忍者ブログ

「魔法少女リリカルなのは」などの二次作品やオリジナル作品を公開しているテキストサイトです。二次創作などにご興味のない方はご遠慮下さい。

[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

第十二話 Fire and Brimstone (永久の断罪:前篇)


君よ…心優しき…金色の閃光となれ…
哀しみの大河を渡り…失われし主上の住まう都(アルハザード)へと至るべし…

拍手

12th piece / Fire and Brimstone-1


新暦77年2月27日 17:30 PM
クラナガン西臨海特区12番街 ミッドチルダ戦勝記念スタジアム
 
眼下に広がる火の海を見詰める私の胸には何の感慨も浮かばなかった。

ただ…もう後には引けない以上、私は前に進むしかない…全てを捨て去って進むしかない…

形振り構わずジュエルシードを求め、そして遮二無二(しゃにむに)主上なる神の住まう失われた場所を目指した母さんもそうするより他に選択肢が無かったに違いない。自分という存在がアリシアの替りで…ただの依り代…人形だったことを知らされた私は一度壊れ、あの子に名前を呼ばれて“自分の存在する意味”を求めるようになった。でも…

私はやはり…何でもなかった…あの子が母さんの替わりになっていただけだった…あの子を奪われ、失い…そして、エリオとキャロも奪われた私が…これ以上…ここ(地上)にいる理由はない…

「だったら…還るしかない…自分が本来あるべき姿に…」

「ご苦労であったな。テスタロッサ卿(きょう)。それにその忠実なる盾、アルフよ。そなたらの今日の働きは大願成就の暁にきっと篤く賞し、その労に相応しき報いを必ずや与えるであろう。これで我が第六の結界は完成した。残るはあと一つ…いよいよ大魔法陣も完成間近…この時をどんなに待ちわびたことか…今までの不毛なる日々を思えば望郷の想いも一入(ひとしお)よ…」

私の隣で同じ様に燃え盛るスタジアムを見下ろすプレアデス…いや、名を奪われし雷神の末娘は目を細めていた。漆黒のローブと黄金に輝くドレスのようなバリアジャケットに身を包み、右手には雷神の槍“バルディウス”が握られている。

「まだ…あなたの魔法陣は完成したわけではありませんし…相手にもこちらの意図を掴まれてしまいました…恐らく次は厳しい戦いになるでしょう…油断は禁物です…」

「ん?黄天の大魔道師の末裔である卿(けい)ともあろうものが何を恐れることがあろう。例え我らの目的がこの地に七つの大魔力杭を打って主上なる神の元に…アルハザードへの帰還の道を開く大魔法陣を構築することにあると分かったところできゃつらには何も出来まいに」

綺麗な長い金髪がミッドの夕日を反射し、アリシアのようにも自分のようにも見える真っ白な横顔が紅蓮の炎に照らされて朱色に染まっていた。

「いえ…百戦して百勝するに能(あた)わず…アルトセイムの古い言葉です。たった一度の負けで全てを失いかねないことは魔道に生きる者なら骨身に沁みています。あなたは知らないだけです…あの子の恐ろしさを…」

「あの子?ああ…卿が恐れているのはあの白き魔道師のことか?」

「ええ…かつて…私はあの子に負けました…それも…完膚なきまでに…」

「ほう…それはなかなか興味深い告白ではないか。あの者がそなたを打ち負かしたとは俄かには信じがたいが…それほどの使い手とはな…だが今日、そなたが勝ったではないか?まあ、止めを刺さなかったことをわらわも訝しく思っておったが、それを聞いてようやく得心がいった」

“プレアデス”は口元に不敵な笑いを浮かべると正面に向き直って私の方に視線を向けてきた。

「負かした相手からは術式から果ては命に至るまでその全てを奪い取るのが魔道に生きるものの作法…近頃の魔道師は手ぬるいと思っておったが、卿は過日の不覚の借りを返した、とあの者に言いたかったのであろう?そなたも律儀よの…」

「いえ…今日は…あの子に戦う気がなかっただけです…勝ったとは思っていません…」

「なに?魔道師同士が相見えながら戦うつもりがなかったと申すのか?互いに法具(デバイス)を携え、切り結びながら相手を打倒する意思がなかったと…そんな戯言(ざれごと)を誰が信じるものか…」

