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第二十話 Forever (ずっと…一緒だよ…:後篇)


 

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Star Light Breaker!!」

5メートルと離れていない至近距離から収束術式によって練り上げられていた大魔力砲が眩いばかりの光と共にレイジングハートより解き放たれる。

「し、しまった…」

一瞬の隙を突かれたフェリノは高速移動のための魔力蓄積もままならず、反射的にプロテクションサークルを発動させる。黄金に輝く5層のプロテクションは唸り声を上げて迫って来る巨大な光弾によって次々に粉砕されていく。

「くっ…こんな…こんなところで終わるわけには!!」

まだわらわには成さねばならぬことが…!ヴィンセント…

最後のプロテクションが呆気なく砕かれて光がフェリノの目と鼻の先に迫ったその時だった。一条の稲妻が真一文字に奔り、なのは の脇をかすめた。

「碧の眼のあの子…」

二人の戦いをずっと注意深く見守っていたヴィクトリアが亜光速の赤い閃光の中から姿を現す。

「フェリノ様!!」

フェリノの身体はか細い腕に包まれる。

「ロ、ローズガード卿!なぜ!」

「フェリノ様…ご無礼をお許し下さい…」

二人の姿はたちまち真っ白な光に包まれてゆく。大気を打ち鳴らす轟音と猛烈な爆風が辺りを襲い、魔道師達の囲みは蜘蛛の子を散らすように散り散りになっていく。

「フェ、フェリノ様!ローズガード卿!な、なんというバカ魔力だ!」

「いかん!!あの魔力干渉波に巻き込まれるとまずいぞ!!」

「だ、駄目だ!!か、身体が…!!身体が崩れる!!」

高速移動のための魔力蓄積をしていなかった古の魔道師の群れは魔力を伴った衝撃の波に次々と飲み込まれていく。魔力(秘術)で生み出された肉体は対魔力耐性が著しく弱かった。彼らの身体は焼かれると言うよりもまるで乾き切った泥人形のように粉々になって砂煙へと姿を変えていく。その光景は生身の人間のものとはまた違った凄惨さを持っていた。なのはは思わず顔を背けずにはいられなかった。

やがて辺りが静寂に包まれる。

レイジングハートから白い蒸気が吐き出され、真っ赤に焼けたカートリッジが地上に落ちていった。なのは を囲んでいた魔道師達の姿はもうそこにはなかった。立ち込めていた残留魔力と物理干渉の影響で生じた煙が少しずつ晴れていく。煙の中から二つの影が浮かび上がる。

「フェリ…ノ…さ…ま…ご無事…で…よかっ…た…本当に…よかった…」

「ローズガード卿…そなた…自分の身を呈してまで…」

ヴィクトリアのバリアジャケットは無残に焼け爛れ、白い肌はひび割れた磁器のように崩落し始めていた。なのは はその光景を無言のまま見つめていた。

「不覚をとったが…危ういところをこうして卿に救われた…感謝する…」

「どうか…ご再起を…皆…必ずや…また…蘇り…フェリノ様の御前に…」

「…それには及ばぬ…ローズガード卿…もう…休むがよい…皆と共に安らかにな…」

「フェリ…ノ…様!な、なにゆえ…!」

「皆に会ったら伝えて欲しい…苦労をかけてすまなかった、と…」

「わ…私…ずっと…フェリノ…様のことを…お慕い…申して…」

「…この世界では果たしえぬ想いも…胸の奥に焦げ付いた果たせぬ約束も…きっと…そなたが望めば適う時が参ろうぞ…安心して眠りに付くがよい…そしてそこで新しきが拓かるのを待つがよい…」

「嬉しゅう…ございます…」

「さらばだ…誇り高き我が近衛…ローズガード卿よ…卿の事は生涯忘れはせぬ…」

薄墨のような黒い雨がフェリノの腕からヴィクトリアの肉体を水に流される砂のように洗い流してゆき、やがてその姿は煙と共に跡形もなく消えていった。炎に包まれる首都を見下ろす上空にはもはやなのはとフェリノ、二人の姿しかなかった。フェリノは立ち上がると なのは にキッと鋭い視線を送る。フェリノのバリアジャケットはあちこちが破れており、息を切らせている雰囲気が伝わってくる。

