも堅守だけが目的じゃない…

やがて背後から航空機動隊所属の魔道師達が迫ってくる。100…いや既に後方の魔力反応は1000を超えていた。

思った通りの展開ね…相手を足止めしておいて後詰が背後に回りこむ時間を稼ぐことにも利用出来る…
 
それはさしずめ雄叫びを上げながら銃剣デバイスを振りかざす古代の北方系(騎馬民族)の魔導竜騎兵(Sorcery Dragoon)の群れのようだった。

次々と放たれる法撃が弾幕となり、容赦なく私の背中に降り注いでくる。

たかが一人のために首都航空隊が総出か…大袈裟なことね…バルディエル!Lightning Square(雷の方陣)!我が行く手を遮る者達を撃ちおと…いや…追い返せ!」

「Yes, your highness!」

神槍の穂先から次々と光の槍が生まれ、大小様々な槍衾(やりぶすま)が現れた。私一人に向って殺到する空士達の目の前に立ちはだかるとたちまち双方で激しい撃ち合いが始まる。

かつてこのクラナガンの地でプレアデス大神殿を守るためにアルトセイムの魔導師達が戦い、壮絶な最期を遂げたという伝承が残っている。敵方の根拠地の奥深くに乗り込んだ彼らも絶望的な戦力差の中で戦ったに違いない。英国陸軍の方陣(Square)

己の信じる道を友にして…

私は今…何を信じているのだろうか…
 
「今のうちに…バルディエルが防いでいるうちに行くよ!バルディッシュ!もう一息だ!」

背中に容赦なく降り注いでくる魔弾の雨…被弾した場所が火傷のように熱かった。

痛みを堪えて渾身の力をバルディッシュに込める。

「砕け散れぇぇぇ!!」

巨大な結界が音を立てて崩れていく。ついにバルディッシュが結界に穴を開けた。

これで(結界の)残留魔力が消えれば…それまでの辛抱だ…

結界内に飛び込むと今度は待ち構えていた陸士たちの対空法撃が一斉に火を吹いた。パルス弾、誘導弾、果てはチェーンバインドまでが嵐のように襲い掛かってくる。全く無秩序な弾幕の嵐に一瞬、鼻白む。結界を命綱とでも認識していたのか、地上はまるで恐慌状態だった。イレギュラーな弾筋ほどかえって回避が難しい。

私はここに戦いに来たわけじゃない…かつての仲間をこれ以上傷つけるつもりもない…全てが無に還るために…私に繋がる“因縁”を断つ為…未来のある子たちがこれ以上、自分の人生を狂わさないで済むように…!

例え撃墜されるほど強力じゃなくても当れば非力な私から確実に体力を削り取っていった。一発、また一発とバリアジャケットに傷を付けていく。身体の節々が痛む。

 「バルディッシュ!!WAS展開!!我を導け!!キャロの元に!!」

「Yes, Sir…」

かつて…この漆黒のローブ…プレアデスの七徳(七罪)の法衣を纏って…誰も望まない、そして誰も幸せにならないと分かっていながら”盟約の儀”を交わした親子がいた…


フェイト・テスタロッサ……君よ……心優しき……金色の閃光となれ……

キャロ・ル・ルシエ……君よ……心優しき……白銀の風となれ……



結局…私は…バカだ…昔も…そして今も…!!

「キャロー!!」


「Sir!WAS is successful. Start to direct to the target!」

「…」

「Sir?

地上施設を眼下に捉える頃には目を開けているのが難しいほど流血していた。

「…大丈夫…行こう…キャロが待ってる…」

 


 
「あそこか…病院は…」
 
でも…どうして病院なんかにいるんだろう…どこか具合でも悪くなったのか…繊細な子だし…神経性の…

高度を下げていた私に今度は屈強な陸士達がそれぞれの得物を振りかざして白兵戦を挑んでくる。

「はっ!」

「いたぞ!!プレアデスだ!!バラバラにしてやれ!!」

プレアデス…そうか…だったらこの慌てぶりも納得ね…結界さえなければ全て穏便に事は済んだ筈なのに!!

