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第五話 F・A・T・E (運 命)


長女は、主上なる神に嫁してセクレクトを産み、黄天の夜に焔を上げる

次女は、読書好き、満月の夜に踊りだす

三女は、東の海で太陽を向えて豊穣の笛を吹く

四女は、タイロンを産みて父なる神の槍を守護する

五女は、アルタナに祈りを捧げて病を癒す

六女は、アバロスの祝福を戦士に伝え、獅子の日に勝利をもたらす

末娘は、情深く、禁断の園に入りて火をヒマノスに伝える
天上を追われてその名を失い、大地は七日の内に火に包まれる

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新暦76年12月31日 PM11:50
ミッドチルダ首都クラナガン時空管理局 執務官室
 

遠くの方で電話が鳴っていた。

誰もいないオフィスに鳴り響いている音で私はゆっくりと目を覚ます。いつの間にか自分のデスクに突っ伏して眠っていたらしい。

「い、いけない!私ったら調べ物をしている間に…」

逸(はや)る気持ちとは裏腹にまどろみから覚めたばかりの身体が言うことを聞かない。ようやくの思いで受話器を取るといきなり電話の向こう側から賑やかな音と一緒に懐かしい声が聞こえてきた。

「もしもし?フェイトさん?リンディです。ごめんなさいね?仕事中に…」

「あ…お、お義母さん…え、えっと……こ、こんばんは……」

受話器を握る右手がまるで禁断症状か何かのように小刻みに震える。

お義母さんと話をする時の私はいつも緊張して思わず上ずってしまうのが常だったが、今までとは全く異質なものが私の中に芽生えたせいでそれが過度の緊張を強いていた。

いつの間にかもう一方の手が右手に添えられていることに気が付く。

「例の事件を担当しているんでしょ?本当に大変なお仕事ね…折角の新年祭だというのに…」

「は、はい…でも…まあ…その…大丈夫です…」

「クロノもね、ちょうど昨日こっちに戻ってきたところなのよ。久しぶりだったからさっきまでカレルもリエラ(1もそれはもう大はしゃぎでちょっと大変だったわ…さっきようやくお休みしたところだけど二人とも会いたがっていたわよ?フェイトさんに」

「あ、あの…ごめんなさい…わ、わたし…」
 
「ふふふ。心配しなくてもいいわよ。二人には私たちがよく言って聞かせてあるから分かっていと思うわ。担当している事件があるとお休みなんて取れないもの。私もクロノもエイミィもみんなそうだったからよく分かるわ。でも身体だけは壊さないようにね」
 
「はい…お義母さん…」
 
胸が締め付けられる…呼吸をすることすら難しい…
 
「大丈夫?なんか声に元気が無いようだけど?疲れているの?」
 
「あ…い、いえ!大丈夫です。本当に大丈夫ですから。心配しないで下さい」
 
ただ、その優しさが怖かった…今まで味わったことがないほどの幸せに恐怖していた…
 
普通に接しなければと思えば思うほど…私は口ごもり…話すべき言葉を失い…ただ顔を赤らめて俯くしかなかった…そんな私の少女時代…
 
幸せであるが故に恐怖に怯える毎日だった。
 
血も繋がっていないばかりか所縁も全く無い、私のような犯罪者の娘にどうしてこんなにも温かく、そして優しく接してくれるのか。子供心にもそれが非常に奇特なことだと分かっていた。
 
証拠は何もない…そして確信など全くない…
 
あのいかがわしい記者の言うことを完全に鵜呑みにする心算はなかったけど確かに私に下された次元法院の判決は異例中の異例と言ってよかった。それに加えて公判中の人間を拘置せずに嘱託魔道師にして、保護観察下とはいっても限りなく黒に近い人間を塀の外に出すなど狂気の沙汰だ。立場を違えて仮に今の私が全く同じようなことが出来るだろうか?
 
その答えは限りなくNoに近い…
 
私に何かの見返りになるほどの価値があるとも思えないけど…少なくとも正攻法では絶対に無罪の芽などないことはあの男に言われるまでもなく理解できる事だった。
 
真実はどうあれ…私が、私という”物”が…お義母さん、あなたのお役に少しでも立てたのであればそれは本望です…私はどうなってもいい…

でも…
 
エリオとキャロだけはこの身がどうなろうとも絶対に誰の手にも渡しません。奪おうとするものは誰であっても容赦はしない。それが例え…あなたであってもです…
 
お義母さん…
 
「あ、もうそろそろカウントダウンね。別々に迎えることになるけどあなた達はあなた達でよい新年を迎えてね」
 
「え?あ、あなた達…?」
 
「やだわ、フェイトさん。何言ってるの?あなたのお家の方にアルフもいるんでしょ?今年は二人で新年祭を過ごすんじゃなかったの?」
 
アルフが…?私の家に…?何が一体どうなってるの…

恐らく、思いがけない一言に私の頭はこの時、完全にパニックになっていたんだと思う。

「フェイトさん…本当に大丈夫?てっきりアルフも一緒だと思っていたから一人でいるよりも精神的に負担が少ないと思って黙っていたけど…あなた…本当に疲れてるんじゃないの?アルフとは一緒じゃないの?」