戯言、か…確かに…魔道師を自称するものの常識に照らせば私達二人はどうかしている…初めて私があの子に出会った時も戦意が乏しくて、敵意を全く感じなかったことに戸惑いを覚えたっけ…戦いを挑む私にあの子は何度も何度も語りかけてきた…結局、魔道師になりきれなかった私も、相手を憎むことを知らないあの子も…同じくらい魔道師らしくないのかもしれないな…

私の内省は隣から聞こえてきた大きなため息の音でかき消される。

「つまらぬ…卿と話しておったら折角の興も冷めるというものよ…わらわは館に帰ってゆっくりと湯浴(ゆあ)みを取ることにする…後のことはそなたに任せたぞ、テスタロッサ卿…」

不機嫌そうな呟(つぶや)きとほとんど同時に夜の帳がおり始めたクラナガンに雷鳴が響く。今は“プレアデス”と呼ぶしかない雷神の末娘の姿はもうそこにはなかった。今度は私がため息を付く番だった。

「勝手な人…自分が召喚したものくらい自分でどうにかして欲しいな…仕方が無い…心優しき金色(こんじき)の閃光、フェイト・テスタロッサが命ずる!!下がれ!!傀儡兵の戦列よ!!」

スタジアムの周囲で武装局員と激しい戦闘を繰り広げていた傀儡兵たちが一体、また一体と姿を消して行くのが遠めにも見える。ふと何かの気配を背後に感じた私が振り返るとそこには空ろな目をしたアルフが立っていた。

「アルフ…さあ、私達も帰ろうか…母さんが大好きだったお庭に…」

私はそっとアルフの手を握った。




話は少し遡(さかのぼ)る…
 
新暦77年2月20日
首都クラナガン 時空管理局地上本部 陸士部隊特捜部内会議室
 
「ほんなら洗いざらい全てを自白したっちゅうことやな…それでティア…シャーリーの様子は今どないや?」

「はい…すっかり意気消沈しておられて…その…私達が知っているシャーリーさんっぽくないっていうか…何と言いますか…適当な言葉が浮かびません…」

シャーリーさんの身柄を確保した後の取調べは、本人からの希望もあって私が担当していた。シャーリーさんの逮捕の事実は世間はおろか、局内でも厳重に情報管制が敷かれていた。無理もない。シャーリーさんが感情の抑制が効いた口調でぽつぽつと語る内容は、その落ち着いた物腰からはとても想像出来ないような驚愕の…いや、天変地異くらいは言っていいだろう…とにかく、一人で調書をまとめるには空恐ろしい内容ばかりだった。

ミッドではどんな犯罪者でも弁護士を取り調べに際して同伴させることが出来る権利を有している。その替りに取調官を排除した事前接見は出来ない仕組みになっていて、取調べの可視化が全て犯罪者に有利にならならず、罪は罪として償(つぐな)わせるための配慮と人格の尊重というバランスが保たれている。

所謂(いわゆる)、正義の女神クルタスが浮気性の夫を断罪する際、己の所業を一切悔い改めることなくその場を“偽証”によって切り抜けようとした”被告人”の不義を糾弾した時に残したとされる言葉、“赦し難きを赦す替りにその罪は全身全霊を以(も)って償わねばならず、また犯したる過ちを悔い改めず逃れようとせし者は炎(正義)の刃を以ってこれを討(う)つべし”、に由来(ゆらい)する制度だ。人の権利、人権のみを過度に擁護、主張する社会は必ず堕落し、そして腐敗するからだ。こういうところにも“氷の血流”は脈づいていた。

シャーリーさんは自分の傍(かたわ)らでブルブルと震える顔面蒼白状態の弁護人を尻目に、ほとんど自白というよりも“告発”に近い発言をしていた。それはJS事件発生の根底をなす“プロジェクトF”に局の上層部が深く関わっていた、という内容だった。しかも、その黒幕が…今の執務総監…次期局長の最右翼と目される人物の関与を仄(ほの)めかす内容だけに執務補佐官になりたての私では如何にも手に余った。

こんな時にあの人がいてくれたら…

甘えだとは分かっていてもそう思わずにはいられなかった。そんな私の気持ちを察したのか、膨大な調書を前に半ば呆然としていた私にシャーリーさんが八神元部隊長の陸士特捜部経由でアコース査察官にコンタクトするルートをアドバイスしてくれた。

「シャ、シャ、シャリオ・フィニーノさん!あ、貴女は…ご、ご自分の立場を分かってらっしゃるのですか!?取調べ中の発言は全て記録されて…後になって修正すると印象悪化は避けられませんよ?」

