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第六話 Furious (激情:前篇)

 

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6th piece / Furious-1


新暦77年1月21日 AM10:30
ミッドチルダ首都クラナガン時空管理局地上本部
八神はやて特別捜査官の部屋
 

「はーやーてちゃん。にゃは!」

「なのはちゃん!どないしたんや!ホンマに久しぶりやな!もう身体の具合はええんか?」

「うん。もう元気!元気!さっき戦技教導官として正式に復隊してきたところなんだ。久しぶりに地上本部に来たからはやてちゃんに会いたいなって思って。明日からお仕事を始めるんだよ?」

「そうやったんやなあ!うんうん!みんなもきっと喜ぶよ。そや!もうフェイトちゃんには会うたんか?」

「ううん…それがまだなの…お部屋には行ったんだけど…捜査本部の会議が長引いてるらしくって…」

「そうなんや…まあ、一昨日
(1/19)に第4の事件が発生したばっかりやったから大変なんやろなあ…まだ鎮火してへんし…」

「ホント…タイミングが悪いっていうか…この年末年始はお互いに全然時間が合わなくて…」

「そっか…電話とかしてへんの?」

「えっと…何回もかけてるんだけど出てくれないし…」

「なんやのその態度…むっちゃ腹立つな…」

「あ、違うんだよ!こ、これは!」

「何が違うんや!いつまでもグジグジ甘えてるだけちゃうの?言いたいことがあるならハッキリ言ったらええのに!人に心配かけるのはおかしいよ?」

「そうじゃなくて…フェイトちゃん…物凄く不器用で怖がり屋さんだし…多分、私に怒ってるとか、嫌いになったとかじゃなくて…どっちかというと怖いっていうか、怯えてると思うんだ…」

「怯えてる?」

「うん、そう…私には何となく分かるんだ…一人で寂しく膝を抱えて…部屋の隅で震えてるような感じ…」

「はあ~何かややこしいなぁ…まあ、これはなのはちゃんたちの問題やから私もあれこれ首を突っ込むつもりはないけど…でも、やっぱり他人様に心配かけるのはようないと思うで?子供やないんやから…もう私たちも
20歳やで?」

「まだ
15だよ…」

「え?
15?」

「そう…フェイトちゃんは今年で
15歳…フェイトちゃんとして生きて、そして重ねて来た時間…」

「あっ…そうか、そういうことか…それにしてもなんと言うか、なのはちゃんはまるでフェイトちゃんのお姉さんみたいやなぁ…なのはちゃんのフェイトちゃん想いには適わんわ」

「お姉さん?わたしが?フェイトちゃんの?」

「そうや。フェイトちゃんはどう思うてるかしらんけどなのはちゃんにべったりやろ?ちょっと誤解を招く言い方やけどフェイトちゃんは精神的な部分をかなりなのはちゃんに頼ってる、頼り切ってると思うわ」

「まだ、私のことをそう思ってくれてるならいいんだけど…私が酷いことを言っちゃったからフェイトちゃんは心を閉ざしてしまったかも…やっぱり、私が悪いんだよね…どう考えても…もう一度、フェイトちゃんとお話が出来るといいのになぁ…はあ…」

「まあ…それは言いっこなしやと思うよ?なのはちゃん…売り言葉に買い言葉っていうのもあったやろし…それに…後遺症のことをシャマルから聞かされた直後やろ?平静でいられる方がむしろおかしいと思うで?そりゃ、一人になりたい時ってあると思うし…まあ、私はフェイトちゃんに少し厳しいかもやけどね」

「フェイトちゃんは本当に心配してくれていたんだよ…私のこと…でも…体のことを聞かされて気が動転していたのもあったけど、あの時は自分の信じることを精一杯最後までやり遂げたいって気持ちの方が強かったから…療養生活を送って欲しいってフェイトちゃんに言われて水を差されたような気持ちについなっちゃって…あの時…もっとお話していれば分かり合えたと思うんだ…私も弱いんだね…自分では強いつもりだったけど…」