「え?あ、は、はい…勿論一緒です…」

気が動転していたとはいえ、これは明らかに付くべき嘘ではなかった。もし、アルフの身に何事かがあったら…

でも…もう後戻りは出来ない…

今は僅か一秒の沈黙すら恐怖だった。

「あ、あの…それでは私、まだ片付けなきゃいけない仕事もありますので…今日はこの辺で…」

心ならずも重なっていく嘘…積み上げられていく偽りはどんどんと心に隙間を作っていく…

「そう…だったらいいけど…分かったわ。あんまり長電話してあなたのお仕事頑の邪魔をしてもいけないわね。でも、くれぐれも頑張りすぎないようにね、フェイトさん」

「え?あ、は…はい…ありがとう…ございます…」

「じゃあ…またね。次に会える日を楽しみにしているわよ」

「分かりました…あ、あの…お義母さん…」

「なに?どうしたの?フェイトさん」

「…どうか…よいお年を…」

「…ありがとう…あなたもね…」

「はい…それでは失礼します…」

受話器を置いた私はまるでフルマラソンを走ってきたかの様に全身から汗が出ていた。とても嫌な汗だった。

常識的な…いや、まともな判断すら下せなくなってきてるのかしら…

私もどこかが狂ってしまったのだろうか…母さんみたいに…

「そうだ…アルフ」

私は慌てて目を閉じるとアルフを呼び出し始めた。

ダメだ…全然…繋がらない…

携帯のような通信手段を持たないアルフとは今までずっと思念通話で連絡を取り合ってきていた。

「嘘でしょ…アルフ…ホントに何処行ったのかしら…」

アルフはよく知っている筈だった。なのはとの共同生活が入院を契機にして完全に壊れてしまっていることも、ヴィヴィオがなのはの入院の間、ユーノと一緒に生活していたことも、そして私が今は一人で生活していることも…

前に住んでいたなのはの家やユーノの家に私をスルーしてアルフが転がり込むとは到底思えなかった。

「ひょっとして…私たちの精神リンクのせい…」

良くも悪くも私たちはある程度、精神状態が同期されてしまう。近頃の私のメンタルヘルスがアルフの精神に悪影響を及ぼさないとは言い切れない。そもそもアルフ自身にハラオウンの家を出て行く理由などある筈が無いのだから。
 
奇妙な記者にあって以来、私は真剣にエリオとキャロを連れてどこか遠くに逃れることも選択肢の一つに考え始めていた。言い換えれば、それはハラオウンの家と少し距離を置くことと同義だ…

もしかしてそれがアルフの失踪に影響しているのだろうか…

「でも…それもちょっとありえない…」

精神リンク以上に使い魔と魔力供給している契約主との間には魔法契約という非常に強力な縛りが存在している。契約主の情緒が幾ら不安定だからといって契約を結んでいる使い魔が契約主に背いて自由意志を持って姿を消すというのは考えにくい。契約を満了あるいはどちらか一方が反故(破棄)にすれば使い魔は消滅してしまうのだから。


昔、リニスが私を置いて行ってしまった様に…どんなに傍にいて欲しいと願っても、どんなにお互いが慈しみあったとしても…当事者達の意思や想い、つまり精神的な類は完全に度外視され、厳格に魔法契約は履行されてしまう…