今にも卒倒しそうな弁護人は完全に放置され、冷たくて痛々しい手錠が嵌(は)められた両手でシャーリーさんは私の手をそっと優しく握ってきた。その手はとても暖かかった。

「ティア…一つ覚えておくことがある…ティアは補佐官になって…自分の夢の実現に一歩大きく踏み出したわ…このままの調子で行けばきっと執務官試験もクリアできる…でも、残念だけど“正義”や“正論”だけじゃ世の中は正せない…私はそのいい例だよ…」

「シャーリー…さん…」

「組織の中にはそういったものを…人の命や尊厳をも紙くずか何かのようにいとも簡単に踏み躙(にじ)る人たちがいる…そんな“歪み”もまた世の中なんだよ…だから…正しいことをする人がいつも報(むく)われるとは限らないんだよ…」

本当に大切なことは目に見えないんだよ…

六課で問題を起こしてなのはさんと一時期気まずい状態になった時、私にシャーリーさんはそう教えてくれた。その大きな瞳から溢(あふ)れてくる涙を私はとても正視する事が出来なかった。

どうして…どうしてこんなことになるんだろう…世の中は何かが間違っている…果たして私が目指した正義とはどんな道だったのだろうか…美しすぎるほど気高い心を持ったこの人が罪に問われ…そして、優しすぎて不器用であるが故に誤解される人が獄に繋がれている…

その一方で真に裁きを受けるべき人間が権力の座に付いてのうのうと過ごしている現実は私にとって“氷の血流”とは何なのか、人が本当に人を裁くことが出来るのか、今更ながらに迷った。

「ティーダ・ランスター空尉は…貴女のお兄さんはね…だから殺されたんだよ…」

「えっ………」

あ、兄貴のことを…な、なんで…!?

「執務官を目指して夜学に通いながら…やっとの思いで補佐官になったティアのお兄さんはね…犬死なんかじゃなかったんだよ…お兄さんは局の上層部が深く関与していた違法魔道実験のリベート汚職事件で知ってはいけないことを知ってしまった…だから…違法魔道師との争いで殉職したように見せかけられて…」

「そ、そんな……もしかしてシャ、シャーリーさん!?まさか…私のために…」

「もう証言することはこれでなくなっちゃった…ティア…事件の記録は全部、フェイトさんのオフィスのキャビネットの中に入っているよ…いずれ時機を見てフェイトさんと告発するつもりだったんだけど…執務総監の目が光ってる限り私達にそのチャンスが無いことがわかったんだ…おかしいよね?真実が分かったとしても…自分達が正しいって分かっていても…“合法的”に裁くことが出来ない人が存在しているんだよ…世の中には…」

「バカです…こんなの…不器用すぎますよ…お二人とも…きっと…きっともっとどうにか出来た筈なのに…何でこうなるんですか!!」

だから…この人は…プレアデス事件を“天啓”と言ったんだ…そして…

「シャーリーさんは…プレアデスからの手紙が…実はフェイトさんの自作自演だと思ったんですね…?だから、フェイトさんのことも庇いたかった…情報の小出しと発信のタイミングを不自然にコントロールしたのはフェイトさんのアリバイ工作の意味もあった…でも、違ったんですね?フェイトさんが拘置されている筈なのに“第六の事件”を示唆する手紙が届いた…だから…注意喚起のために“予告”をあんなに早く出したんですね?いや…この場で口に出せないウチの上層部に引導を渡すためでもある…違いますか?」

シャーリーさんは僅かに口元に笑みを浮かべるとそれ以上何も言わなかった。私はこれから始まる執務官キャリアの中でここまで“高潔な被告人”に出会うことはない、そんな気がした。プレアデスがフェイトさんじゃないと分かってこの人の緊張の線はどこかが切れてしまったのだろう。あんなに完璧に隠蔽工作していた筈なのに…いや、もしかしたら見つかることを半分は期待したのかもしれない。

これだけプレアデス事件のことで世間が騒いでいるんだ…少なくとも局の上層部の人間を摘発できなくても首だけは挿(す)げ替えることが出来る。半分はこの人の目的を達成したことになる。だからこの人は捕まったんだ。