「なのはちゃん…もう自分を責めるのはそのくらいにしといたらどないや?フェイトちゃんもそうやけど…二人が自分のことを責め続けてても何も解決せえへんのと違うか?そや!さっき、ロッサからケーキバイキングのチケット
3枚もろうたんや。フェイトちゃん誘ってみんなで行かへんか?これでキッチリもと鞘(さや)にしよ!」

「わあ!どうしたのこれ?すごーい!うん、行こ!行こ!」

「おーし!決まりや!」



同日。AM11:00
時空管理局地上本部プレアデス連続テロ事件捜査本部
 
炎は生き物に本能的な恐怖を与える。それは人間だって例外では無い。一度、恐怖が波紋のように広がり始めると、強風に煽(あお)られる野火のように容易には消し止められない。恐れ戦(おのの)く人々の心を恐怖の連鎖が支配し、それはやがて激情へと変わっていく。

私が事件現場から地上本部に呼び出されたのはそんな時だった。

「諸君の努力は一応認めるが、残念ながらこれまでのところ捜査の進捗(しんちょく)は決して満足出来るものではない。地区政府の第一執政(ミッドチルダにおける元首)も今般一連の連続テロ事件に関して深く憂慮(ゆうりょ)されておられる。我々、時空管理局の捜査本部にかかる期待は非常に大きい。しかしだ!今までにみすみす
4件のテロ事件を許しておるにも関わらず、犯人はおろか何の手がかりさえも掴めていない状況は実に嘆(なげ)かわしい!現捜査本部の捜査体制には執務次長閣下のみならず執務長閣下も非常に失望しておられる!!言い訳があれば聞こうか!!ハラオウン執務官!!」

捜査員達が居並ぶ捜査本部に部長執務官の罵声(ばせい)が鳴り響く。室内の空気が僅かに揺れた。誰も労(ねぎら)いの言葉を期待などしていなかったけど、本来の任務ではないとはいえ、救助活動をわざわざ中断させてまで召集された捜査会議で私たちを待っていたものが鬱憤(うっぷん)を爆発させた“上からの温かい激励”というのもちょっと考えものだった。

右の頬が少しヒリヒリしている。見上げるばかりの溶鉱炉の近くで浴びた灼熱の飛まつのせいだろうか…

「…誠に申し開き様もありません…現在の不甲斐ない状況は一重に私の捜査指揮に問題があります…所轄の捜査員及び当捜査本部の運営スタッフは非常に優秀であり、全員一丸となって事件の早期解決に向けて必死の努力を傾けております。どうかその点につきましては何卒ご理解を…」

恐怖は人を狂わせる。

昨日、発生したばかりの第四の事件は、あらゆる意味で人々を恐怖のどん底に陥(おとしい)れていた。首都クラナガンの南部には大型プラントが林立する工業地帯が広がっている。この事件が今までのものと一線を隔しているのは、敷地面積
2平方kmの広大な製鉄所全体が火に包まれたことだろう。これは5年前の首都空港のビル火災をはるかに上回る規模だった。

「ふんっ!所詮は先般の
JS事件でたまたま挙げた功績を奢(おご)って己の実力を見誤るからこういう事になる!!恥を知りたまえ!!バカモノ!!」

憤懣(ふんまん)やるかたないといった様子で部長執務官は私を睨(にら)みつけ、それとは対照的に捜査員達の冷め切った白い視線が執務正たちに注がれているのが分かった。捜査本部の空気は最悪だった。

私の上官であり、組織上の捜査指揮官である執務正と主席執務官は、さっきから私や怒りくるっている部長とも全く目を合わせようとしない。それどこか、まるで亀が首をすくめるかの様に小さくなっていた。嵐が過ぎ去るのをジッと水面下で伺っている、という形容がぴったりだった。

ひとしきり怒声を浴びせ終わった部長はあからさまな嘲笑を浮かべながら、今度は一転して出来ない子を哀れむような視線を向けてきた。

本当に人をいびる事に関しては多才だった…

「君もねえ…猪武者じゃないんだから直進ばかりじゃダメなんじゃないかね?たまには変化球を使って緩急つけたテンポのいい捜査をすべきだと思うねえ…漫然と捜査をするのではなくてだね、もっとこう…なんというか…エレガントかつ迅速に捜査する工夫は出来ないのかね?」

