忍者ブログ

「魔法少女リリカルなのは」などの二次作品やオリジナル作品を公開しているテキストサイトです。二次創作などにご興味のない方はご遠慮下さい。

[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

第十一話 Fact (真実:後篇)


大丈夫だよ」~オリジナルサントラ集より

拍手

 11th piece / Fact-2


何もない…真っ白な空間が広がっていた…ここはどこ…

何処からともなく私を呼ぶ声がする…とても懐かしい声が聞こえる…

「フェイトさん…」

エ、エリオ…どうして…君が…ここに…?

「僕、騎士に…魔道師になりたいんです。フェイトさんみたいに誰かのことを護れるようになりたいんです!」

魔道…師……

「フェイトさん」

キャロ…

「あの…私決めたんです!」

な、何を…?

「ずっと考えていたんです。フェイトさんが前に私に何がしたいのか、何になりたいのか、それによって私の居場所が決まるよっておっしゃってくれたから…だから、私…召喚師を…魔道師の道を勉強したいんです。フェイトさんのようになりたいんです」

こ、これは一体……そうか…私は今、夢を見ているのか…昔のことを…

あの時…別々の場所にいる二人がまるで示し合わせたかのように魔道師になりたいと言い出した時は私にとってそれはとても大きな驚き…いやほとんどショックと言ってもよかった。正直、胸が張り裂けそうだったことを思い出す。そう…つい、昨日のことのように…

感情がすぐに顔には出てもはっきりと自分を主張できない私は異口同音に魔道師になりたいというこの子たちを目の前にして激しく動揺して…そしてオロオロしていたと思う。

どうして…どうして分かってくれないの…私は魔道師なんて…嫌いなのに…

傲慢な考え方なのは分かっている。でも、本音を言えばその一言に集約されてしまう。もし、私が強く反対していたら、あるいはあの子達は思い止まってくれただろうか。

いや…そんなことが私に出来る筈がない…

あの時、私は黙ってうつむくしかなかったんだ。身体が震えるほどの悲しみが込み上げてきているのに、必死に笑顔でその場を取り繕う自分に、魔道師としての自分に深く絶望している私に強い言葉が持てる筈がない。

結局…二人は魔道師の道をそれぞれ歩み始めた…

六課に二人を呼び寄せたのには理由があった。魔道師を目指すというならせめて二人を自分の目の届く場所で育てようと思ったからだ。JS事件が終わって六課をあの子達が“卒業”した今でも正直、私が勧めた普通学校に通わずに局に奉職していることを快くは思っていない。

世の中には魔道師以外の選択肢もある。正論に聞こえるけど言い換えれば私の一方的な願望でもあり、自分の過去に対する失望の裏返しでもある…法的保護者の私がこの子達に自分の考えを押し付けるのは二人の人格を否定するのも同じ…激しい葛藤、そして自己嫌悪…その繰り返し…

山道はやがて頂に通じる、という言葉がアルトセイムにはある。魔道の道は道に入るものをその極みへと導いていく。運命に抗うことは出来ない…私はやっぱり何も出来ないんだ…

「お願いします!僕、フェイトさんみたいになりたいんです!フェイトさんのようになって…」

や、やめて…エリオ…

「私…フェイトさんみたいに…人に優しく出来るように…」

キャロ…お願い…やめてってば…

「フェイトさんみたいに強くなりたい!!人を守れるようになりたい!!(※ 二人)」

だから!やめてって言ってるでしょ!!私は強くなんかないのよ!!泣き虫が虚勢を張ってるだけ!!誰のことも結局守れなかった!!救えなかった!!母さんのことも!なのはのことも!これからも…きっとそうに決まっている…無駄なのよ…結局…何をやっても無駄なんだから…



 
「母さーん!」

何もない真っ白な空間の中で耳を塞いでしゃがみ込んでいた私の傍らを今度は小さな女の子が駆け抜けていく。思わず顔を上げた私の目に飛び込んできた女の子の姿…それは緑豊かなアルトセイムの森の中を木漏れ日を浴びながら走る幼い頃の私だった。

ま、まさか……そんな…

「あらあら、どうしたの?フェイト…また、森の中で珍しい生き物でも見つけたの?」

か、母さん…母さんだ…

森の向こうから聞こえてきた声は間違いなく母さんの声だった。優しくて温かい…あの頃の母さんの声を聞いた私は全身の毛穴が広がっていくような感覚を感じていた。胸が締め付けられてとても息苦しくて…そして涙が次々と溢れてきた。自分の感情をとても抑えることが出来なかった。

気が付けば私は駆け出していた。そして…幼い自分の後を夢中で追いかけていた。朝起きればいつも私にリボンを付けてくれて、お休みの時は優しく私の髪を梳(と)いてくれた母さん。