次々と襲い掛かってくる荒ぶる男達の刃を危ういタイミングで受け止める度に、バルディッシュを握る私の両腕は痺れ、そして悲鳴を上げた。

「この空域に結界の残留魔力があるうちに仕留めるんだ!!」

「くっ!!」

やっぱり…力勝負になると私に不利だ…どうする…逃げの一手もこれだけの囲みの中ではそうそう打てない…

結界魔力がまだ残留する中でも近代ミッド式の“Sonic move”なら問題なく使える。

仕方が無い…

「押し通る!!!ザンバー!!!せいやあああ!!!」

一人、また一人と立ちはだかる相手を打ち払う。不毛な戦いが続く。

 



 
「はぁ…はぁ…何やってるんだろ…私…」

ようやくの思いで病棟の屋上に降り立った時には既に鮮血があちこちから滴り落ちる有様だった。

「Sir…I recommend to leave here immediately…」

「だい…じょうぶ…だよ…まだ…」

「Sir…So please…」

「大丈夫って言ってるんだよ!!私は!!」

「…」

「ごめん…なさい…」

リニス…でも…泣き虫だった私をいつも優しく抱き締めてくれていた貴女なら分かってくれる筈…今の私の気持ち…あの子達を巻き込みたくないという思い…

バルディッシュを杖代わりにして雨に打たれていると、今度は装甲服に身を纏った局員の輪が二重、三重に私を包囲する。

「息を…整える暇もないなんて…忙しいな…」

苦笑いするしかなかった。

「そこまでです!武装を解除して下さい!フェイトさん!」
 
どこかで聞き覚えのある透き通るような女の人の声だった。

いま…確かに私の名前を…なぜ…?

声の主を求めて左右に慎重に目を向けていると、包囲の輪の中から一人の武装局員が突然進み出る。思わず身構える私の目の前でその局員はいきなりヘルメットを脱ぎ捨てた。綺麗な長い髪が無機質な照明弾の下で広がる。

「お久しぶりです…フェイトさん…」

「ギンガさん…?あなたの部隊もここに…」

滝のような雨に照明弾の光が乱反射する。よく見ると囲みを作る全員が陸士108部隊のエンブレムを装甲服に付けていた。

「まさか…Breaker(※ 高出力魔力砲)はおろか、誘導弾一発すら放つことなく、この包囲網をデバイス一本で突破されるなんて…色々な意味で型破りなんですね…フェイトさんは…」

「私は…貴方達と…戦いに来たわけじゃない…でも…重傷者が出たかもしれません…加減はしたつもりです…」

「そんなことを考えながら…最強を誇る陸士の主力部隊と戦っていたんですか…?傷の具合もあまりよくないみたいですね…一人でここまで戦えばもう十分に誇りも武威も示せた筈です…お願いです。無駄な抵抗は止めて頂けませんか?」

「情けは無用です…それに…今の私には誇りも…名も…今更どうでもいい…」

「フェイトさん…もう一度だけ言います…お願いです…投降して下さい…私は…命の恩人である貴女と戦いたくない…」

雨の音しかしなかった。ほんの僅かな静寂が辺りを包む。こんな状況で、いやだからこそ切実な彼女の思いは痛いほど伝わってきていた。でも…

「もう…後戻りは出来ない…なすべきをなす…それが貴女の問いに対する私の答えです…」

「どうして…どうしてそこまで…一体…何が…優しかった貴女をそこまで狂気に駆り立てるんですか!!クラナガン、いえ、ミッドチルダの全てをどうして滅ぼすことに拘るんですか!!」

