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第十九話 Forever (ずっと…一緒だよ…:前篇)


あくまで推奨ってことで・・・

BGM:
その涙も、悲しみも 
 

拍手

一人…また一人と“騎士”を名乗る古のミッドチルダの魔導師たちが撃墜されていく。

「こちらの攻撃が全く通らない…くそっ!あのハリネズミめ!」

精密射撃によって足を止められると、ある者はバインドで拘束され、またある者はそこを容赦なく狙い撃たれた。しかも“収束術式”によって なのは の一撃は目に見えて強くなっていく。

「あの本体の周りをちょこまかと動く法具の一部(ブラスタービット)がどうやら我々の動きを先読みしているらしい…Sub lightningから抜けるポイントを狙い撃たれると厄介だ…迂闊に近づけん…」

直撃弾を度々受けるようになった作戦司令部でもモニターの中で孤軍奮闘を続ける なのは の姿を全員が固唾を呑んで見守っていた。

な、なのはちゃん…アカン…もうそれ以上撃ったらアカン!見殺しに出来へん!しんどいのは相手も同じや…よし…ここは賭けや!

椅子から立ち上がれない八神はやては替りにありったけの声を張り上げた。

「今までみんなよう支えてくれた!総攻撃に転ずる!予定よりも(移動距離が)長いけどギンガ隊に突撃を命令!」

「了解!!」

「ようやく、ってとこね!忘れられてたんじゃないかと思ってちょっとイライラしていたところよ!総員突撃!」

108部隊の中から選りすぐられた精兵が一心不乱に魔弾の雨の中を駆け抜けていく。
 
背面や側面への回り込みはそのタイミングが命綱になる。例え練り上げた作戦であっても実戦で期待した作戦効果が発揮される保証はない。当初、ギンガ率いる一隊は最短距離で相手の後背を突く手筈だったが、投入時期が早まったせいで部隊の動線は必然的に伸びていた。姿を晒せばそれだけ相手に捕捉されて悪くすれば的にもされかねない。最も危険な任になっていた。

「落伍者に構わないで!速度を緩めるな!全速で駆け抜けるわ!」

砂塵を勢いよく巻き上げて進むギンガの部隊は意外にも進撃の足が止まっていた傀儡兵の動揺を誘う。なのはの奮戦とギンガの突撃で無風だった戦場に風が吹き始める。

「敵の動きが鈍った…いける…!」

最終ラインに殺到してくる傀儡兵と肉弾戦を展開していたスバルは突撃を敢行するギンガの姿を見て絶好機を呼び込むと直感していた。

「ティアー!!」

「言われなくても分かってる!!前進!!」

最終ラインを死守する陸士達を残して元フォワードチームの面々が乱戦の中に飛び込んでいく。
遮二無二攻め立てるスバルの視界が急に晴れる。

「ぬ、抜け…た…」

この瞬間、傀儡兵と管理局の攻守は逆転した。傀儡兵たちは次々と討ち果たされて戦列は崩壊していく。

「このまま一気に親玉のところまで押せ!!」

雪崩を打つように殺到する陸士達の雄叫びがこだまする。誰も彼も目が血走っている。地上の勢いが伝わったのか、上空でドッグファイトを繰り広げていた空士達の動きも生気を取り戻しつつあった。

日が西に傾く頃になると、逆に武装局員たちが首都クラナガンを貫流しているイシス川を続々と越え始める。そしてついに対岸の緑地帯の中に設けられていた敵の本営らしきテントが視認可能な地点まで辿りついていた。

管理局が敷いた15段の防衛線を最終ラインまで突き崩し、一時は完全に圧倒していた傀儡兵たちの姿も今ではほとんど見られなかった。なのはの放ったDivaine Basterと思われる法撃も確かに効果はあったであろうが、あまりの呆気なさにスバル達は誰からともなく顔を見合わせてはしきりに首を傾げていた。

「もしかして…どっかに待ち伏せして一気に反撃する心算なのかなぁ…」

「いや…それはないわね…この辺の魔力反応は多く見積もってもあの本丸周辺を護る20体くらいしかないわ。キャロ!そこから他に何か見える?」

「いえ!ぜんぜん。あのテントみたいな場所の後ろにも周辺にも特に変わったものは見当たりません!」

「そう、ありがと!どうやら…向こうの本営を直撃した なのは さんの一撃が相当効いてるみたいね。ホント、キリが無い状態だったけど…あるいは術者の魔力が限界に達したのか…どう考えても一人が制御出来るレベルを越えてたし…」