言っている意味がまるでわからない…六課がなくなった途端にこれだ…

広範囲に強大な影響力を及ぼす大組織というものは、裏を返せば“寄せ集め”がお互いの足を引っ張り合っている、実に下らない集団、ということでもある。

「無策というのは無能と同義だよ?君ぃ…しかも未だに鎮火すらしていないというではないかね…ま、消火救助は我々の主務ではないがこんなところで油を売る暇があったらバケツリレーの一つでも手伝ったらどうかね?」

事故現場からわざわざ呼びつけたのはあなたでしょ…

事件発生の直後、私はすぐに特別捜査部のはやてに出動要請することを捜査本部の上層部に提案していたが、それはすぐに却下されてしまった。もっともらしい理屈が並べられたが、つきつめれば“リク”に名をなさしめたくないという大人の事情が透けて見えていた。私の提案を却下したその張本人から今、こうして怒声や嫌味を浴びせられている自分がひどく惨めに思えた。

「まったく…総務総監(リンディ・ハラオウン)閣下に拾われた野良猫風情が捜査主任とはな…局にはもっと他にましな捜査官もいないのかね?ふん…まあいい…あるものを使うというのもたしなみの一つだからな。先人が築き上げてきた栄光ある執務官の歴史に泥を塗らんように気をつけたまえ」

自分のことをなじられるのであれば幾らでも我慢出来る。昔からずっとずっと耐えてきたことだ。でも、私の大切な人たちに対する侮蔑は身を切られる以上に鋭い痛みがある。

この人…分かってて煽ってきてる…私を怒らせてそれをリンディーさんの足を引っ張る口実にするつもりなんだ…

顔が熱い。あの奇妙な記者に指摘されたように…今の私は怒りで真っ赤になっているのかもしれない。必死になって抑えている感情は…小刻みに震える握り締めた拳を見れば誰の目にも私の裸の感情は一目瞭然なのかもしれない。

それでも…私は…耐えるしかない…



あんた…どうして本来の自分に背を向けているんだ?テスタロッサの娘が…

それは…私が…今は…ハラオウンの娘だから…

そんなに…簡単に捨てられるもんかね?

何をですか…?

本来の自分、ってやつさ…

私…私は…

気の毒にな…あんたもエリオ君も売られてるってのにな…
何の義理立てなんだ?そりゃ…



 
売られてるって…それはどういうこと…

「聞いてるのかね?ハラオウンくん…」

「あっ…は、はい…大変…申し訳…」

謝れば…私さえ耐えればそれで全てが済むはずなのに…分かっているはずなのに…言葉が喉の奥に引っかかって出てこない。

ど、どうして…


やれやれ…お人良しにも程があるぜ…
あんたにはプライドってものがないのか…

プライド…

人が人であるための…生きてるって証…それがプライドだ…
それがない人間は“人形”と同じだぜ?

やめて…やめて下さい…

あんたが現実と向き合わないなら…いつか大切なものを失っちまうことになる…
その時に後悔しても遅いぜ?

やめて!!もう私のことは放っておいて!!これ以上、構わないで!!
どうして…どうして今までと一緒じゃいけないんですか!!
 


「声が小さくて聞こえんよ?女の特権で泣けば済むとでも思っているのかね?」

「誠に…申し訳ございません…今後もご期待に添うよう…最善を尽くす心算です…」

私に注がれる勝ち誇り、嘲るような部長の視線から今は一刻も早く逃れたかった。
いや…もしかしたら私はもっと、根源的な何かから逃げようとしているのかもしれない。

なの…は…なのは…惨めな私に温かく差し伸べられた手…

携帯に届いていたはやてからのメールを思い出していた。ひょっとしたら、今はそれだけが唯一の私の支えなのかもしれない。

また逃げている。現実からも、自分からも…私は逃げている。全てから逃げ出して、何にも向き合う勇気を持てない…


まったく子供じみていてどうしようもない。でも、それでもいい。
あまりにか細い、今にも切れてしまいそうな糸であったとしても信じ続けていればきっと救われる。そう信じるから、そこに僅かな希望があるから、人は耐えることが出来る。