罪を償うためだけに…

シャーリーさんの証言によって拘置されているフェイトさんが連続テロ実行犯“プレアデス”と同一人物であるという線は薄まる。恐らく、無許可個人飛行、魔道師同士の私闘、及び公務執行妨害で穏便に済ませることが出来る可能性も出てきた(
※ ミッドでは魔道師同士の私闘を双方が認めた場合、傷害罪、殺人罪は適応されず、私闘禁止法違反の規定が適応される。これはあくまで双方が存命である場合に限られ、一方が死亡した場合は私闘を証明出来ないため通常刑法が適応される)。

私の報告を聞いていた元部隊長の口から小さなため息が漏れた。

「そうか…ま、しゃあないな…こうなってしまった以上は…JS事件を契機とした局内改革の動きもいつの間にかうやむやになってしもうて、私ら若手を中心に不満の声が少なくないことは聞いとったから心配はしとったんやけどね…私の力不足で残念な結果になってしまって…本当に申し訳なく思います…」

「いや、それは筋が違うな、はやて…本来、局内の網紀粛正は僕達査察官の本務だからね。JS事件の局内の浄化が上手く進まなかったのはむしろ僕が責任を…」

「い、いえ!そんなことは!決して…お二人にはむしろシャーリーさんも感謝していたくらいで…その…あの…」

部屋には八神元部隊長の他にもアコース査察官、ユーノ司書長、ミッドチルダ行政府キャリアに転身したグリフィスさん、そしてなのはさんの姿もあった。

「それにしても…なのはちゃんがえらく自信満々に自分に考えがあるとか言うからどんな手を使うんかと思うとったけど…まさか…こういう事とはなぁ…」

ため息交じりに八神元部隊長が隣に立っているなのはさんに呆れたような視線を送る。でも、その目に非難の色などあるはずもなく、むしろ懐かしんでいるような雰囲気があった。

「にゃははは…ご、ごめんね、はやてちゃん…スバルだけに話したつもりだったんだけど…まさか元フォワードチーム全員が集まるなんて思わなかったっていうか…」

スバルが言っていた”上の指示”って”なのはさん”のことだったんだ…

戦技教導隊のなのはさんが陸士部隊所属のスバルに直接命令を下せる筈がない。スバルは適当な理由を作って”休暇”を取って私のところに上がり込んでいたんだろう。迂闊に外を出歩けなかったというのも頷ける。

とはいうものの…なのはさんと八神元部隊長の前に整列している私達四人…私以外に今までずっと居候状態だったスバルがここにいるのはまあ分かるとして…なんでちびっ子二人が、エリオとキャロまでいるんだよ。
どうせ、私の隣にいる馬鹿スバルが二人にも声をかけたに違いない。

どういう了見なんだか知らないけど後できっちり問い詰めてやる…とことん問い詰めてやる…小一時間は絶対に問い詰めるからね…馬鹿スバル…

ちょ…独り言なんだか思念通話なんだか分かんないけど…さっきから全部聞こえてるんですけど…こえーよ…ティア…(by スバル)

「とにかく…今のシャーリーの話は上層部の頭の挿げ替え程度で沙汰闇に出来るようなレベルを遥かに超えてる。これで執務総監以下の派閥の連中がなんで“執務官筋だけ”に拘ってこの事件を処理しようとしたかがよう分かったわ。あいつら…例の違法魔道実験のリベート汚職の発覚だけを恐れてるんとちゃうわ。局最大のタブーになっている“プロジェクトF”に深く関わってたんや。それがフェイトちゃんをマークしとった理由やろ…この上ない歩く証拠品であるフェイトちゃんの証言一つで自分達どころか、局自体が吹っ飛びかねんっちゅうわけや…保身もここに極まれりって感じやな。つくづく反吐が出るわ」

今、この部屋には元機動六課の主要メンバーのほとんどが揃っていた。こんな話を聞いて一体誰が引き下がるだろうか。

「相手が誰であれ関係ないよ。真っ直ぐ正面から不正を正して自分達の手で悪しきを挫(くじ)く!全力全開で!それが私達がここにいる理由だよね?はやてちゃん?」

なのはさんの目が怒りで燃えている。私はプレアデス事件の捜査本部の人間として組織的にはこの正規に編成されたわけじゃない寄せ集め集団の介入に本来は反対すべきなんだろう。