それなりにダメージは通ってるみたいだけどあの子が庇った分…やっぱり浅い…

黒い雨の向こうに見えるフェリノの姿が霞んで見える。大魔力の放出の後ということもあったがなのはは立っているのもやっとというあり様だった。相手がいまだ健在であることはなのはにとって少なからず誤算になっていた。

降りしきる薄墨の雨の中、二人はどちらからともなくそれぞれの得物(デバイス)の切っ先を向けた。フェリノの真紅の眼光が一際鋭さを増す。漆黒の七徳の法衣を翻すとフェイトから奪ったバルディッシュを両手で下段に構え、その背後には神槍バルディエルがおびただしい数の光の穂先となってなのはの心臓を虎視眈々と狙っていた。

張り詰めていく空気は凍てつく風のように鋭く、二人の耳には眼下に広がる火の海の中で逃げ惑う人々の叫び声はもはや届かなかった。そこにあるのは精神の真空、完全な静寂だった。

あの子も分かってる…分かりすぎるほどに…次がお互いの最後になるって…

熱を帯びたものが胸から込み上げるのを感じた なのは は思わず口を左手で押さえた。その様子をつぶさに見つめていたフェリノは思わずなのはを見る目を細める。

「ゴホッ…ゴホッ…」

指と指の間から鮮血が滴る。もはや血が混じるという状態を通り越していた。

「高町…貴様も胸の宿痾(しゅくあ / 長患いする病のこと)に犯されておるのか…ふん…フェイト
テスタロッサと同じで貴様にもつける薬はないらしい。知っておろうがこの病は強大過ぎるリンカーコアが身体を蝕むことが原因だ…そこまで病が進めばもはや貴様が子を成す事はあるまい」

なのはは一瞬、顔を強張らせたが小さくため息を付くと真剣な面持ちでフェリノを見据える。

「それは…何となくだけど分かってたよ…だけど…私にはもうヴィヴィオがいる…それで十分幸せだし…あの子達にこの世界を…いや未来を残してあげたいんだ」

「それが…それが残された僅かな命を削ってでもこの世界を護ろうとする…高町、貴様の強さ…なの…か…ブフッ…ゲホッ…ゲホッ…」

フェリノはいきなり口から大量の鮮血を吹き出すと堪らずその場に片膝を付いた。

「フェ、フェリノちゃん!?」

「ふふふ…高町よ…貴様はどこまでも…愚かだ…今が…我が首を挙げる…絶好の…好機であったのに…」

唾棄するかのようにフェリノは口中の血を吐き出すとゆっくりと起き上がる。その姿を見ていたなのはも血で汚れた口元を思い出したかのように拭った。

「シュベルトクロイツ…そして貴様…僅か…僅か二戦でこのザマとは…アリシア…そなたの身体の何と病弱なことか…そなたはやはり魔導師にはなれぬのだな…」

「アリシア…アリシア!?フェイトちゃんのお姉さんの名前だよね!?どういうこと??フェリノちゃん!?」

「貴様に関わりのない話だ…高町…どうやら…我が命数はここで尽きるらしい…ならば…!」

両者は再びデバイスを構え直して魔力を練り始める。

「今こそ貴様を我が対等の敵と認め、我が全霊を注いで討ち果たす!!高町!!貴様をこの大陸ごと吹き飛ばしてくれようぞ!!プレアデス…天上の我が眷属よ…我が眼前に立ちはだかりし長久の咎人を焼き尽くせ…Photon Lancer Inferino!!」

「くっ」

凄い魔力反応…

海は割れ、大気は打ち震え、そして地鳴りと共に大地は割れる。フェリノの身体を巨大な光が包み込む。眩いばかりの光が太陽のように終焉を迎えつつあるミッドチルダを余さず照らす。その尋常ではない魔力の発動は言外に自らの命と引き換えにした自爆の術であることを物語っていた。

我が仇敵アルハザードを一時の方便とはいえ我が故郷などど戯言を吐いたことは返す返すも口惜しいが…テスタロッサ卿よ…全てはそなたをその気にさせるための詐術…堕ちたものだ…ヴィンセントの愛を失うのも当然だ…一番の道化はわらわの方であった…