「案外、飛んできたブロック片で頭打って目を回してたりしてね。へへへ。まあ、冗談は置いておいて呼び出すだけ呼び出しといて後は好き勝手に暴れてくださいって感じの召喚物じゃあ、確かにないもんね!特にコイツらは!!うらああ!!」

突然、二人の前に一人の傀儡兵が躍り出てきた。繰り出される戦斧を踏み台にしてスバルは高く飛び上がると渾身の力を込めて拳をその顔面に炸裂させる。血のような液体を噴水のように噴出させながら傀儡兵はスバル達の足元に崩れ落ちた。

「ふう…ところでコイツらのサンプルを持ち帰った本部の技術検査部(※ 鑑識)が“人工生命体”がどうのこうのって言ってたけど…一応、生命体なんだよね?だったら数にも限りが出そうなもんだけど…何で次々に涌いて出てきたんだろうね?」

イシス川を越えた陸士達に囲まれた最後の20体、いや二十騎は一人、また一人と倒れてゆく。その光景を川に架かる橋の欄干の上から見守っていたスバルが辺りを見回しながら独り言のように呟いた。

「さあ…その辺は私にもさっぱり…確かにあんたの言う通り、幾ら人工的に作られたからって言っても生命体であることに変わりはないわけだし…そういえば…確かになんで急に新しく召喚されなくなったのかしら…」

「そりゃ…あれだけの量を一人で召喚して一体一体を制御してたんでしょ?魔力も使い果たしちゃうって。私ももうヘトヘトだよ~!新しいのが出てこなくなったってのもあるけど…本当にこれだけ?意外と残骸が少ないよね?朝からずっと戦ってたのに…なんか気味悪いよね…」

「そうね…むしろウチの局員の姿の方が目立つわね…うーん…」

おかしい…次から次に召喚されてたのならもっと残骸が残っていてもいいはずなのに…大苦戦をしていたとはいえ、どうしてウチの局員の姿だけがこうも目立つんだろう…ん?

「血が…傀儡兵の血が…引いていく…ま、まさか…!」

「どったの?ティア?深刻な顔して…またバーサクとか…まじ勘弁なんだけど…」

辺りに四散している傀儡兵たちの残骸を不思議そうに眺め回すスバルを尻目にティアナはいきなりしゃがみ込むと足元に倒れている傀儡兵の兜に手をかけた。

「ちょっ!ティ、ティア!何やってるんだよ!グロ禁止だろJK!」

スバルの拳で半ば潰された傀儡兵の兜をティアナが引き千切るように外す。辺りに空になったドラム缶が転がるような空虚な音が響いた。

「ひええ!!って…あ、あれ!?なっ…中身…!?からっぽ?え?一体どういうこと!?」

「やっぱり…おかしいと思ってた…ずっと…」

「え!え!うそ!どうなってるの?ここに来るまでに…え?ええ!!だってこいつら…さっきまで…」

「スバル…コイツらは…私達と同じ様に血を流していたけど…やっぱり私達とは同じじゃない…」

「お、同じじゃないのは分かるけど…だってこの人たち…その…人工生命体…でしょ?」

「そう…コイツらは人工生命体…でも…仮初めの肉体に…安まることを許されない哀れな魂(アストラル体)が宿る事で彷徨っていた…例えるなら現世を彷徨う生きる屍、というのがその正体だったんだ…」

「生きる屍って…それはつまり…どういうことだってばよ?」

「多分…新たな肉体を再生するバイオリアクターのようなセル(器)がどこかに隠されていて…コイツらは宿った肉体が傷つけばまたそこから新しい肉体を召喚して…繰り返し…繰り返し…ヒック…信じられない…こんなことって…」

「そ、そんな…じ、じゃあ…死体は…またリアクターの中に…自動転移されて…」

「きっとそうに違いない…こいつら…ずっと…ずっと死んでは生き返ってを繰り返していたんだ…何度も苦しんで…何度も死んでいたんだ…その再生サイクルがあまりにも早いから…新しい個体が次々に召喚されているように錯覚していただけだったんだ…くっ…」

「…なんつうか…死ぬに死ねないっていうのも悲惨だよね…わたしやギン姉(※ 戦闘機人)とはまた別の意味でさ…」

「ふざけてる…ふざけてるよ!こんなの!一体…命をなんだと思ってやがるんだ!何のために生まれてきたのかも分からず…ただ死ぬためだけに何度も何度も…くっ…何なんだ…何なんだよ!プロジェクトFって!一体何のために…!クソっ…クソっ…」