例え、どんな酷い仕打ちを受けたとしても…そう、あの時だって耐えられた…ずっと…
母さんを信じ続けていたあの時だって…私は…耐えられたんだ…

長々と続いていた部長執務官の訓辞が終わるといきなり弾かれた様に沈黙していた執務正が立ち上がる。

「こ、これより現場周辺の重点的聞き込み調査を実施します!直ちに捜査員全員は総力を挙げて犯人に繋がる有力情報の知得に努めるように!以上!解散!」

半狂乱に近い、この素っ頓狂な指示にその場にいた全員が呆気に取られていた。

まだ鎮火もしていないというのに…部長の手前があるのは分かるけど、これはもう破れかぶれ状態だ…

「ハラオウン執務官は本部に残って捜査員達に適宜指示を与えるように!分かったかね!」

「え、あ、あの…私は…」

「捜査もろくに出来ないくせに口ごたえだけは一人前というわけかね?君は」

「はい…分かりました…」

相手に有無を言わせない粘りつくような部長の言葉に私は従うしかなかった。

機動六課では感じることの無いこの息苦しさ…これこそが本局執務官本来の姿…上には絶対に逆らえない完成された世界…

やっぱり私は夢の世界から完全に戻ってきてるんだね…一人孤独に生きる現実の世界に…

・ 
 

不毛な会議がようやく終わる…

気まずい空気が支配する部屋からようやく解放された喜びも束の間だった。

私はとても心配なんです…フェイトさん…大丈夫かしら…

早くフェイトさんに追いつきたいのに小柄な私の前に立ちはだかる大柄の男共がかなり邪魔だった。後ろでイライラしている私に誰も気がついていない。

「あーあ、やってらんねーなぁ…ったくよ…
JS事件を解決した若手ホープに期待して任命した、とか最初に言ってたのはテメエの方じゃねえか…」

「まったくだ…よくもまあ…ここまであっさりと掌返しが出来るもんだな…ある意味、これって才能だよな。部長執務官まで上り詰める奴はやっぱ俺らとは何か違うぜ」

「士気高揚とか本人は思ってるんだろうが逆効果だよな…だいたい、主席とか執務正とかスルーして現場主任を満座の前で一人だけ吊るし上げるとかマジで私情挟みまくりじゃん。ムカつくよな…」

捜査員達は部屋を出ても口々に不平を並べていた。そのほとんどが私の気持ちを代弁している。

当たり前よ…こんな腐りきった世界…諸悪の根源は不完全なまま完成してしまった局という存在なのよ…

「ホント…死ねばいいのに…ちょっとすみません!通してくださーい!」

人の波を掻(か)き分けながらフェイトさんのあとを必死に私は追った。

「さっきの…シャーリー…さん…だよな?」

「ああ…何つうか、ちょっと意外だな…あの人も怒ることあるんだな…」



同日。PM01:15
首都クラナガン中央区某ホテル内カフェ
 
「ホント…はやてちゃん、モンブランケーキ好きだよね。もうそれ3つ目じゃない?他にも一杯美味しそうなやつあるのに…」

「なのはちゃんやって…さっきからイチゴのショートを重点的にバスターしてるやん。盛大に口にクリーム付けて言われても説得力ないよ?」

「ふ、ふええ!そういうことは早く言ってよ!テーブルとケーキの間を何往復したと思ってるの?ひどいよ…もう、やっと取れたし…」

「てか…このババロア食べた?なのはちゃん…」

「う、うん…さっきからすっごく努力してるけど…ちょっとずつ…」

「ぶっちゃけ不味ない?」

「い、言わないでよ…見た目だけで判断して
3個も取ってきた自分の食い意地に嫌気が差してるところなんだから…で?無かった事にしたくなるババロアのことは置いておいて…どうして局から場所を変えようって言い出したの?はやてちゃん」

