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第九話 Fallen (堕落者:後篇)
9th Piece / Fallen-2
「いきます…シグナム…」
「いいぞ…その目…そして、その殺気…それでこそ…私が認めた相手だ…」
けたたましいサイレンやオートジャイロのローター音が私達二人に迫ってきている筈なのに静寂が私を包む。全てを賭ける…!この一撃に…!
「はああああああ!!!」
奔れ…!雷光の如く…!打ち砕け…!稲妻のように…!
「抜刀!!!必中!!!」
な、なに…!?こ、この感覚…
辺りの景色が気持ち悪いほど歪み、そして時の流れがどんどんと遅くなるような感覚に私は捉えられていた。
う、ウソだ…信じられない…シ、シグナムの早抜きが…ゆっくり…いや、ほとんど止まって見える…!?まさか、これが…
音速の向こう側を知る限られた古の魔道師達は、そのあまりの速さゆえに雷鳴のごとき衝撃波をその身に纏(まと)ったいう。黄道系魔道師の中でも高速と破壊を極意とする雷神の系譜を継ぐものを人々は特に畏怖し、その秘術を求めてアルトセイムに巡礼するようになった。
その秘術の一つが…超音速(Sonic move)をも凌駕する超高速…サブライトニング(亜光速 / Sub-lightning)…神域に達した者のみが知るといわれる世界…
但し、その秘術を伝える者は絶えて久しい、と母さんから聞いた事がある。遥か昔に失われた秘術、魔術の類を母さんは忌み嫌っていたんだ。
母さんは…アリシアを喪わなければならなかった魔道師として生きるしかなかった自分に絶望していた…自分の意思とは裏腹に生き急がねばならなかった、魔道師を…母さんは憎んでいた…心底…
そんな母さんを狂わせ…そして、アルハザード(主上なる神の神殿)へと駆り立ててしまったのは…私のせいなんだ…私さえ…魔道師に目覚めなければ母さんは…狂わずに済んだ…
私さえ…私さえ…私さえ…!!
頭がどうかなってしまいそうだった。でもそれ以上に身体が熱かった。今にも燃えてしまいそうなくらい熱い。
全身がやけどしそうなほど…熱い…!
空気との摩擦が生みだす1000℃を遥かに超す熱が私を包み、漆黒の夜空に真紅の光跡を残す。その色はどんどんと明るさを増して黄金色の光になっていく。
だ、誰か…誰か…助けて…な、なの………は……
その閃光がヒマノスの末裔の網膜を焼く時、その者は既に我が電刃に臓腑(ぞうふ)を抉(えぐ)られ、焼かれ身悶えているであろう…
若い女の人の声……だ、誰……!?
さあ、汝(なんじ)の眼前に立ちはだかりし、この痴(し)れ者を存分に打ち滅ぼすがよかろう…
こ、このままだと…シグナムが…シグナムが…危ない…
私は直感的にそう思った。
どうした?全てを屠(ほふ)り、不浄なるもの全てを無に還す…これこそが我が眷属の成すべき定めよ…さあ、何を躊躇っておる…きゃつの身体をこの世から余さず焼き滅ぼせ…
い、いや……いやだ……早く…こ、ここから…抜け出さないと……これ以上…スピードを上げては…ダメ…
なぜ、速さを求めぬ…なぜ、力を求めぬ…今、その足を緩めれば…汝が斬られるぞ…?この鈍足に汝はあえて斬られたい、とでも申すのか…?きゃつの姿を見よ…完全に止まっている泥人形のようではないか…
この運命からも逃れることが出来ず…また、シグナムの剣からも逃れられないなら…斬られることを選びます…シグナム…それがあなたであればなおさら…
馬鹿な…汝は正気か…なぜそこまでしてきゃつを助けたいのか…?