「ティ…ティア…」

小刻みに震えるティアナの背中にかける言葉をスバルは捜したが結局それは見つからずじまいだった。

突然、野太い陸士達の歓声が聞こえてくる。声の方に目を向けると最後の傀儡兵が折れ曲がった戦斧を大地に突いて必死に抗っている姿が見えた。スバルの目にはそれが今までとは全く違う姿として映っていた。やがてその傀儡兵も大柄な陸士達に囲まれて見えなくなっていく。

「終わったみたいだよ…ティア…」

風を感じる。振り返るとフリードの背中に乗ったままエリオとキャロがスバルとティアナを心配そうに見つめる姿があった。自分よりも年下の二人の存在に気が付いたのか、ティアナは慌てて何度も自分の顔を泥と血で汚れた腕で拭うとゆっくりと立ち上がった。夕日に照らし出される目を真っ赤にした元相棒の顔を見てスバルは僅かに微笑む。

「まあ・・・色々割り切れないことも多いけど…とりあえず…(迎えに)行こうか…?」

「…分かってるわよ…バカスバル」

勝ち鬨を上げていた陸士達が静かになる。異変に気が付いた4人が顔を上げるのと大気が激しく震えるのがほとんど同時だった。

「な、何?この振動!?」

「ティアさん!スバルさん!あれを!司令部が…博物館が!」

エリオの声で慌てて3人は視線を自分の背後に向ける。そこには信じられない光景があった。衝撃を受ける度にオレンジ色に似た発光を繰り返す結界がみるみる内にひび割れを起こし、亀裂同士が合流して結界壁が魔力片となって崩落の連鎖を起こし始めていた。

「まずい!結界が…結界が抜かれるぞ!!」

スバルが叫ぶ。ティアは手に持っていた傀儡兵の兜を力いっぱい地面に叩き付けていた。

「やられた…術者の魔力が尽きたんじゃなかったんだ…私達をおびき出すために“術”を意図的に止めたんだ!クソッ!!」

「と、ということは…プレアデスは…フェイトさんは!!」

「あのテントの中はきっともぬけの殻に違いない…プレアデスとフェイトさんは多分…」

「何てこった…入れ違いかよ…」

アルカス、クルタス、エイギアス
汝らが眷属(けんぞく)…名を奪われし我が求めに今、応じよ…
バルエル、ザルゼル、ブラウゼル
天を突くは怒れる雷鳴…闇を奔(はし)るは一閃万里の雷光…
雷神の意志を継ぎし聖なる我が矛先に…汝らが刃を合わせよ…
主上なる神と再生の雷神の御名において汝らに命ずる…
我が眼下の不浄を薙ぎ払え…フォイエル・イルフェリノ…



弱々しい春の夕日が首都を照らす中、その上空では一進一退の攻防が続いていた。自分に襲い掛かってくる戦斧を弾き、そして鋭く突き入れられる槍をなのはは紙一重でかわす。もう何人を奈落の底に叩き込んだのか、両の手の指で数えられる内は数えていたなのは もそれ以降のことは皆目検討がつかなかった。

「高町空尉!援護します!」

管理局の中でも最速を誇る首都航空機動隊の空士たちが加勢に現れる。

「来るな!あなた達の適う相手じゃない!」

「えっ!?ぐ、ぐわあ!!」

叫んでも後の祭りだった。彼らは敵の姿を視認する暇すら与えられず全身を切り刻まれて次々に落下していく。

「バカ…だから言ったのに…!!…ゲホッ…ゲホッ…」

突然、咳き込み始めたなのはは反射的に口を押さえた。口の中に鉄の味が広がる。肩で息をするほど肺は貪欲に酸素を求め、心臓は激しく脈打っていた。胸が締め付けられるようだった。グローブに付いた僅かとは言えない血痕を見て なのは は深呼吸をした。

周りで鳴り響いていた雷鳴が止むと光の中から次々と魔道師達が姿を現し、再び遠巻きに なのは を取り囲む。

「黄天に連なる我らをここまでよく一人で抑えてきた。それは褒めてやろう。だが…魔導師の宿痾(しゅくあ)に犯されながらいつまで戦い続けるつもりだ?悪いことは言わぬ。法具を下ろせ!白き魔導師よ!それとも…このまま死ぬつもりか?」