目にかかる生温い血と雨のせいで彼女の姿を正視することは難しかった。しかし、怒りのような闘志が彼女の中で湧き立ち始めているのが分かった。

「ミ…ミッドチルダを滅ぼす…?ギンガさん…あなたが何を言っているのか分からない…それは…どういう意味…?」

叩きつける様な怒気を孕んだ言葉の後、降りしきる雨の中で私を見るギンガの眼光は鋭くなる一方だった。

「とぼけないで下さい!!騎士カリムとユーノ司書長が言っていました!!今までにこのクラナガンにプレアデスが打ち込んだ魔力坑の座標から考えて黄天の大魔法陣、虚無の陣、だって!!フォトンバンドのエネルギーをこの首都クラナガンに召喚することが目的だって!!」

そこまで聞いてようやくギンガの怒りの源泉に思い至る。

確かに…ギンガの言うことは間違っていない。召喚したエネルギーを万が一にアルハザードではなく、この地上に向けて発動させたとすれば、首都はおろか、このミッドチルダの全て、生きとし生きるものを完全に焼き尽くすというのも空絵事ではない。雷神フォノンが破壊と再生の露払いを司るとされる所以でもあった。

「貴女が言う通り…これは私達、“黄天の魔道師”の間に古くから伝わる“虚無の陣”…それは否定しません…でも…それはここを、いえ、ミッドチルダを直ちに滅ぼすものでは…」

ない…

私の望み…それは解き放たれる大魔力が発動している虚無の陣身を投げて全てを無に還えすことだ…忌まわしいアルハザードの秘術で生み出された人工生命に関するものは全てこの地上から一掃することが可能になる…それに…あの子(雷神の末娘)だってアルハザードに戻りたいだけだと言っていた…まさか…ミッドチルダを滅ぼすなんて…そんなことが…

「仮にフェイトさん…貴女にその心算はなくても…肝心のプレアデスはどうなんですか!プレアデスと行動を共にしているのは何故なんですか!!こうして防衛隊の駐屯地を襲撃する理由は何なんですか!!説明できますか!?貴女が史上最悪の次元犯罪者の走狗(そうく)となっていることに変わりはないじゃないですか!」

「そ…それは…」

二の句が継げないとはまさにこのことだった。

召喚されたフォトンバンドのエネルギーの全てをアルハザードへの道を拓くため、その封印を解くために使うという保証は…確かに…ない…

あんた、お人好し過ぎるんだよ…ちったあ人を疑うということも覚えたらどうなんだ?

そなたの心を読むのに何の術もいらぬ…

ま…まさか…首都に“虚無の陣”が敷かれていることを自分に都合よく考えすぎていたのだろうか…

姉達のほとんどが嫁いではいるとはいえ、“プレアデス”の館に住まう雷神フォノンの後継者たる“末娘”が帰るべき場所は考えてみれば“アルハザード(主上なる神の住まう都)”ではない。それに「名を奪われたことを後悔していない」とあの時に言っていたあの子が望郷の念に駆られるというのも不自然と言えばそうかもしれない。むしろ、首都クラナガンは聖地たる雷神の神殿を汚し、アルトセイムに、陵辱の限りを尽くした歴史を踏まえれば、末娘にとって屈辱を与えた怨恨の象徴でしかない。

望郷の思いも一入よ…

あの言葉…懐かしんでいたんじゃない…ミッドチルダが“無”に還るから離れざるを得ない…!!そう考えるほうがむしろ自然なんじゃ…

「どうなんです!!フェイトさん!!」

何処まで…愚かなんだ…私は…

自分がとことん情けない…もう、流す涙すら無かった。

死ねない…私は…まだ死ねない…!!“プレアデス”を…いえ… “フェリノ”を止めなきゃ!!

「自分の始末は…私一人で付けます!!でも、そのために私はここでなさねばならないことをする!!ギンガさん!!ここは押し通る!!」

今はとにかくキャロに…!!自分の不始末にこれ以上…巻き込んではいけない…!!そしてミッドチルダを…守らなきゃ…!!