使い魔の運命はあまりにも儚い…だから…

私はアルフとの契約を“一緒にいてくれること”にしたんだ…つまりそれは“私が死ぬまで”という意味…

「アルフ…」

急に外が明るくなる。

驚いて窓の外を見ると自分のすぐ目の前で新年の訪れを報せる花火が次々に舞い上がっては闇夜に巨大な花を咲かせていた。

「年が明けたんだ…」

闇夜を切り裂く無数の閃光が蒼白い私の顔を僅かに染めて、少し遅れて辺りに響く轟音が今にも倒れそうな身体を小刻みに揺さぶる。

波乱の年が過ぎ去ってゆく…時間の濁流に押し流されながら…

「このまま消えてしまえばいいのに…跡形もなく…何もかも…私の全てがなかったことになれば…それはどんなに楽なんだろう…」

空ろな瞳に果たして今、私は何を写しているのだろう…

人は逃避する時、全く恐ろしいことを考えてしまう生き物らしい…だから…

罰が当った…
 


新年を迎えた熱気と興奮も冷めやらぬ首都クラナガンに第三の予告が届いたのは明け方近くのことだった…
 
「緊急指令!緊急指令!東エーカー区20番街1番通り18番地15号!クラナガン港湾地区内のオペラハウスにて魔力干渉型の第1級物理破壊現象を確認!事件当時、オペラハウス内ではニューイヤーのオールナイトコンサートが開催されており、1000名を超える聴衆がまだ建物の中に取り残されている模様!被害は甚大!繰り返す!被害は甚大!尚、現場付近は初日の出の見物客でごった返しており、港湾地区一帯で負傷者が多数出ている模様!首都防衛陸士部隊の到着に遅れが出ることが予想されます!航空機動部隊は総員直ちに現場に急行して下さい!また所属に関係なく空戦適性を保持する局員の有志を歓迎します!消火作業、及び救護活動を最優先して下さい!繰り返します…」

 
三女は、東の海で太陽を迎えて豊穣の笛を吹く

 
血塗られた新年が幕を明けようとしていた…



新暦77年1月24日PM01:30
時空管理局付属無限書庫資料閲覧室
 
「調べ物は終わりましたか?アコース査察官」

「ああ、ユーノ先生。どうも。ちょっとお邪魔してますよ」

「珍しいですね…ちょっと驚きました…あんなに飽きっぽいのに朝からずっと閲覧室に篭りっぱなしだなんて…何をそんなに熱心に見ておられるんですか?へえ、アコースさんも『古代ミッドチルダ伝承記』を?やたら人気があるんですよねぇ、これ」

「特に面白くも無いこんな本が人気ですか?」

「そりゃそうでしょう。異常者プレアデスが現れてからというもの…毎日とっかえひっかえの状態で…お蔭さまで今では当店のご指名No.1ですよ」

「やれやれ…ユーノ先生も好きだなあ…ま、冗談は置いておいて…古典好きな人間なんて局にはそうそういませんから事件でもない限り誰も好き好んで引っ張り出したりはしないでしょうねぇ…あ、そうだ…ちなみにどんな方々がこの本を?」

「どんなって…色々ですよ。まあ当然ながらほとんど局の人ですけどね。アコースさんが知ってそうな人で言えば…そうだな…例えばシャーリーさんとか…」

「シャーリー?ああ、本局のシャリオ・フィニーノ執務官補ですか?フェイト執務官と一緒に機動6課解散後にこっちに復隊した子ですね?確かフェイト執務官のところには高町一等空尉が手塩にかけて育てた生きのいい新人が事務官で一人いる筈ですけど…どうしてまた彼女自らわざわざ?」

「えっ?理由まではいちいち聞かないから分からないですよ。フェイトがプレアデス事件の捜査主任をしてるからその関係かな、くらいしか思いませんでしたし…」

「そうですか…」

「何か…気になることでも?」

「あ、いや、そういうわけじゃなくて…ちょっとね…あ、他には?」

「うーん…ちょっと前にミッドタイムスのエドっていう中年のおじさんが来ましたねぇ…他には地上本部の捜査官がゾロゾロ…よかったら後で来館者と閲覧資料の記録を渡しましょうか?」

「それは助かります」

「それにしても随分高く積みましたね…これも最近多いな『天上の七姉妹』…『古代ミッドの神々』に『黄道魔道大全』…あ!これに目をつけるとはさすがですね、『雷神フォノンの系譜』はマジお勧めです…あとは…えっ?『アルトセイム郷土史』…こっちは…『古代錬金術全書』と『主上の法具』…これは…『フォトンバンド』……」

「そんなにヘンですか?僕のチョイスは…ユーノ先生」

「あ、い、いや…皆さんと同じ様に神話関係だけかと思ってたんで…その…なんというか…ちょっと意外だったというか…」

「はははは!いや別にいいですよ。つい5日前…新暦77年1月19日 の午前零時ちょうど…首都クラナガン南テイオー区の工業地帯19番地19番通り1号地の製鉄所が爆発炎上…火の勢いは衰えることなく三日三晩もの間、首都の天頂を焦がし続けました。死者52名、内消防隊の殉職者14名、及び重軽傷者332名を数えるに至った第四の事件のことは先生もご存知でしょ?」