「…」

無言のまま なのは はゆっくりとレイジングハートを高くかざすといきなり包囲の一角に光弾を放った。断末魔の雄叫びと共に複数の魔導師たちの姿が一瞬の内に見えなくなる。

「き、貴様!?いいだろう!!それがお前の答えというわけか!!もう容赦はせぬぞ!!」

「そんなことより…一体何を企んでるの?」

「た、企む…!?何のことだ!」

血で汚れた口元を手の甲で拭うと なのは は鋭くその魔道師達を睨みつけた。

「とぼけないで…管理局の陸上部隊がどんどん川を越えて行ってるのに…後続(後詰)のないお前たちは自分たちの本営に戻ろうともしない…いや、それどころか顔色一つ変えないで何かタイミングをしきりに計っているようにすら見える…どうしてかな?大切なものを護るという気持ちは同じで、そのために命のやり取りをしているのはお互い様の筈なんだけど…」

なのは の言葉にそれぞれの得物(デバイス)で身構えていた魔道師達は互いの顔を思わず見合わせる。

「これらが示している事は2つ…これ見よがしにリスクゾーンを突いたお前達もまた“陽動”だという事…そして…あのわざとらしい司令部にプレアデスはもういないという事…多分、重傷を負っているフェイトちゃんもあそこにはいないんだろうね…二人は?いま何処?」

「コイツ…我らとあれだけの空戦を演じながらまだ戦局全体にも目を向ける余裕があるというのか…信じられぬ…」

一瞬、静寂が支配する。やや間を空けて囲みの中から深くフードを被った一人の魔導師が一歩進み出るとゆっくりとそれを外した。なのは とほとんど変わらない歳に見える女魔導師だった。翠の瞳と腰までありそうな長い金髪が印象的だった。

「その見事な慧眼とこれまでの奮戦に敬意を表する。二つ名すら持たぬという白き魔導師よ。我が名はヴィクトリア…ヴィクトリア・ローズガード…雷神を守護する近衛を束ねている」

「時空管理局…高町なのは…」

「 “大切なものを護る気持ちは同じ“というお前の言葉は痛く我が心に響いた。我ら”騎士“を名乗っているが所詮は御家から爪弾きされた乞食魔導師がその本質だ…安住の地を持たぬ我らは何処に行っても厄介者…たまに起こる我欲の強い領主共の諍いに薄給で己の命を売り渡すだけのつまらぬ人間だった。だが…あのお方は誇りとは無縁の世界にいたそんな我らに日々の糧だけでなく、生きる希望を与えて下さった…蔑まれていたあのヒマノス達にさえ、膝を屈してあたたく接しておられた…例え野良犬でも飼われればその恩を忘れぬというではないか?ならば…この命を賭してあのお方の願いを果たすことが我らに残された唯一の誇りだ。それが果たせるなら何度でも蘇る。例え地獄の底からでもな」

「何度でも…蘇る…何のために同じことを繰り返すの?復讐のため?」

「復讐…か…ふん!これはそんな安いものではない。貴様らクラナガンの者共は汚辱と虐殺の限りを尽くして何もかもを奪った。奪うだけでは飽き足らず何度も何度も立ち上がれぬほどに弱きものを虐げてきた。今の貴様らの繁栄は我らのみならず弱き者から搾取し続けたその犠牲と無念の叫び声の上に成り立っているも同然だ。ただ殺すだけで収まる話ではない。全てをやり直す…それをあのお方は果たそうとしているに過ぎぬ。邪魔立てする者は許さぬ」

「報復からは何も生まれない。復讐を正当化する理由なんてない。人間は過ちを繰り返してしまう…勿論、受けた傷、失ってしまったものを忘れろとは言わない…でも、後ろばかりを見ていても何にもならないんだよ?少しずつでも前に進んで…新しい幸せと…より正しい生き方を見つけようとすることが大切だと思う…それが人間なんだと思う」

「…お前の言うことは正しい…だが…我らも過ちを犯しているとは思っておらぬ。それにどちらが正しいか、ここで結論を出す心算もない。今なすべきは…アルトセイムの大輪を頂く我が旗と我が法具アークガーディアンに賭けてお前を討つことだ!」

申し合わせたかの様に互いのデバイスを構える。鋭く睨み合いながら間合いを計る両者の耳に川の向こう側から響いてくる勝ち鬨の声が届く。

「いいの?空も陸も局の手中に落ちた。もう…ここにはお前達しかいないよ?もう一度だけ聞くけど…二人はどこ?」

「ふふふ…勝った心算か?この戦い…我らの勝ちは動かぬぞ?そんなに知りたければ…自分の目で確かめればよかろう!見ろ!!貴様の後ろを!!自分の目でこのクラナガンの最期を見届けるがいい!!」