一目…せめて一目でももう一度、母さんに出会えるなら…

私の前を走っている昔の私の髪が流れている。眩しい日差しを反射して輝いていた。そうだ。この時の私は“外”のことを何も知らなかった。母さんやリニスの優しさに甘えるだけ甘えていて、世の中には取り返しの付かないことがあることや“力”の行使には相応の“対価(責任)”を支払わなければならないことを。

森を抜けると急に視界が広がり、手入れの行き届いたバラの庭園に私達は出る。庭の中ほどに小高い人工の丘が見え、その上に背の高い白亜の石造りの東屋があった。

この庭は…間違いない…私達が住んでいた…“時の庭園”の母屋の庭だ…母さんが愛した憩いの場…私の大切な想いで…

東屋の中に幼い私が駆け込んでいく。

「母さん!見て!見て!私も魔法が使えるんだよ!ママみたいに!」

その瞬間、私は雷に打たれたような強い衝撃を受ける。全てが凍りついていく。

え……これって…もしかして…

「まあ、何を言っているの…この子は…そんなこと、あるわけないでしょ…」

「ホントだってば!リニスもすごい!って褒めてくれたよ?」

「まさか…そんなことが…あなたに魔法が使えるはずがないじゃないの…いいこと?フェイト…仮にあなたが魔法を使えたとしてもね、母さんはあなたに魔道師なんかになって欲しくは無いわ…」

「どうして?こんな凄い力だよ?母さん!私、母さんみたいになりたいんだ。優しい母さんみたいに」

やっぱり…間違いない…この風景は…だめだよ…私…それ以上言ってはだめなんだ…

「フェイト…あなたに魔法が使えるはずがないの…だって、あなたはアリシ…」

「使えるよ!見てて!ほらっ!」

使ってはだめ…!対価を支払う覚悟もなく…力が人を救うとは限らないことを知らない君が…それを使ってはいけない…!いや…それ以前に…母さんは魔法と魔道師としての生き方に深く絶望していたんだ…傷ついていたんだ…だから、この幸せを壊さないために…君はフェイトじゃなく…アリシアとして生きるべきなんだ…!例えウソでもいい!君が母さんを愛しているなら…自分を捨てるんだ!

東屋の外に小さな光の玉が一つ浮かび上がる。

フォトンランサー…それは私が最初に覚えた魔法だった…

光の玉はブーメランのように形を変えると呆然と見詰める母さんと…そして東屋の外に立っていた私の目の前を横切ってバラの咲き乱れる庭の方に向って行った。

そして、近くに咲いていた一輪のバラを音もなく切り落としていた。

「ね?凄いでしょ?私、母さんみたいに魔道師になって母さんやリニスの役に…」

「リニス!!リニスはどこ!!」

アルトセイム地方に群生している真っ赤な大輪のバラが私の足元に落ちる。ガラスの花瓶が壊れるみたいに花びらが散っていく。

そう…私はこの時、確かに“力”を手に入れた。そして…対価を支払わされたんだ。母さんとの絆を私は自ら差し出してしまったんだ。

信じていた…これで私も大好きな母さんと同じ様に優しくて綺麗な女の人になれるんだと…魔法を覚えたばかりの私は有頂天で…“力”の意味も分からず…夢中になってそれをリニスにねだったんだ…

「母…さん…?ど、どうしたの?どうして怒っているの?怖いよ…」

「あなたは黙っていなさい、フェイト!!リニス!!リニスはどこにいるの!?」

「は、はい…プレシア…どうかなさいま…きゃあ!」

母さんが大切にしていた筈のティーカップがリニス目掛けて投げ付けられ、石畳の上に落ちて粉々に砕け散る。

「や、やめて!リニスに何をするの?母さん!」

「プレシア…どうか落ち着いてください…これには…フェイトの魔法には…その…事情が…」

「何の事情があるというの!!こ、この子が…この子が…魔法を使えるはずが無いのよ!!どうして覚醒したというの!!それに…誰の手ほどきも受けずにフォトンランサーを一つ使役出来る訳がないじゃないの!!」

「なぜフェイトが覚醒したのかは私も…申し訳ありません…ですが、フェイトが魔法をおぼえようとしたのはあなたのようになりたくて…あなたを喜ばせようと思ってしたことですよ?だから…」

「お黙りなさい!!もう…こんな茶番はたくさんだわ!!フェイト!!」

「は、はい…」

「あなたには…失望したわ…あなたは…やっぱり…完璧ではなかった…実験は失敗だったのね…そんなに魔道師になりたければなればいいわ…私があなたの後見をしてあげる…せいぜい立派な魔道師になるがいいわ…」