でも…私は執務補佐官ティアナ・ランスターである前に…元起動六課フォワードチームのリーダー…そして…

ふと私と目が合ったなのはさんがにっこりと微笑みかけると私に向って力強く頷いてみせる。

そうだ…私はこの人の教えを受けた一人でもある…

私も静かになのはさんに頷き返していた。それを見ていた八神元部隊長が口元に僅かに笑みを浮かべるとゆっくりと立ち上がった。

「どうやら決まりやな…相手が本気で潰しにきとんのや!遺憾の意で済ますほど私の度量は残念ながら広ろない!それが相手の選択ならそれでええやろ!受けて立ったる!」

「おう!!」

アコース査察官とユーノ司書長がやっぱりという顔をしながら両手を上げておどけて見せていた。

「現時刻を持って高町一等空尉以下元フォワードチーム四名を陸士特捜部の八神班の指揮下に置く。グリフィスは行政府筋から執政委員会(内閣に相当)に当該汚職事件の摘発の根回しに動くこと。特に国家安全保障局長官と治安公安局長官の支持の取り付けを!」

「了解しました!」

「その役目…私達も力になりますよ?八神陸佐」

突然、背後のドアが開いたかと思うとそこにはリインフォースⅡに案内されたリンディ・ハラオウン管理局総務総監とクロノ・ハラオウン次元艦隊司令官の姿があった。

「遅くなってスマン…はやて、なのは、みんな…ちょっと道が込んでてな(※ キョンの声で自動再生)」

「リンディ総監…クロノ司令…ご協力、感謝します」

八神元部隊長が深々と二人に頭を下げる。

前々から思っていたけど一体…この人の人脈はどうなってるんだ…チートってレベルじゃねえぞ…

「私は次元法院に局執務部に対する“ガサ”の特別令状請求をかける。令状取得と同時に高町空尉を隊長としたフォワードチームと私の陸士部隊で現場を強制家宅捜索!」

「了解!」

「それからロッサ…じゃなくてアコース査察官には…」

「了解だよ、はやて(※ 古泉の声)」

「ちょ…私はまだなんも言ってへんで?」

「僕が査察総監を説得、そしてクロノ君が“ウミ”と“リク”の総司令長官を動かせばここにおられるハラオウン総務総監と合わせて四票…つまり、執務総監の罷免動議を管理局常任幹部会にかければ局長の拒否権発動でもない限り賛成多数で可決される。有終の美を飾りたい局長が常任幹部会で拒否権を使うとはこのタイミングで思えないし…まあ、十中八九、決まり、だね」

「言うこと無し…完璧やな…なら改めて陸士特捜部隊長命令である!総員!出撃!」

八神元部隊長の号令で全員が駆け出してゆく…これだ…これがあるから人は諦めてはダメなんだ…最後の瞬間まで…!!
 




 
管理局創設以来、いやミッドチルダ史上、これほど世間を騒然とさせた事件があっただろうか。管理局の査察部と陸士特捜部を中心として実施された前代未聞の執務部の家宅捜索から一夜明けた翌、新暦77年2月21日は歴史に残る日となった。

巻き返しを図る執務総監一派の機先を制するようにミッドチルダ地区政府が管理局長に異例の徹底捜査を指示し、これを受けた局長が常任幹部会を招集、その場で執務総監は更迭された。ここまでは全て事前のシナリオ通りにことが進んだ。

事態が急変したのはその日の昼下がりだった。

「なんやて?全員出頭拒否かいな?ホンマに…最近のオッサンは往生際が悪いやっちゃなあ…」

罷免された執務(長)総監以下、部長執務官を始めとする局の幹部7名が重要参考人として陸士特捜部に呼ばれたが全員が出頭を拒否してきたのだ。重要参考人はあくまで逮捕の一歩手前の状態であるため任意同行になる。それでも私は追及の手を緩めなかった。

「しゃあないなぁ…極力、裏技は使いたくなかったけどこっちも退くに退けん戦いに出てるんや。ここではいそうですか、と言う訳にはいかへん!おっしゃ現場のティアに緊急連絡!プランB(別件逮捕)!全員しょっ引いて来るんや!」

元執務総監以外は特捜部の強硬姿勢を見て取ると多少の混乱はあったものの最後には大人しくなった。大捕り物になったのは自身もSクラスの魔道師である元執務総監の身柄確保だった。なのはちゃん指揮の元フォワードチームが重要参考人宅に踏み込むと本人は既に逃亡した後だった。