「最期…?」

まさか…回り込まれた…!?いや…ブラフってこともありえる…

警戒しつつ なのは はゆっくりと自分の背後に目を向けた。振り向いた瞬間、眩い光と共に大気が震え、結界に無数の亀裂が走る姿が目に飛び込んでくる。

「まさか…!そんな…ベルカの結界が…!」

全く魔力反応に動きはなかったのに…

野に放たれた火竜が身体をくねらせながら空を駆け上ってゆく。巨大な火柱が立ち上り、あっという間に天を焦がしていた。

「フェリノ様…ついに…ついに宿願をお果たしになったのですね…」

ヴィクトリアは感慨深げに目を細める。黒煙が雲を呼び、まるで日食のようにたちまちクラナガン全体を暗闇が飲み込んでいく。天を焦がす焔がやがて煤混じりの黒い雨を降らし始めた。

「司令部!!司令部!!くそっ!!駄目だ!!通じないぞ!!」

「だ、第七の魔力杭が打たれたらしい!も、もうだめなのか…だめなのか!俺達は!」

首都のあちらこちらから火柱が次々に立ち上っていく。その絶望の光景を目の当たりにした空士達は激しい動揺に見舞われる。恐怖にうちしがれた首都の人々は逃げ惑い、人の上に人が重なる阿鼻叫喚の地獄絵図がそこにあった。

「慌てないで!こちら高町!司令部との連絡がつかないため私が臨時に指揮を執る!この通信を聞いてる局員は直ちに首都へ直行!退避勧告区域を当初の10kmから30kmへ拡大する!該当区域の一般市民を安全に誘導!急いで!」

「り、了解しました!しかし…司令部は…」

「司令部は…今は私だ!」

「は、はい!」


唇を噛み締める なのは の目の前に突然一筋の稲光が走る。炎に包まれるクラナガンを背景にして黄金のバリアジャケットに漆黒の法衣を纏ったフェリノが姿を現した。

「我が近衛の勇者達よ!よくぞ卿らはその任を果たした!そなたらの功と忠節は蒙昧愚昧なるアルハザードの輩に土塊を喰らわせた後に必ずや篤く賞するであろう!」

「はっ!!」

なのは を囲んでいた魔道師達はその姿を見て一斉にその場に片膝を付くと深く頭を垂れた。

「……お前がプレアデス…」

「如何にも。わらわがプレアデスよ。だが…今はもう世を忍ぶこともあるまい!我こそはフェリノ・カスティルローゼ(テスタロッサ)・オブ・アルトセイム!雷神フォノンの一子にしてその名を継ぐ者だ!」

「フェリノ…」

凄い魔力反応…離れていても全身が痺れるくらいピリピリする…

「姿形は我が姪に似ても似つかぬが…その星光の法具、その鋼の護り、そして何よりも全てを薙ぎ払う収束の術式…なるほど、認めぬわけにもいくまい。ブラウゼル姉上の…まあよい…これは言っても詮無きことか…そんなことより見るがよい…地上に浮かび上がりたる黄天の大魔法陣…七つの魔力杭が互いに呼応して虚無の陣を妖しくも艶やかに照らしおる…後は…大神殿跡に打った陣の中心に贄(にえ)を捧げて大いなる火をこの地上に降臨させるのみだ…」

「そんなことはさせない!フェイトちゃんは?フェイトちゃんは今どこ?会わせて!!」

「今更、会ってどうしようというのだ?あの女は第一の贄としてその身を捧げる!あれを見るがよい!」

博物館を包み込む巨大な火柱の根元にバインドで高く吊るされたフェイトの姿があった。まるで全く血の気を感じさせない白い蝋人形のように…無残に変わり果てたその姿は灼熱の陽炎の中に揺れていた。

「フェ…フェイトちゃん!!なんて酷いことを!!」

「もう直…あの者のリンカーコアを介してフォトンバンドのエネルギーが召喚されるであろう。臨界点を超えたコアは砕け散り、二度と人としても魔導師としても蘇ることもあるまい。あの女が望んだ通りになる。文字通り無へと還ることになろう。その手向けとしてわらわはこの地上の全てを滅ぼす!この世界は生まれ変わるのだ!これで我が手の内は全て晒した!再生の時を黙ってそなたも待つがよい!」

デバイスを握る なのは の手が怒りに打ち震えていた。

「…さない…許さない…お前だけは…絶対に許さない!!こんなことをして…何になる!!」

今まで生きてきて…こんなに…こんなに頭に来たことがあった?もう絶対にコイツだけは許さない…!!