もし…あの時…シグナムが完全に剣を鞘(さや)に収めて居合い抜きを選んだ時…私が全力で遁走すればシグナムは絶対に追いつけなかった。でも、あえてそれを選んだシグナムが…例え矛を交えようとも、どんなに私を不甲斐なく思っていたとしても、最大限の礼と信頼を私に表していたことは痛いほど分かる。
それが分かるだけに…私は…その礼に応えなければならない…そんなシグナムをこんな形で喪いたくない…そう、私はもう何も失いたくないんだ…だから…
愚かよのう…だから、自分が消えてしまえばよいとでも申すのか…?救えぬな…
愚かでいい…私だけが消えてしまえばいい…そうすれば、誰も傷つかない…
同じ過ちを犯すと申すのか…血は争えぬの……まあ…それもたまにはよかろうぞ…だが、やっと会えた汝に死んでもらっては童(わらわ)が困るでな…
うるさい…!!
好きにするがよい…童(わらわ)も好きにさせてもらおうぞ…我が甥、タイロンの世界に戻りたければ戻るがいい…ふふふふ…
そして、タイロンが駆け抜けてゆく。
「抜刀!!!必中!!!」
その一瞬…全てが…私の全てが静寂に包まれていた…ぬめるような感触の生暖かい液体が次々と噴出し、最後の冬風がその熱を奪っていく。
「テ…テスタロッサ…お、お前…なぜ…」
私の身体はこんなにも熱いのに…どうして…寒いのだろう…
「ば、バカ!!なぜだ!!なぜ打ち込んでこなかった!!レヴァンティンめがけて飛び込んでくるとは…しょ、正気か!!」
「し、シグナム…よ、よかった…あなたが無事で…」
「何を言っている!!テスタロッサ!!偶然を装って結界を破る意図が分からないお前では無いだろ!!しっかりしろ!!す、すぐ手当てを…くそ…なんてことだ…」
「ごめん…なさ…い…」
シグナムの前で私はバランスを崩すと前のめりに墜ちていった…奈落の底みたいに…暗い…
体中の力が抜ける。意識が遠のいていく。
「テスタロッサー!!!」
重力に身を任せる。風を切る耳を劈(つんざ)く音もみるみる遠のいていく。空ろな瞳に三つ子月が映っていた。
春が来た…母さん…また来た…春が…
目蓋が鉛のように重かった。
眠たい……このまま…落ちちゃうのかな…でも…なのは…私…泣いてない…よ…
途切れ途切れになってゆく意識の中で…私は…確かに聞いた…シグナムの悲痛な叫び声と…そして、詠唱の声を…
この声は…さっきのあの人…
アルカス、クルタス、エイギアス
汝らが眷属(けんぞく)…名を奪われし我が求めに今、応じよ…
バルエル、ザルエル、ブラウゼル
天を突くは怒れる雷鳴…闇を奔(はし)るは一閃万里の雷光…
雷神の意志を継ぎし聖なる我が矛先に…汝らが刃を合わせよ…
主上なる神と再生の雷神の御名において汝らに命ずる…
我が眼下の不浄を薙ぎ払え…フォイエル・イルフェリノ…
新暦77年2月4日 AM00:33
首都クラナガン フリード北区8番街上空
その時、私は信じられない光景を目の当たりにしていた。
「な、なんや…あの…雷の塊は…あ、あり得へん…」
かつて…その場所にあったはずのミッド中央病院は私の位置からは全く見通すことが出来なかった。大地から巨大な紅蓮の炎が噴出しているような、いや、竜巻と言ったほうがいいのかもしれない。得体の知れない何かが…燃え盛る炎がまるで生き物のように巨体をくねらせながら天頂を目指してまさに駆け上がろうとしていた…
「は、はやてちゃん!」
「分かってる…リイン…目標を包囲中の航空機動隊各位に伝える!直ちにミッド中央病院の半径100…いや、300メートルや!全速力で退避!!各員衝撃に備え!!リイン!!」
「は、はいですう!」
「私らはみんなを守らなアカン!いくよ!!広域結界や!あの爆発衝撃を封じ込める!!」
「はやてー!!」