「それが貴女の答えですか…ならば…これ以上、自由にしておくわけにはいきません!!フェイトさん!!覚悟!!」

バルディッシュとギンガさんから繰り出された渾身の一撃がぶつかり合った衝撃で周囲していた局員が次々に吹き飛んでいく。私を睨みつけていたギンガの視線がほんの一瞬だけ僅かに左にそれた。

そうか…そういうこと、か…

反射的に反対側にプロテクションを発動させるやいなや、まるで刺客のように音も無く背後から迫っていたスバルの拳が打ち込まれてきた。

「フェイトさん!!ここまでです!!うらあああ!!」

「くっ…!スバル!!やっぱり…コンビネーション!!」

「まさか…っ!!ふ、防がれた!?」

「まだだ!!まだ終わってねえよ!!ギンねえ!!打ち抜く!!」

つ、強い…抜かれる…

スバルが私のプロテクションを打ち砕く。間一髪のところで直撃は免れたもののスバルの拳がわき腹を僅かに抉る。熱い。激痛が走る。

肋骨を…やられた…でも…まだ…

「まだだ!!スバル!!この程度で私は墜せないよ!!」

「ええっ!!ま、まさか!!まだ動ける!?薄いけど手応えは…確かにあったのに!!なら…これなら!!」

振り向き様に繰り出される足払いをかわし、背後から入るギンガのサポートをバルディッシュで受ける。ギンガと入れ替わるように今度はスバルが猛烈なラッシュを私に浴びせかけてくる。叩きつける様な激しい闘志と強い突破の意思…まるで…昔の自分を見ているようだった。それだけに…昔の私は“いなし”には脆かった。

「速攻は…前に進むだけじゃ続かない!!スバル!!」

パンチのラッシュを左に流し、すれ違い様にバルディッシュでスバルの足を払うと堪らず水飛沫を上げながら倒れ込んだ。

「う、うわ!!し、しまっ…」

私もこうやって学んだ…何度も…何度も…

「まだまだ!!」

転倒したスバルとの間にギンガが割って入ると、いきなり懐に一撃を入れてきた。バルディッシュで辛うじてそれを弾き返すと体勢を立て直したスバルがギンガのラッシュに加わる。

スピード…いや、何よりも…この緻密に組み立てられた二人の連携…!なんて凄い…フロントアタッカーはこの位、元気があった方が丁度いいのかも…

相手に息を付かせない姉妹の四肢が防戦一方の私に襲い掛かってくる。若い才能は確実に育っている。何故か、充足感のような安心を感じていた。

感心している場合じゃない、か…

スバルに砕かれた肋骨が火の様に熱かった。もう痛みすら感じなくなりつつあった。

目が…霞んで…きた…

お互いがお互いを補完するような動きの中に僅かに見える一瞬の隙間、その小さな活路を常人が突くことはほぼ不可能だった。雷光の如く駆け抜けられる最後の一人を除いて…

ベルカの残留結界の中でも…Sub-lightningは…なんとしてもキャロに届かないといけないんだ!!この私は!!そして…“プレアデス”を…!!

「止める!!Sub-Lightning!!」

熱を帯びた赤い光跡を従えて大地を蹴る。ギンガの拳が頬を掠めた。不思議だった。あれほど“死”というものに恐怖を感じていた筈の自分が、今はそれに対して何の感慨も浮かばないなんて。

これが…向き合うということなのかしら…”死”と…

スバルの膝蹴りをかわす。二人の間を駆け抜ける。

「ゼロ距離なら…Astonish Rage!!」

折り重なるようにして倒れる気配を背中で感じながら、口の中に堪っていた血を水溜りに吐いた。降りしきる雨を見上げると上空ではまだバルディエルと空士達の激しい撃ち合いが続いている。