「単独で多重転移は相当な負担になるから…これは逃亡を手引きしている人たちがいるね…」

「局の転移ポート管理の網に引っかかってへんからクラナガンからは出てない筈や。付近の重点捜索をお願いするわ」

「うん。じゃあこっちは引き続きWAS(ワイドエリアサーチ)中心に捜索を続けます」

「了解や。あ、なのはちゃん」

「なに?」

「追跡中に得体の知れん連中が襲撃してきたって聞いたけど大丈夫なんか?」

「へーき!へーき!スバルたちが秒殺しちゃったから私の出る幕は全然無かったよ」

「そうか…そんならええんやけど…なのはちゃん、分かってると思うけどまだ病み上がりなんやし、くれぐれも…」

「大丈夫だよ!私は指揮に徹するから。法撃はしないよ。安心した?」

「うん…まあ…ちょっとだけやけどな…」

「なんか…信用ないなぁ…」

「当たり前や!自分!前科(ゆりかご戦)持ちやないか!心配するわ!ええか?なのはちゃんはもう自分一人やないんやから!ヴィヴィオちゃんやユーノ君のこととか…その…まあ、少しは周りのことも考えや」

「分かってるって!ありがとう…はやてちゃん…」

なのはちゃんとの思念通話が切れた後も特捜部司令室の喧騒の中で私は変な胸騒ぎを感じていた。

「アカン…信じるんや…なのはちゃんを…」

今は信じるしかない…そうや…信じるべきを信じられへんかったらどんな人間でも…(ダークサイドに)簡単に堕ちてまうやろ…そんなに人っちゅうもんは強くないし、基本的に誰もがそんな弱さを持ってるんや…

「なのはちゃん…無理したらアカンで…絶対…」

思い起こせば去年の12月14日…退院間近のなのはちゃんをお見舞いに行ったあの日から…全てが始まったんやなぁ…




「うっそー!?プ、プロポーズって…あ、あのユーノ君がか?ま、マジで?」

「うん…私もビックリしちゃった…急に言われたから…」

「それで、ユーノ君は何て言ってきたんや?」

「えー…ちょ、ちょっと恥かしいんだけど…」

「別にええやんか。悪い話やないし、減るもんでもないやん」

「か、顔近いし…なんかおばさんみたいだよ…はやてちゃん」

「あー!もう!そんなもったいぶってホンマにイライラするわ!」

「ちょっ、ちょっと…べ、別に大してロマンチックでもないよ?本当につまんないっていうか…」

「あのな自分…こういうのは同性としてはすっごい気になるねん!んで?何て言われたん?はよ言いや!」

「だ、だから…な、なのはと…ヴィヴィオと…その…一緒の家族になりたいって…ね?べ、別に大して面白くないでしょ?」

「うっわー!なにそれ?ちょっと遠回しすぎへんか?お前のことすっきやねんとかないん?なんかめっちゃ腹立つわ!それ!」

「は、はやてちゃんが言われたわけじゃないのに!いいじゃないの!別に!私が嬉しかったんだから!」

「ちょ…わたし嬉しかったぁ!とか、なにちゃっかり自分のろけてるねん!もう私お腹一杯やわ…」

バサッ……

「あれ?今…向こうの方でなんか音がしなかった?」

「音?あ、入り口のところに花が落ちてるやん…って…フェイトちゃん…?」




薄暗い病院の廊下の奥に走って消えてゆく後姿…あの時は確信がなかったけど今思えばやっぱフェイトちゃんはあの話を聞いてたんやろな…ケンカをした後で仲直りをしようと思った矢先にタイミングが悪かったかもしれへん…

更にあの後で追い討ちをかけるように第一の事件が発生…それから怒涛のように時間は過ぎ去っていった…そのプレアデス事件もいよいよ佳境に入って来たんや…

「高町班が逃亡中の目標を捕捉しました!目下、目標はクラナガン郊外に向けて北進中!」

オペレーター達の声で一気に室内の熱気が高まって行く。私はゆっくりと目を開けた。

私の勘が正しければ…一見して無関係なプロジェクトFに絡む局の汚職事件とこのプレアデス事件…最後のパズルのピースみたいにピタッと合う…その鍵を握るのが今、医療センターで治療中のフェイトちゃんや…

フェイトちゃんが入院したまま予告されている第六の事件が起これば、フェイトちゃんにかけられている容疑も完全に晴れるやろ…シャーリーの証言も確かに大きい証拠にはなるけど、ただでさえ物証に乏しい事件や…アリバイという物理的な事実は重くなる…それにフェイトちゃんの意識が戻ればプロジェクトFに関する証言も得られる…