「ヴィータ!!はよ、指定ブロックから脱出しいや!!」
「シグナムが…シグナムが!!」
「な、なんや!?シグナムがどないしたんや!?」
「て、テメーか!!シグナムをやったのは!!このやろー!!アイゼン!!ぶっ潰せぇええ!!」
「ヴぃ、ヴィータ!?もしもし??」
荒れ狂う火柱のすぐ近くで閃光がほとばしるのが見えた途端、ヴィータとの思念通話がぷっつりと途切れた。
「ヴィ、ヴィータ!!ヴィータ!!聞こえてたら返事しいや!!ヴィータ!!」
なにがどうなってるんや…これ…
「はやてちゃん!!爆発が!!」
「し、しもた…!え、詠唱が間にあわへん…!」
「違いますです!!あれを見て下さいですう!!」
「そんな……うそ…やろ…?」
巨大爆発につき物の爆風と衝撃波が周囲に襲い掛かることはなかった。それどころか、あたかも目には見えない巨大煙突がそこにあるかのように火柱が灼熱の煙と轟音を伴って首都クラナガンの夜空を不気味に焦がしていた。
「ま、間違いない…あれは結界や…」
「そ、そんな!!まったく魔力反応がない結界なんてあり得ないですよ!?」
「おかしいのは分かってる…でも…間違いない…あれは確かに結界や…それも見たことないほど強力で…しかも完璧な結界や…」
私は今…一体、何を見ているのだろう…目の前に起こっている全て事が全く不可解で…そして…絶望的な状況を理解したくなかった…
「リイン!!あの結界の近くに行って解析や!!ザフィーラは…」
「ヴィータとシグナムは既に収容を完了した…」
「な、なんやて?二人とも無事か!?」
「重体だが命の心配はない…」
「重体…プレアデスにやられたんか!?は、はやくシャマルのところへ搬送を…それにしても二人を同時に救出とは大変やったな…」
「主はやて…私だけの力では二人を救えなかった…助太刀がなかったら…」
「助太刀?局の誰かか?」
「いや…アルフだ…」
「アルフ…アルフやって!?何でこんなところにおるんや!?い、今どこに?」
「それが…二人を安全な場所に運び終わるともう姿が見えなかった…」
「んなアホな…局の次元転送に一切ひっかかってへんよ?幻覚でもない限りぱっと消えるなんてありえへん…」
「八神班長!!こちら陸士特捜部!!」
「ああん!もう!次から次へと一体どうなってるんや!頭パンクするやん!!」
「え?あ…すみません…で、ですが現場近くでシグナム隊長が追跡していた無許可個人飛行者の身柄を確保しました!!また、所持していた凶器がシグナム隊長とヴィータ空尉の傷口と一致することを確認!!状況から考えてミッド中央病院を破壊した張本人、指名手配犯のプレアデスと考えてほぼ間違いないと思われます!!」
「な、なんやて!!ぷ、プレアデスを…容疑者をウチで確保したんか!?お手柄やで!!」
「はっ!腹部に重傷を負っておりますが命に別状はないものと思われます!病院で治療後に直ちに緊急逮捕致します!」
「了解や!治療の間に次元法院への令状請求を急がせるわ!犯人のデバイスを証拠品として押収忘れんように!犯人の映像出せるか?」
「はい!こちらです!」
「うーん…暗くてようワカラヘンけど…あ!いま、見えた!見えた、けど…これ…映像間違えてへんか?自分…」
「いえ!犯人に間違いありません!」
「うそや…」
「は、はやてちゃん…あ、あのう…わ、わたしは結界の解析を急いでするですよ!だ、だから…元気出して…」
「うそやろ…こんなの…うそに決まってるよ…なんでや…なんでこないなことになるや!!」
その信じがたい映像に…私は…暫しの間、完全に言葉を失っていた…
第9話 完 / つづく
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