私はその光景をとても直視することが出来なかった。

すべて…私のせいだ…私の軽はずみの行動がみんなを不幸にしてしまったんだ…

「母さん…わ、私…どうして母さんみたいに…魔道師になってはいけないの?ねえ…どうして…?」

「……もういいわ…あなたから何も聞きたくない、フェイト…」

「プレシア…お願いです…どうか…いつものあなたに戻って…」

「いいことを思いついたわ…リニス…お前にフェイトの魔法の教育係を命じてあげるわ…そんなにフェイトに魔法を教えたいなら…魔道師にしたいならそうするがいい…何もかも…私の何もかもをめちゃくちゃにしたお前が心底憎たらしいわ…」

「プレシア…わたしは…」

幼い私は母さんから初めて怒られたショックで泣きじゃくっていた。そして、嵐が過ぎ去るのを待つみたいに息を殺していた。自分のことしか考えていなかったんだ。言えた筈だ。リニスが悪いんじゃないって。

母さん…お願い…リニスは悪くない…リニスに魔法を教えてとせがんだのは私なんだよ…悪いのは私なんだ…だから、リニスを許してあげて…

今なら言えることが…私はあの時、言えなかった…これ以上、母さんから嫌われたくないという一心で…私は…リニスを…リニス…

「お前なんか消えておしまいなさい、リニス…あの子が大切にしていたペットだったからお前にまで変な情けをかけて使い魔にして命を与えた私がバカだった。飼い犬に手を噛まれるとはまさにこのことね。私とお前の使い魔契約に基づき命じるわ!これからはお前とフェイトは“離れ”で生活なさい!そしてフェイトが一人前の魔道師になるまで見届けるのよ!あなたがそれを望んだのだからさぞかし本望でしょうよ!これは傑作ね。魔道師を目指す娘が魔道師になれば自分の契約が満了してしまう。果たしてお前にどれだけのことができるかしらね…憎たらしいお前がこれからどうするのか、しっかり見物させてもらうわ!お前が助かりたければフェイトを放り出してここから逃げ出せばいいわ!この子が未熟なままならお前は消えずにすむんだからね!はっはっは!」
想いを託して…
「プレシア…どうして…」

「か、母さん…リニスは……」

「とっとと行きなさい!!目障りよ!!どうしたの?行かないっていうなら私が帰るわ!!」

「母さん!!」

私は知っている。私の呼びかけにはもう二度と振り向いてはくれないことを…それでも、幼い私はずっと母さんを呼び続けていた。声が枯れるまで…母さんの姿ついに母屋の奥に消えてしまい、そして…土砂降りの雨が庭園を濡らし始めた。まるでこの世の全てが泣いているようだった。私は幼心にも分かった。自分が取り返しの付かないことをしてしまったことを。

そうなんだ…母さんを狂わせたのはこの私なんだ…私さえ…魔道師という業な道を選ばなかったら…私達親子はどんなに幸せだっただろうか…私はずっとアリシアを演じ続ければそれでよかった筈なんだ…そうすれば…リニスとも離れ離れにならずに済んだ…

どんなに周りの人が母さんを悪く言っても私が母さんに忠実な娘であり続けようとしたのは…私が母さんを壊してしまったからだ…その償い…母さんとリニスをこの世から消し去ったのは私なんだ…

夢の傍観者に過ぎない私は幼い私とそれをなだめるリニスに触れることすら適わない。リニスは自分が消えてしまう運命を背負わされたにも関わらず私を見捨てることなく、最期までずっと面倒を見てくれたんだ。自分の全てをバルディッシュに託して…

ゴメンなさい、リニス…ゴメンなさい、母さん…悪夢を見ている私にはどうすることも出来ないんだ……


・ 
目を覚ますとそこは独房のような病室だった。飾り気のない石の壁に必要最低限度の医療設備…何度も次元犯罪の被疑者との面会で訪れたことがある次元法院附属の医療センターだとすぐに分かった。

「夢…か…長い夢だったな…嫌な夢だったけど…もう少し見ていたかったかも…」

夢の中でも、現実でも同じ救われないなら…もう少しだけ…母さんの娘でいたかった…


首に嵌められた魔力封印デバイスと鉄格子のついた窓から差し込む月の光…それらが無言の内に私の今の置かれている立場を物語る。

「そっか…結局…捕まっちゃったんだ…私…」

どれくらい眠っていたのか…今が何月何日なのか…皆目見当も付かなかったけど、自分が取り返しの付かないことをしてしまったことだけはよく分かる。思わずため息がこぼれた。