「い、意識が…飛ばないうちに早く…片付けないと…」

鉛のように重たい身体を引き摺りながら真っ暗な病院の中に私は足を踏み入れていた。




 
「ユーノ君!ユーノ君!」

「んん…あ、あれ?な、なのは…どうして…君がここに…病院にいたはずじゃ…」

「よかった…本当によかった…お水をかけても全然起きないからどうしようかと思って…気が気じゃなかったんだよ?」

「そ、そうなんだ…つか…」

まるで泳いできたみたいに上から下まで全身がびしょびしょなのは…何でなんだ…

僕を抱きかかえている なのは の傍らに、いつもこの部屋を掃除してくれるおばちゃんが使う大きなバケツが転がっていた。 “お水をかけた”っていうか…水攻めの拷問に近い放水量に暫くの間、僕は絶句するしかなかった。

「どうやら…かなり…心配かけちゃったみたいだね…」

「ホントだよ…!バカ…!バカ…!」

いきなり なのは が僕に取り縋って泣き始める。その姿を見て僕は胸が痛んだ。陳腐なプライドでしたことではないけど、自分の身勝手な独身意識を窘められるみたいで複雑な心境だった。

何をやってるんだ…僕は…最愛の人の事すら思いやれないんじゃ…フェイトを説得できないのも当然だ…

「そうだ…こうしちゃいられない!なのは!駐屯地に向ったフェイトは今、どうなってるんだ!」

「え?フェイトちゃんが駐屯地に!?じゃ、じゃあ…騎士カリムの張った結界に引っかかったのはプレアデスじゃないの!?ユーノ君の仕事場もターゲットになってるって話だったから私、心配でここに駆けつけたんだけど…」

「なんだって?!なんて事だ…仲間同士で争ってる場合じゃない!いいかい…なのは、よく聞いて…フェイトは…フェイトはね、首都に敷かれた“虚無の陣”に身を投げて死ぬ心算なんだ!やっぱりプレアデスに完全に与していたわけじゃなかったんだよ!」

「フェイトちゃんが…どうして死ななきゃならないの?」

「分からない!分からないけど…そうしなければならない理由があるに違いない!それはきっとプロジェクトFに何か関係があるだと思う!」

「大変…こうしてはいられない…早く…フェイトちゃんのところに戻らないと!」

「頼む…なのは…僕はこのままで大丈夫だから…早くキャロのところに!」

「え?キャロ?なんでキャロなの?」

「フェイトが今…ここ(首都)にいるのは“第七の杭“を打つことが目的じゃない…電撃を受けて夢うつつの状態だったけど…フェイトはそこに倒れているエリオ君との盟約を解消していたんだ…」

「めい…やく…?」

「そ、そうか…なのははこっち(ミッド)の出身じゃないから分からないかもしれないけど…ミッドの魔導師はみんな“盟約の儀”を交わしてから役所に届出をすることになってるんだ…大昔、魔導師が自派の術式を後世に伝えるために作り出したギルドシステムの名残なんだけど…」

「えー!?そんなの聞いてないよ!!じゃあヴィヴィオは?ヴィヴィオはどうなるの!?」

「ちょ、ちょっと…なのは…く、くるし…全力全開で首絞めたら…し、死んじゃう…常識的に考えて…」

女性が母性に目覚めると凄まじいとは聞いていたけど…これほどとは…大丈夫なのか…結婚生活ってやつは…

「ヴィ、ヴィヴィオは…ベルカの術者だから“盟約”の替りに聖王教会で“洗礼”を受けてる…だ、第一、住民登録の時に出自を書く欄があったと思うけど…覚えてない?」

「…」

「…覚えてないのはよく分かったよ…ま、まあ、とにかく、魔導師登録の用件は出自によって違うから“盟約の儀”は必須要件とは限らないってことだよ」

「じゃあ…私はどうなるの?そんな事なにもしてないし、誰も何も言ってなかったよ?もしかしてバグッてるの?」

「なのは は…えっと…ごめん…管理外世界の出身者のことはよく分からないや…」

「ちょ…来週、式場の下見に行くのに!行政手続きに不備があったらどうするの!」

「そ、そんなややこしい話は後だよ!なのは!今はフェイトをどうにかする方が先決だ!普通は問題になることはないけれど旧家になると先代の因縁や宿業などを“盟約”によって背負い込むと言われているんだ。フェイトはきっと過去の因縁からエリオ君やキャロを切り離すために盟約関係を解消しに来てるんだよ。魔法陣が完成する前に。」