「こちら特捜部別働隊、高町班所属のティアナ・ランスターです。逃亡中だった元執務総監一味の身柄を確保!」

ティアのよく通る声が司令室に響くと一斉にあちこちから歓声が上がる。

でも…まだ足らん…プレアデスとプロジェクトFを繋ぐ接点が…言い換えればそれは…私となのはちゃんとフェイトちゃんがお互いのことを“信じる心の強さ”でもあるんや…

「これで…ようやく最低限度の駒が揃ったわけやな…せやけど問題はこれからやな…」

身柄を確保したオッサン連中が素直に吐くとも思えんし…別件逮捕に切り替えてしまった以上、それに託けてこの件で頭の中を“強制査察”するわけにもいかん…やはり王手をかけるにはフェイトちゃんの協力ともう一つ…決定的な証拠が必要になる…

「ま、ゲームは誰かが始めよう言わへんといつまで経っても始まらへん…私らは走り出してるんやからな…先に足を止めたほうが負けや」

現場のなのはちゃん以下の元フォワードチーム、そして司令室の全員の視線が私に集まっていた。

「ほんなら始めようか?私らのゲーム(捜査)を…」

サイはもう既に投げられてる…もう誰も後戻りは出来ない…




 
断続的な法撃の音が深夜のオフィス街に響いていた。

「みんな状況報告を!」

「こっちは全部片付いたよ!ティア!」

「民間人を襲った逃亡中の犯人は空からフリードで追跡中です!」

スバルの声に引き続いてキャロの声が聞こえてくる。

「了解!ちびっ子二人はそのまま追跡を続けて!こちらは要保護者の身柄確保に成功。これから特捜本部へ連行…じゃ、なかった…同行を求めます。いいですね?エドさん。エド・フォレスターさん…」

暴漢に命を狙われたにも関わらず顔色一つ変えず、冷たいアスファルトの上で胡坐をかいている中年の男は懐からタバコを取り出すと悠々と火を付けていた。

「これって“任意”かい?お嬢ちゃん」

ちっ…メンドイことを…さすが自称記者だけあって場数は踏んでるみたい…

「…はい…これは“任意”です…ですが…」

「当局の捜査協力は市民の義務って言いたいのか?やれやれ…そいつは欺瞞もいいとこだぜ」

「ぐっ…!」

こ、このオヤジ…なんてヤな奴なんだ…ぶちのめしてぇ…!!

傍らでタバコの煙をふかしている中年男を私は思わず睨みつけていた。1分か、2分か、少しの沈黙が私達の間に流れる。結局、このしょぼくれた感じのオヤジを襲った暴漢は全員逮捕された。犯人の身柄を陸士部隊に引き渡し終わったスバルが私に合流してきても尚、この不毛な睨み合いは続いていた。スバルも異様な雰囲気を察したのか、私の後ろに立ったまま何も言ってこない。突然、火がついたままの吸殻が弧を描くように人気のない歩道の隅に投げ捨てられる。

「今日は何月何日だい?お嬢ちゃん」

「えっ…?えっと…確か2月23日ですけど?それが何か?」

突然、何を言い出すのかと思ったら…何なんだよ…こりゃ…

「ヤツラが身柄を拘束されてまだ二日でこのザマか…どうやら獅子の日まで生きていられる保証は無い、か…殺されちまったら元も子もないしなぁ…分かったよ…お嬢ちゃんの好きにしてくれ」

「ご協力…感謝します…」

頭を下げる私を尻目に残念な感じの中年オヤジは私達とは反対の方向にフラフラと歩き始めた。
あざっす!!
「あ、あのぅ…」

「なんだよ?」

「いえ、そっちじゃなくてこっちなんですけど?車…」

オヤジを呼び止めたのはスバルだった。

「そういうことは早く言ってくれよ…」

「へへへ!すみませ~ん!ささ、こっちですよ!はい!一名様ごあんなーいっと!」

決めた…今、決めた…この忌々しいクソオヤジの警護はスバルに任せよう…異論は認めない…



第12話 完 / つづく

PR
プロフィール
HN:
Togo
性別:
非公開
文句とかはここに
※事前承諾なしに頂いたコメント内容を公開することは一切ありません。
Copyright ©  -- Initial Fの肖像 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]