「何をそんなに怒っておる?あの者は己が信念に殉じる道を選び、そしてこの結末を自ら求めた。さぞ本懐であろう…そなたも友を想う気持ちがあるなら尊重してやれぬのか?」

「うるさい!!間違っていたら…一人ぼっちで辛くて泣いていたら…どうして助けてあげないの…お話を聞いても確かに完全に分からないかもしれない…自分のことですら自分で分からない…それが人間だから…でも…私達は絶対に諦めるべきじゃない!!そうやってみんな生きている!!過ちも…間違いも…全て…全てが私達なんだ!!」


フェリノ様…喜びも悲しみも全て受け入れる…だからこそ…貴女は気高く…そして美しいのです…

ヴィンセント…何故だ…何故お前は理不尽を受け入れよと申すのか…罪なきものがヒマノスだというだけで虫けらのように殺される…それを受け入れよと申すのか…

私共ヒマノスはもう十分…貴女様のお蔭で夢を見られたのです…深愛の女神の恵みを十分に頂きました…これ以上は果報過ぎます…ですからどうぞ私共をクラナガンの獄にお送り下さい…

何故だ…何故我らが不当な審問を受け入れねばならぬ…わらわとそなたと…人間として何が違うと申すのか…これを見よ!ナイフで切った我が腕より流れるこの血は何色か!

フェリノ様…

答えよ!ヴィンセント!我が血は何色かと申しておる!


「ふん…利いた風な口を利くではないか…未来永劫消滅するとは誰も申してはおらぬ!!すべては一度無には帰りはするが再びこの世界は新しく生まれると申しておるのだ!!」

「同じことだ!!」

「同じではない!!痴れ者が!!今の滅びは“新しきをなす”ただの露払いに過ぎぬわ!!そなたもそなたの同胞も縁があればきっとまたどこかで巡り合うであろう!!所詮は過ちからは過ちしか生まれぬ!!言い得て妙よな!!間違いだらけのこの世で何を積み重ねても待っているのは絶望だけだ!!失った欠片は二度と戻っては来ぬ!!新しきを求める何が悪か!!」

「絶対に違う!!お前は間違っている!!」

「おのれ…この端女が…言わせておけば図に乗りおって…!」


フェリノ様…夢から…お目覚めになる時が訪れたのです…持てる者と持たぬ者は同じにはなれません…

ならばこの世が間違っておるのだ…同じ人間が…何ゆえに区別されねばならぬ…離れ離れにならねばならぬのか…

貴女様を失えばこのアルトセイムの民草や行き場を失った魔導師の方々は一体どうなりましょうや…今ならば私共従者の命だけですべてが許されるのです…

違う…それは違うぞ!!失ったものは二度と帰っては来ぬ…悲しみを背負ったまま…わらわに一人で生きよと申すのか…そなたと我が僕を失って尚、そこに何があると申すのか…


「失った欠片は…絶望しか生まぬ!!絶望の積み重ねは無意味だ!!同じ世界を何度も何度も繰り返しても所詮は最初が間違っていれば間違いしか生まれぬ!!ならば新しきを拓くしかあるまい!!そのために過ちに連なるものを全て無となす!!その理の分からぬ者は死にゆけぇぇぇ!!!」

怒りで自分を見失ったのか、赤い瞳を烈火の如く滾(たぎ)らせたフェリノは猛然と なのは に向って突進していく。眩い閃光が一瞬、暗雲立ち込める首都を真一文字に貫き、やや遅れて雷鳴が轟く。

光速の秘術“Lightning”…それは音速を遥かに凌駕し、そしてタイロン(時間)の支配さえも及ばない世界に独歩する孤高の術…

デバイスを構える なのは の目もまた同じ様に怒りに燃えていた。右手を正面でかざすと一際大きなプロテクションサークルが現れる。大地を貫く稲妻の様に鋭く突き入れられる神槍バルディエルの穂先が激しい轟音と共にプロテクションサークルに阻まれた。眩いばかりの光が周囲を真昼の様に照らす。