「フェイト
テスタロッサよ!そなたの母もかつて目指したアルハザードとの因縁!後事は我が眷属たるそなたに託す!」

なかば絶叫に近いフェリノ叫びを聞いた なのは はハッとした表情を浮かべると、首都に浮かび上がっている巨大な魔法陣の方に目を走らせた。

フェイトちゃん…

「そんなこと…させるものか!レイジングハート!カートリッジロード!」

地上を焼き尽くさんとする光と化したフェリノに背を向けるとレイジングハートを巨大な火柱が立つ魔法陣の中心に向ける。レイジングハートが忙しく薬莢を吐き出す。

ユーノ君、わたし、今、やっと分かったよ…盟約の儀の意味が…

空になった弾倉を投げ捨てては新たに装填する動作を何度となく なのは は繰り返した。その数は、前人未到、空前絶後の実に36発を数えていた。

魔導師はこうやって因縁をずっと後世に託してきたんだ…自分の過ちやどうにもならない運命のせいで失ってしまったものを必死になって探して、その後悔を埋め合わせようとする…魔導師は科学の不条理を具現化する存在…だから余計に求めてしまう…でも…

「Bruster mode extension!!」

なのはの周囲に展開して神槍をけん制していた4基のブラスタービットが舞い戻ってくると、猛るレイジングハートに穂先をあわせた。レイジングハートを中心に据えた光の正方形が作り出され、みるみるうちに魔力の大量収束が始まる。

それが果たせない望みである事をいずれは思い知らされる事になる…そして僅かな望みはやがて大きな絶望を産んでいく…そうやって負の連鎖が延々と繰り返される…

「だから…一人になっちゃダメなんだよ…断ち切らなきゃいけないんだ…仲間と一緒に!勇気をもって!そうやって人は…欠片(Fragment)を”希望”に変えていかなきゃいけない!!」

砲身の安定と射手への負担を緩和するためレイジングハートは更に伸び、その全長は2メートルを既に超えていた。凄まじい熱量と振動がなのはの全身を襲う。

「Sniper scope…Smart ver…断ち切る…断ち切ってみせる…フェイトちゃん…わたしが!救ってみせる!」

常人の域を遥かに超越した魔力を収束させつつあるレイジングハートが低い唸り声を上げはじめると、危険を察知したバルディエルが背を向けているなのは目掛けて殺到する。無数の穂先が雨あられの様に降り注ぎ、周囲に発動したプロテクションサークルはたちまち穴だらけになってゆく。

進路を阻まれていた一本がプロテクションの一角を突き崩すと刺客は群れを成して容赦なくなのはの肩やわき腹を抉っていく。それでも なのはは身じろぎ一つすることなく、ただ、魔法陣の中心にじっと狙いを定める。

無情に時は二人を追い立てていく。

高潔のアルカス(反義:嫉妬)より栄光を…
慈悲のクルタス(憤怒)より正義を…
謙譲のエイギアス(傲慢)より思慮を…
研鑚のバルエル(怠惰)より勤勉を…
豊穣(節制)のザルゼル(暴食)より自制を…
救じゅつのブラウゼル(強欲)より勇気を…
そして…純潔の…名を奪われし乙女(色欲)より慈愛を…
七徳(七罪)の法衣をまといし我が求めに応じよ…
 
もの悲しくもあったが凛と響く静かな詠唱だった。

大魔力が引き起こす物理干渉によって生まれた熱と轟音が なのは を襲う。脅威のカートリッジロードによって一気に放出された魔力もまた新たな“星”となって地上を照らしていた。光と光がミッドチルダの上空で互いに鬩ぎあう。

目標までの距離5682m…重力補正…スコープ収差…オールグリーン…

スコープの向こう側にガックリと頭を垂れているフェイトの姿を捉える。更にその後ろにはうねる火柱が-陽炎の中で揺らめいていた。

高性能ライフルの最大射程は1800mと言われている。それは魔法文明のミッドチルダでも事情はほぼ同じだった。だが、科学であれ魔法であれ条理を捨て去ってその限界を超えた時、その領域を人は“神域”と呼び、一線を越えた者を“神”と呼ぶ。
 
そして、時は満ちる。

「フェイトちゃん…これが…私の…最期の…全力全開…」

「千年…か…長く…そして儚かった…ヴィンセント…待っていて…」

「STB (Star Light Breaker) interseptor !!」

「PL (Photon Lancer) inferino!!」
 
その時…世界は真っ白な光に包まれていた…



次回、最終話につづく

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