「私、アカン、これ…めっちゃ不味いわ…ゼラチンの塊を食べてるみたいや…ん?何か言うた?」

「またまた…単に私とフェイトちゃんの仲を取り持つってだけじゃないことは分かってるよ?局の外に出たかったんでしょ?」

「ふっふっふ…さすがはなのはちゃんやな…実を言うとあの部屋は盗聴されてるねん」

「と、盗聴…!?」

「そうや。なのはちゃんが来る前にロッサと会ってたんもそのことを相談するためや。まあ、色気も愛想もない私みたいな小娘を盗聴する奇特な相手には、大体のところ察しが付いてはいるんやけどね」

「そうなんだ…六課の時もそうだったけど、相変わらず私たちを目の敵にする人が多いみたいだね…局の防諜課にはもう相談したの?」

「その防諜課自体が仕掛けた思念通話対応型デバイスやから厄介なんや…外に出る以外に秘匿する術が無いんや」

「思念通話もキャッチするなんて…なるほど…だから私とフェイトちゃんのことを理由にして自然な形で外に出たってわけだね?」

「まあ、それもあるけど…でも、私の本心は本当に二人の間をどうにかしたいって方が正しいんよ?」

「ありがと、はやてちゃん…はやてちゃんも大変なのに…それでアコースさんは何て言ってたの?」

「相手の全貌を掴むために暫く泳がせておくことにしよ、ってことになったんや。逆に偽情報を流して相手を炙り出したりも出来るから考えようによっては便利やしね。出る杭は打たれる、ま、これはどこの世界でも同じことやね…」

「はやてちゃんも結構、強(したた)かなんだね…私は全然ダメ…そういうの苦手だし…」

「まあまあ。得手不得手もあるやろうけど…私はむしろ、なのはちゃんやフェイトちゃんには局のこんな薄汚い姿を見て欲しくないんや。二人とも天使みたいに純粋やから…いつまでも二人にはそれぞれの道で夢や理想を追い求めて欲しいし、出来ればこれからも局を好きでいて欲しいって思うてるんよ?人を害するのも組織やけど、同時に多くの人を救うことが出来るのも組織なんやから…人間一人で出来ることは限られてる。神様やないんやから…」

それが…私が上を目指す理由でもあるわけやけど…大切なものを守ろうとすれば、自分が強くなるのは当然として、それなりに権力(ちから)は必要になる…組織の中に生きる者の宿業(さだめ)やな…毒を喰らわば皿までとは言うけど…喰らった毒気に呑み込まれてダークサイドに堕ちる人間が跡を絶たんのも事実…あのレジアスのおっさんやってそうや…人間って自分が思うほどそんなに強くは出来てない…誰もが自分の弱さを抱えてるんや…

なのはちゃん…フェイトちゃん…私ら
3人のうち…もし、道を違えてしまいそうな人間が出てきたら…その時に止められるのは…他の誰でもない…やっぱり私らだけやと思う…

ハッ!な、なに言ってるんやろ…私…

「それにしても…はやてちゃん…よく盗聴の存在に気がついたね?」

「えっ?あ、ああ…それはちょっとしたきっかけがあったからなんよ」

「きっかけ?」

「一昨日
(1/19)の製鉄所火災が起こった直後に…実はフェイトちゃんから私のオフィスに電話がかかってきたんや…大規模火災が発生したから消火活動を手伝って欲しいってな…」

「え?で、でも火はまだ燻(くすぶ)って…」

「そや、それが盗聴に気が付いたきっかけなんよ。いつまでもぐじぐじしてるフェイトちゃんに色々思うところはあっても他ならぬ友達の頼み事や。私に異存があるわけない。すぐに出動するつもりで準備しとったんやけど、間髪を入れずに私の上から横槍が入って来たんや…全陸士部隊の介入不可…実戦部隊が動く法的要件未達とかなんとか御託を色々並べとったけど要は縄張り争いやね…」

「もし、はやてちゃんが出てたらその日のうちに鎮火してるよね…でも、誰が何のためにそんなことを…」

「恐らく…執務(官)長か次長か…その辺りから陸士部隊総司令部に手が回ったんやろな…まあ、プレアデスの件絡みで局の上の方でパワーゲーム(権力争い)が起こってることはロッサから聞いとったけど…まさかここまで露骨に来るとは思いもよらんかったわ…予想の斜め上もいいトコやったわ…」