クッションのほとんどない固くて冷たいベッドの上に横たわっている自分の身体は他人のもののように重く、周囲を取り囲む無機質な医療デバイスたちは無言で私を見下ろし、そして威圧していた。まるで尋問を受けている気分だった。

腹部に女性特有の日みたいな鈍い痛みがあった。少しでも体を捩(よじ)れば引きつるような違和感が下半身一帯に走る。シグナムのあの一撃をまともに受けていながらまだ生きていることを喜んでいいのか、悪いのか、今の私に分かる筈もなかった。

自分だけの問題で済むならどんな処分でも甘んじて受けるつもりだった。でも…お義母さんやお義兄さん、シャーリーを始めとする捜査本部のみんな、補佐官試験で休暇中のティア、私のことを心配してくれていたなのはやはやて、そして、エリオとキャロ…私の周囲の人に及ぶ影響を考えると後悔してもしきれない。

もう…後戻りは出来ないんだ…何もかも…あの時みたいに…

「ならば…ここから出ればよかろう。簡単な話ではないか。何をそんなに気に病む必要があるのだ?」

し、思念通話!?

「だ、誰…!?誰なの!」

あり得ない…ここは厳重に外部との接触を遮断している筈だし、第一、私には首に嵌められたデバイスがある…それをスルーして私に話かけるなんて絶対に出来る筈が無い…

「下らぬな…ヒマノスの末裔如きが作りしものなどわらわの前では何の役にも立たぬわ。そんなことよりも…そなたにはこれから色々わらわのために働いてもらわねばならぬ。このような無粋な場所にいつまでも篭られていては困るのじゃ」

近い…感じる…それも今まで感じたことがないほど強大な魔力を…この部屋の中に間違いなくいる…!

「ふふふ。何を恐れる必要がある。そなたは黄天の大魔道師テスタロッサの末裔にして雷神の系譜を浮世(うきよ)に継ぐ我が依り代(よりしろ)ではないのか?」

「だ…誰です…!姿を…現しなさい!近くにいることは分かっているんです!」

「やれやれ…何とも難儀な話よ…依り代のそなたがわらわに姿を見せよと申すのか…ならば望みどおりに現人神の姿に窶(やつ)して見せてやろう。我が謁に与(あずか)るを一生の誉れとせよ!テスタロッサの末裔よ!我が眷属よ!」

目が眩むほどの黄金の光が部屋中を覆ったかと思うと、私のベッドの傍らに漆黒のマントと中世ミッドのドレスのようなデザインの金色のバリアジャケットに身を包んだ若い女性が光の中から姿を現した。

「ま…まさか…そんな…」

これは悪夢の続きなのか…私は自分の目を疑うしかなかった…



 
新暦77年2月14日 02:00 AM
首都クラナガン 時空管理局地上本部の一室
 
「第六の事件…No.12…六女は、アバロスの祝福を戦士に伝え…獅子の日に勝利を伝える…たぶん、西臨海特区のミッド戦勝記念スタジアムのことだろうと思うけど…これも世直しのため…ゴメンなさい…!」

「Fさんの…いいえ…フェイトさん当てに届いた手紙をご本人の承諾もなく世間にばら撒くのも…あなたにとって天啓の一部なんですか?シャーリーさん…」

「だ、誰!?」

「今年の“獅子の日(2月27日)”まで随分と日があるのに…ここにきて“プレアデスの仲介者X”もようやく本領発揮みたいですね…これだけあれば模範的な犯行予告になります」

「ティ、ティア…ど、どうして…こ、ここに…」

「予告文を発するタイミングと発信先の選択と公開される情報量の適切な配分…そして極め付けが…局が総力挙げても痕跡すら掴めない発信元…これらの極めて困難なことをアッサリとやってのけて、尚且つ、何のリスクも負わずにプレアデス事件を”自分の目的のため”に利用する“仲介者X”は…シャーリーさん…あなたを置いて他にありえません…」

私は次々に溢れて止まらない涙を拭くことなく、クロスミラージュの銃口をゆっくりと…尊敬してやまない私の先輩に向けた。

「シャリオ・フィニーノ…犯人幇助及び騒乱罪、並びに公共通信の私的利用と公務執行妨害の現行犯で…」

シャーリーさん……シャーリーさん…

努めて冷静になろうとしていた私だったけど“その言葉”を発することにためらいを覚え、そして声が詰まった。

揺れ動いていた…私の真実(Fact)が…でも…例え受け入れがたい真実でも…私は…

「あなたを…逮捕…します…」

それが私の目指す道だから…


第11話 完 / つづく

PR
プロフィール
HN:
Togo
性別:
非公開
文句とかはここに
※事前承諾なしに頂いたコメント内容を公開することは一切ありません。
Copyright ©  -- Initial Fの肖像 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]