「な…なぜ…!?お主…まさか…見えているのか!?我が姿が!あり得ぬ…ありえぬわ!奇跡は二度も起こらぬぞ!」

間髪入れずに なのは は左手をノールックで背後にかざす。新たなプロテクションの発動と同時に渾身の力が込められた戦斧が叩き込まれるがその軌跡はなのは の押し立てる“盾”の前に弾かれた。

「ば、バカな…!一度ならずも二度までも…!」

「もう終わり?それなら…今度はこっちの番だよ?」

「おのれぇ…言わせておけば付け上がりよって!!我を…我を愚弄するか!!この下郎めが!!身の程を弁えよ!!」

今度はフェリノの繰り出す激しい突きが なのは を襲う。耳を劈(つんざ)く雷鳴が幾重にも重なり、穂先が雨あられのように間断なく繰り出され、盾と触れ合う度に生じる光が一つになってゆく。

なのは はバックステップを踏みつつデバイスから発動されているプロテクションの盾でひたすら護りに徹する。盾の奥から無言のまま射抜くように自分に向けられるなのはの鋭い眼光が一層攻め立てているフェリノを激情の中へと駆り立てる。

「ええい!!忌々しい!!全魔力を防御壁に使って身を縮めるばかりの鈍亀が!!それでも戦神と謳われし魔導師か!!その法具はコケ脅しか!!恥を知れ!!」

フェリノの罵声にも顔色一つ変えることなく なのは はひたすら護りに徹していた。猛撃の雷光とその前に敢然と立ちはだかる妙なる鋼の護りの戦いはいつ果てるとも知れなかった。

「な、何という気迫…二人とも凄まじいの一言だ…」

黄天の魔導師たちも、そして空と陸で避難誘導していた局員達も、互いに敵意しかなかった両者が今、雷神と戦神の姿を固唾を呑んで見入っていた。

ただ一人、ヴィクトリアは油断なく自分に向けられている なのは の後姿を睨みつけていた。

まずい…激情に駆られて闇雲に撃ちかかればあの白き魔導師の思惑に嵌るだけだ…収束術者は鉄壁の護りで相手の攻撃を受け流し、手も足も出ない風を装いつつ、その下で強かに相手の魔力を利用(収集)する…そしてその魔力が満ちた時、一瞬の隙を突いてカウンターをかけてくる…勝負が動くのはその時だ…

「おのれ…あのハリネズミめ…フェリノ様!!助太刀致す!!」

「待て!!並の魔導師が束になったところで適う相手ではないわ!!それよりも…今生の土産によく目に焼き付けておけ…後世に語り継ぐべき大魔導師同士の戦いを」

ざわめく囲みを手で制したヴィクトリアは、薄墨のような黒い雨が降る空で激しい火花を散らしている二人の様子を見つめる。

「我らのSub-lightningがあの白き魔導師に通用しなかったとはいえ…なぜ…フェリノ様は“Lightning”の秘術をお使いにならぬのか…」

「そ、そうだ!タイロンの支配が及ばぬ“Lightning”の秘術があれば…!」

ヴィクトリアはため息を付く。

「卿らはそれでも雷神を守護する近衛の魔導師か!あの魔導師の本体に“Sub-lightning”で何度も肉薄しながらそれを果たせなかった理由がまだ分からぬのか!あの者の身体から自然発動しているフィールド自体が神代ミッドチルダ収束術式…最終結界“Zenon Limit”だからだ…」

「ゼ、ゼノン…ば、馬鹿な…それはヒマノス、魔導師という域を遥かに超越している…とても…とても人とは思えぬ…」

“ゼノンパラドックス”

別世界で“アキレスと亀のパラドックス”とも呼ばれるそれは、収束術者と相手との間にある距離を限りなくゼロに近づけることは出来るが、両者が同一方向に移動すればその距離は限りなく小さくなるだけで“いつまでも”追いつけない、という一種の言葉遊びのことである。

「魔法はSpelling(呪文)に始まりSpellingに終わる…対を成す存在である科学(物理)の条理をパラドックスによって歪め、それを魔力によって具現化したものが即ち“Magic(魔法)”だ…最終結界“Zenon Limit”はまさにその典型…まさか現実にこの目でそんなものを見ることが出来ようとは…さすがの私も夢にも思わなかった」