「ええ…TVでもそればっかり報道してますし…」

「先生は民間協力者というのが建前ですけど紛(まが)いなりにも局の人間です。プレアデスが送って来た例の“謎かけ文”のことはご存知ですよね?」

「ま、まあ…一応…」

「四女は、タイロン(時の神)を生みて父なる神の槍を守護する…ミッドが誇る新進気鋭の考古学者であるユーノ先生なら僕の本のチョイスの理由がこれでお分かりになると思います」

「今年の1月19日はミッドチルダにおける旧暦上の“新年”に当る日…すなわちプレアデス七姉妹の四女が主上なる神との秘めた逢瀬の果てに産み落とした、時の神タイロンが生まれた日と伝承では伝えています。このタイロンの誕生によって時間と言う概念が生まれ、万物の不死性が失われて神々以外のものには“寿命”が与えられることになったと言われています…」

「さすがユーノ先生ですね。僕が午前中をフルに使って調べたことがあっという間ですね。今度から何かあったらユーノ先生に一番に伺うことにしますよ」

「いえ…僕はむしろアコースさんがアルトセイム関係に目を付けられたことの方に感服しますよ。ミッドチルダの南部一帯アルトセイムは古代ミッド関係の遺跡が点在しています…それに昔、錬金術が盛んだった場所ですし、武具や法具などの名工が現在でも多い“たたら場”ですからね」

「その通りです。山深く、森と泉に囲まれた自然豊かな地域だが古くから鉱山の町として知られていますよね?」

「はい。天上のプレアデス七姉妹の四女は錬金術師達の守護神とされていますし、時が刻々と音を刻むのは子守唄代わりにタイロンが母の振るう鍛造の音を聞いて育ったからだとも言われているんです。まあ、これには諸説ありますけど…末娘には及ばないにしても他の姉妹達と比較して逸話が多いですからね、四女は」

「ユーノ先生…そろそろ本題に入りたいんですが…」

「本題?」

「“時の庭園”ですよ。アルトセイムにかつてあったと言われる…雷神フォノンが哀れな娘子に与えたという離宮」

「も、もうそこまで…ご存知だったんですか…ホントに驚いたな…」

「ま、山勘が当っただけですけどね。ははは」

「アコースさんには適わないな…四女がタイロンを身篭った時、主上なる神は既に七姉妹の長女を正妻に迎えていたんです。この長女がとにかくプライドが高くて嫉妬深いことで有名だったため身重の四女は姉の目を偲ばねばならない身の上になってしまった。四女と孫のタイロンを不憫に思った雷神フォノンは自分の離宮だった“時の庭園”に二人を匿って密かに養ったといわれています。そこで産屋を設けて四女はタイロンを無事に出産。以後、娘子は時の庭園で父と主上なる神の二人から密かに保護されて暮らしたんです。因みに時の流れが無常なものになってしまったのは神々の住まう天上の世界から身を潜ませねばならなくなったタイロンが自分の出生を嘆いたからだとも言われているんです。四女は錬金術と鍛冶の守護者で自身も優れた名工だったんです。タイロンを生んだ後、四女は産屋を鍛冶場に変えて、蔭ながら自分達を保護してくれている父と夫である主上なる神の武運長久を祈念して聖なる武具の数々を鍛えたというわけです…だいたいこんなところじゃないでしょうかね」

「まだあるでしょ?ユーノ先生…この本、『アルトセイム郷土史』によるとで時の庭園すねえ…時の庭園では数々の名工が生まれてアルトセイム一帯で刀工などが盛んになったと言われているそうですよ。特に四女が時の庭園の鍛冶場で鍛えたものの中の傑作の一つに雷神の槍がある。この闇を切り裂く名槍を地上の人は畏怖の念を持ってこう呼んだそうです。バルディエルと…」

「そ、それは…」

「おや?そんなに僕の調査内容が意外ですか?ちなみにこの雷神の槍と対を成す法具とされているのが・・・黄金の戦斧…バルディッシュ…このバルディッシュという名前に聞き覚えがあって朝からずっと引っかかっていたんですが…ユーノ先生の顔を見てようやく思い出しましたよ。ははは」

「…」

「そうそう…そういえばフェイト執務官のご出身もアルトセイムですよね?確か…ま、それは単なる偶然でしょうけどね」

「ははは…ホントに適わないな…」

「今日はプレアデスの送りつけてくる謎かけ文が全く荒唐無稽なものではなくて、しっかりとした意味を持っているということが分かっただけで大収穫ですよ。それにしても…聖なる鍛冶場が製鉄所とは恐れ入りましたよ…じゃあ、いずれまたお会いしましょう。ユーノ先生」



 
第五話 完 / つづく
 

 

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