「分かった。キャロのところに行けばフェイトちゃんに会える筈なんだね!色々納得いかないけど早く戻らなきゃだね!」

「頼んだよ…なのは…」

僕は小さくなっていく なのは の後姿を見えなくなるまでずっと見送っていた。

・ 


なのは さんが飛び出して行った病室に一人で残っていた私は不安な気持ちを抑えて窓の外を見ていた。私の頭の上に乗った眠ったままのフリードはとても重たかった。

「お外が大変なことになってるよ…フリード…」

突然、後ろから小さくドアをノックする音が聞こえてきた。

「ひゃっ…だ、誰ですか…?」

返事は返ってこなかった。ドアの摺ガラス越しに眩しい金色のような明かりが灯っているのが見える。“プレアデス“らしき不審者が騎士カリムの張った結界を破ったせいで病院全体に消灯命令が出ているのに。誰もいない真っ暗な病室の中で私は思わず身構えた。フリードも起き上がってドアの方をじっと見詰めている。

どうしよう…エリオ君もこんな時にいないし…

「…キャロ…」

信じられなかった。とても弱々しくて小さい声だったけど、それは間違いなく私が一番会いたかった人の声だった。嬉しいのか、哀しいのか、色んな気持ちがいっぺんに込み上げて来てどうしていいのか、分からなくなってしまった。

「フェイトさん…フェイトさん!!」

誰が来ても絶対に開けるなとティアさんから言われていたにも関わらず、私は居ても立ってもいられなかった。ティアさんが用心のために仕掛けていた魔力トラップを外してドアを開けると、そこには…
ボロボロのバリアジャケットを着て、全身血だらけになっているフェイトさんがデバイスを支えにした状態で立っていた。

「キャロ…」

部屋に入ろうとしたフェイトさんがいきなりガックリと膝を落とす。

「フェイトさん!大丈夫ですか?い、いま…すぐに治療を…」

あまりにも酷い姿を見てパニック状態になる私を静かにフェイトさんは手で制した。

「大丈夫…これくらい…痛みには慣れているから…」

「そんなのウソです!こんな酷いのに…大丈夫なわけないですよ!」

涙がどんどん出てきてどうしようもなかった。

役立たずと言われ続けていた私も…ささやかで小さな自信を自然保護隊の仕事を通して育てていた。少しは成長して強くなった私を見て欲しい、そう思って、ここまでやって来たのに…やっぱり…私は…ダメな子だった…

フリードが心配そうに私を見上げている。

フェイトさんに会うともう、何も考えられなくなって…今まで我慢していた寂しさが一気に爆発してしまっていた。会いたかったフェイトさんの前で私は、ただ立っているしかなくて…泣き続けるしかなかった。

「キャロ…大きくなったね…」

フェイトさんの手が私の頭にそっと載せられる。

「ヒック…ヒック…身長…全然…変わりません…エリオ君が悪いんです…全部…ヒック…」

「そっか…女の子に意地悪するのはよくないね…エリオにはよく言っておかないとね…」

涙でグチャグチャになったまま私はフェイトさんに飛びついていた。優しく、包み込むように抱き締めてくれたフェイトさんの身体はとても冷たくて、まるで氷のようだった。

「うー!うー!うー!うぇぇ…ど、どうして…どうして…フェイトさん…私達を呼んだくせに…ちっとも…連絡してくれないし…」

「…私が…君達をここに…そうか…そういうことか…ごめんね、キャロ…私が…私がバカだったんだ…」

「フェイトさん…!ヒック…ヒック…」

「本当にごめんね…キャロ…君達にまでこんなに辛い思いをさせてしまって…私がちょうど今の君と同じ年の時に…自分だけは…子供を泣かしたりする大人にはならないって…思っていたのに…何もかもがダメだね…私は…」