「そ、それではローズガード卿…我らがどんなに高速で近付いても全てあの魔導師に防がれていたのは…」

「ようやく気が付いたか…自覚の有無は別にしてあの魔導師(なのは)は究極収束の秘術を操っているのだ。我ら黄天の魔導師はどう足掻いても“光速”を越える事はできぬ。 “無限”を操れぬ有限の我らが時間世界の差分を収束術式によって無効化されればこの結界を抜くことは絶対に出来ぬ…フェリノ様の“Lightning(光)”とてそれはまた同じ…」

「し、しかし…テスタロッサ卿(フェイト)は何故あの魔導師を倒せたのか!首を取らぬまでも一度は昏睡させたというではないか!」

「その理由は…私にも分からぬ。分からぬが…本当にテスタロッサ卿が奴の“Zenon Limit”を抜いたのであれば…それは…いや、さすがにそれはあるまい…」

もしそうだとしたら…テスタロッサ卿は奴(なのは)の収束術式を“発散(無限術式を発動)“したことになる(※1) …究極の“収束”は主上なる神のみが成せる“原初”に通じ、また究極の“無限”は破壊を司る雷神のみに許された“無”に通じる術式といわれている…それを…テスタロッサ卿は…

ヴィクトリアは一瞬、激しく燃え上がる第七の魔力杭の根元に視線を落としたが、すぐにまた激しく切り結ぶフェリノとなのは方に目を向ける。

あり得ぬ…無限術式の大家、雷神フォノン・カスティルローゼの嫡流であるフェリノ様でさえ…今だかつて一度も無限の術式を発動させることが出来なかったというのに…如何にカスティルローゼの流れをくむとはいえ、あの”大虐殺”の難を逃れて異世界ロマリアに流れたという庶流の血筋風情がその境地に達したというのか…魔導師としての誇りを捨て土着の貿易商人であるスカリエッティとやらに呈よく飼われていたと言う話ではないか…例え、後世で黄天の眷属の筆頭と認められたからと言って、一度は主と故郷や同胞を捨てたことに変わりは無い…フェリノ様は帰参をお認めになったが…

「フェリノ様…」

ヴィクトリアの碧眼は激しく燃え上がっていた。

私は絶対に認めぬ…テスタロッサ卿が私よりもフェリノ様に近くにあるなどと、フェリノ様をも凌ぐ高みに昇るなどと…

「断じてあってはならぬのだ…」

黄天の主を最期までお守りするのは我がローズガードのみ!!近衛の旗の大輪は我が家名!!認めぬ!!テスタロッサ卿も!!そしてフェリノ様を差し置いて”無限術式”を手に入れるなどと!!そんなことはあってはならぬのだ!!

互いを目の敵のように睨み付ける なのは とフェリノは激しい火花を両者で散らす。

「お、おのれ…こ、この忌々しい鈍亀めが…はあ…はあ…はあ…」

貫けば必ず死に至らしめるという神槍バルディエルと、打てば必ず臓腑を抉る神斧バルディッシュを両手に持つフェリノは肩で息をしていた。間断なく鳴り響いていた雷鳴が止み、一瞬の静寂が辺りを支配したその時だった。


妙なる鋼の護り…そしてその手に握られたる星光の法具…時は今満ちたり…
二頭の火竜の引きし鉄騎より放たれる我束ねし星光に貫けぬものなし…
人なる者よ…我を畏れよ…数多の星を統べる我に従え…
 


プロテクションを幾重にも重ねてじっと息を殺していた なのは はデバイスを振りかざすと高らかに声を上げた。

「これが…私の全力全開!!

「し、しま…」

「フェリノ様!!」
  
Star Light Breaker!!」

第19話完 / つづく

※1
少々説明を要するが時間ではなく限りなく距離を縮める収束“回数”で定義された結界内ではその支配を受けるという意味。収束術式が発動しなければごく普通に物理法則の支配を受けるため距離を縮める収束“回数”ではなく単純に“時間”で定義される実空間ということになり、この場合、そもそもアキレスと亀というパラドックス自身が成立しなくなるので結界自体も当然存在し得ない。一方、収束術式が発動中であっても“無限術式”は収束回数で定義された結界を発散させる、すなわちゼロ(無)にしてしまうため、結局、それは時間で定義される実空間に引き戻してしまうことと同意になる。実空間では単純に速度差が時間差となるためLightningの秘術は有効になる。

数学的に言えといわれれば…”アキレスと亀のパラドックス”を現表したLimit関数の中に∞(無限大)が代入されると数学的に”ゼロ”になるから、ということですね。ゼノンパラドックスは無限数式の参考書等に詳しい。分かっていると思いますがなのはことは書いてありませんw
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