「そんな自分勝手な理由だけで事件の対応を判断するなんておかしいよね」

「私も納得なんか出来へんよ。せやけど…面と向って上から縦(組織)の論理を持ち出されたら、私もフェイトちゃんもそれには黙って従うしかあらへん。まあ、これを言い出すと私の六課立ち上げの話にまで戻らなアカンくなるけど…要はそんな横の連携は組織の正論の前ではあまりにも無力っちゅうこっちゃ」

なのはちゃんはフェイトちゃんと違ってなかなか自分の感情を表に出さない。でも、私にはよう分かる。目の前のなのはちゃんは今、怒ってる。そうや、確かに怒ってる。

激しく不味いババロアをフォークでメッタ刺しにしてるし…誰が食うんや、それ…

「大体、出動要請自体は私とフェイトちゃんの筋だけでしれっと進めようと思っていた話や。組織を通せば昔の空港火災みたいに後手後手に回るのは分かりきってた訳やし。せやからバカ正直なフェイトちゃんでさえ、あえて組織をバイパスしてきたんや。名よりも実を取った訳やな…ところが…普段は鈍足な筈の局のお偉方が裏技を封じる迅速な動きを見せた、これはどう考えても盗聴されてるとしか思えへんやろ?実際、疑問に思って上の電話を置いた後で自分のオフィスを調べてみるともう…そりゃゴロゴロ出てきたわ…半ば見つかるのを覚悟で仕掛けてるみたいやった…つまり、相手も本気で私らを潰しにかかってる…こういう時は下手に動かん方がええ。盗聴器は気が付かぬ振りをしてそのままにしてるんよ」

正義感の塊みたいななのはちゃんにこんな話をするのはある意味、賭けみたいなもんや。自分が正しいと信じる心が強ければ強いほど、時として周囲を見る目を曇らせてしまうことだってある。

そのリスクを天秤にかけても…話して聞かせるのは私のなのはちゃんに対する信頼の証…なのはちゃん、勝手な言い草やけど…激情に駆られたらアカンよ…フェイトちゃんを助けたいと願うなら尚のことやで…

「許せない…こんなのって…ありえないよ…」

「なのはちゃん…ちょっと落ち着きや…怒りたいのはよく分かるけど、こんな時こそ感情に任せて先に暴発した方が負けや。下手打ったらアカン。上の動きと一連のプレアデス事件はな、これは単純な事件なんかやないよ。相当に奥深い犯行動機と目的、しかもその構図は極めて複雑怪奇になってると思う。まるで入り組んだパズルみたいに…」

「まさか…局の自作自演…」

「いや、ロッサも私も同意見やけど、さすがにそれはないわ。確かにプレアデス事件と局内のパワーゲームは同時に起こってはいるけど、地区政府や局内のゴタゴタは事件の風評を単に利用して主導権を握ろうとしているケチな行動に過ぎへん。さすがにヤブを突き過ぎて局の職権の分離分割議論を自分から加速させたくはない筈や。これだけのことを起こしてしまうと自演としてもさすがに着地点がない。この二つは分けて考えるべきやろな。それから…これはかなり言い難いねんけど…」

「なに?改まっちゃって…私なら大丈夫だよ。体が震えるくらい頭にはきてるけど…でもはやてちゃんが言うとおりだと思うし、相手が誰なのかも分からないのに暴れ回るわけにもいかないよ…」

「そう言ってもらえると私も話しやすいわ…あのな…その…この事件の中心には多分…フェイトちゃんがおる、と思う…」

「え…そ、それは一体…どういうこと…?はやてちゃん」

さて…ここから先のこと、どう話したもんかな…

思いを巡らせていると、突然、私の携帯が鳴り始める。メールを受信した音だった。

「あ、ごめん、ちょっとメールや…やっぱりな…」

「どうしたの?誰から?」

「フェイトちゃんや…ここに来られへんみたいやわ…」

「そっか…」

やっぱり、にらんだ通りやな…今のところは、やけど…


第6話 完 / つづく

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