「そんなこと…ありません…!絶対…!フェイトさんは…今も…私やエリオ君の…」

「キャロ…私のことは…もう忘れて欲しい…私は…君達が思うほど立派な人間では…」

「立派とか…ダメとか…そんなの…関係ないです!フェイトさんはフェイトさんじゃないですか!どうして…それだけじゃ…ダメなんですか?立派じゃなくたっていい…いつも傍にいるって…言ってくれたフェイトさんがいいんです…!」

「キャ…キャロ…」

窓の外の激しい戦闘がまるで遠い世界の出来事みたいだった。冷たい病院の床にしゃがみ込んだまま私も泣いていた。フェイトさんも泣いていた。

「フェイトさん…帰ってきてください…お願いです…」

「もう決めたことなんだ…キャロ…私は行かないといけない…私がここにいる限り…周りの人を不幸にしてしまう…そして、その不幸はいつかきっと巡り巡って君やエリオも巻き込んでしまうに違いない…もう…私は…君たちとは一緒には…いられない…」

「そんなの嫌です!!フェイトさんが人を不幸にするなんてあり得ないです!!思いこみです!!」

「キャロ…これは思い込みという次元を超えているんだよ…もし、はやて か なのは に会ったら伝えて欲しい…特別拘置所のジェイル・スカリエッティはまだプロジェクトFについて全てを語っていない、と…」

「ジェ…イル…」

「それが…私がプレアデスと行動を共にしている理由なんだ…世の中にはね、取り返しのつかない事があるだよ…そして、後戻りが出来ないことも…償っても償いきれない事だってある…それは全部…私の…人間の“弱さ”なんだ…弱い人間を責めても強くはならない…生まれ変われるわけじゃないから…弱い人間にはね、私は私でしかない、と言い切れるほどの“自分”というものがないんだ…だから弱いんだ…自分で自分というものが分からない…生きている理由すらも…」

「フェイトさん…」

「それが…弱い人間の成れの果てが…今の私…間違いからは間違いしか生まれない…償いきれないと分かっていても償うしかない…だから私は行かないといけないんだ…心残りは一杯ある…やり残した事もたくさん…でも…もう、終わりにしたいんだ…こういうのは私で最後にしたい…」

フェイトさんはもう泣いていなかった。私を励ますように優しく微笑んでいた。いつものように。

「キャロ…君もいつか道に迷って自分を見失ってしまうことがあるかもしれない…でも忘れないで…自分の信じた道がもし間違っていると分かったのなら…卑怯者と言われてもいいから…それを捨て去る勇気を持ちなさい…それが…本当の“強さ”なんだ…それは決して恥かしい事じゃない…」

「フェイトさんも…間違いに気が付いたなら…やり直せば…」

「私の場合…間違いが多すぎた…やり直しが効かないほど…」

「そんなの嫌です!!」

「君は優しい子だね…キャロ…自分に寂しい思いをさせて、そして無責任に立ち去ろうとしている、身勝手な私の心配ばかり…君はきっと素晴らしい“癒し手”になる…人を惑わし、傷つける魔導師とは違う生き方を君は見つけなさい…」

「フェ、フェイトさん!な、なにを!」

フェイトさんの目が鋭くなるといきなりデバイスが私の喉笛に突きつけられた。

「さようなら…キャロ…」

部屋が一瞬明るくなる。軽い衝撃を首筋に感じると同時にどんどんと意識が遠のいていった。

「い、いや…」

ダメだ…寝ちゃダメだよ…眠ってしまったら…また…フェイトさんも私も…一人になっちゃう…

「心優しき白銀の風…キャロ・ル・ルシエ…今、ここに汝との我が盟約は今、解かれたり…」

フェイト…さん…

「さよなら…ごめんね…」



 
第16話 完 / つづく

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