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第十話 Fact (真実:前篇)

何度でもやり直せる…たとえ泣き虫で弱い私でも…
出会ったばかりのあの頃…

君が………

君が傍にいてくれたから…私はそれを信じることが出来たんだ…

でも…君はきっと失望するだろう…
君だけではなく、自分さえも信じられずに…
私の大切なもの全てを裏切ってしまった私に…

もう…後戻りは出来ないんだ…
もう…誰も私の名前など呼んではくれない…
私はまた…自分の名を失ってしまった…

自分の弱さのせいで…


「消せない過去、戻らない時」~オリジナルサントラ集より

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10th piece / Fact-1 (真実:前篇)


六女は、アバロス(太陽神)の祝福を戦士に伝え、
獅子の日に勝利を伝える…


物語は少し遡(さかのぼ)る。

・ 
  ・ 
新暦77年1月26日
クラナガン西区 (ティアナ・ランスターの下宿マンション)

「うー!うがー!さっきから全っ然こねー!ちくしょー!」

「ちょっとティア、なに発狂してんの?危ない人みたいだよ…(汗)」

「うっさい馬鹿スバル!宿の確保もしないでノコノコと出張してくるあんたを誰が泊めてあげてると思ってんの?ちったぁ感謝しなさいよ!」

「だってさあ…クラナガンには数え切れないくらいホテルがあるのにどこも満室だなんてさあ…ありえなくね?これ?」

「あ・の・ね!この時期のクラナガンはすっごくホテルの予約が取りにくくなるの知らないの?1月末と7月末の年二回しか開かれない公的機関関係の試験を受けに受験生が各地からいっぱい押し寄せてくるんだから!あんただって六課に配属される前は私と一緒にホテル住まいだったじゃん。覚えてなかったの?」

「ああ…あの朝食が激マズだったホテルかあ…料金が安かったのはよかったけど、ホント、メリットってそれだけだったよね…よく覚えてるよ…でもさあ、予約が取りにくくなるって印象あんま無かったっていうか…」

「ちょ、あんた…それって遠回しに宿を確保した私に文句言ってない?つか、だんだん思い出してきた。宿とか切符とかの手配を全部、あんたは私に押し付けたわよねぇ?そういえば…」

「お、押し付けるなんて!それは違うよ!試験会場に行けさえすればどうにでもなるって私はマジで思ってたから!その…直前まで何もしなかっただけっていうか…」


「そうよねぇ。あんたっていつもそうなのよ…最後の最後まで本当に何もしないっていうかさぁ…あの時だって…私が宿無しのあんたのために自分の時とは比べ物にならないくらい物凄く苦労して予約してあげたってのに…しかもさぁ…訓練学校時代の定期試験とかも全部つけ刃でヤマ勘の癖に…いっつも…いっつも…そこそこの成績取るしさぁ…なに?これ?ひょっとしてあんたってかなり人生舐めてない?(ビキビキ#)」

「ちょっ、ちょっと…?ティア…なんか話がビミョーに変な方向にいってないかな…?それ…」

「うるさいバカスバル!!あの時から全っっ然成長してないってのはどういうこったぁ!?」

「う、うわ!!ちょ、ご、ごめん!ごめん!」

機動六課でルームシェアしていた時とはまったく比べ物にならないほど狭い私の下宿にスバルが上がり込んで来たのは3日前のことだった。本局のデータベースを兼ねている無限書庫で過去の捜査資料を調査するというのがスバルの出張の目的らしいけど…初日に書庫に立ち寄ってユーノ司書長と面会した以外はまるで仕事をしている様子が無い…ていうか、地上本部や今の同僚(陸士部員)はおろか、中島陸佐やギンガさん達とも接触するわけでもなく…補佐官試験直前の特別休暇で仕事を休んでいる私と一緒に日がな一日を部屋でゴロゴロしていた。

まったく…いい気なものね…何考えてるんだか…

「くそぉ…明日が試験だってのにぃ…テキストがボロだから全然頭に入らない!もし補佐官試験に落ちたらコイツ(クロスミラージュ)で死刑にしてやるわ!」

「あのさ、それってテキストのせいじゃなくて頭のせいって言わない?ふつー」

「あんた…私の頭が低スペックだって言いたいの?えー、えー、そうですとも!どうせ私は各種様々なありとあらゆる試験に落ちまくってますわよ!要領のいいあんたと違ってねえ…悪かったわね! (ギロッ)」

「て、低スペックとか…そ、そんなことはないって!私はちょっと臭そうな所だけをつまみ食いするだけで、それがよく当るだけだしさ!へっへっへ…まあ、ティアは隅々まで納得しないと覚えない性質だからちょっと人よりアレかも…あ、あれ!?」

「ズーン……………」

「(やっべー!!戦意喪失してるし!!もしかしてこれって私のせい!?うっそ!!)あ!そうだ!ちょっとこれで息抜きしたら?はい!」

「(チラッ)まーた…スポーツドリンクかよ…もしかしてあんたってメーカーの工作員?本当に好きだよね…」

「乾いた心と体に染み渡るぜぇ?くるぜぇ?ガチだぜぇ?こいつはよぉ!(キラッ☆)」

「ちょ!バカ!顔近い!ったく…ま、まあ…せっかくだから宿代の替わりに貰っておいてあげるわよ…」

「ツンデレ乙」

「そんなことよりさぁ…あんたって何しにここ(クラナガン)に来たわけ?仕事しなくていいの?」

「え?仕事?何それ?おいしいの?」

「ちょ、おま…調べ物で来てるみたいなこと言ってたじゃん!なのに…ずっとウチでゴロゴロしてるだけだし…ぶっちゃけサボってて大丈夫なわけ?もしかしてエア出張?それとも年度末の予算消化?陸士の実戦部隊所属のあんたのところがそんなわけないか…」

「あ…そ、そうだったね…私仕事だったんだよね、あ、あはははは…ま、まあこれも仕事の一環、かな?へへへへ…」

「ヘンな奴…ま、あんたがこうして私の家で色々家事とか私の面倒みてくれるのは助かるんだけどさ…」

実のところを言うと…スバルが私の家に来てくれて助かるっていうレベルじゃなかった…

フェイトさんやシャーリーさんが執務官の上層部からほとんど捜査の妨害にしかなっていない不当な扱いで苦労している姿を目の当たりにしている私は明日から始まる補佐官試験に絶対に失敗できないというプレッシャーで正直、押し潰されそうになっていた。突然、私の目の前に現れた元相棒の顔を見てすっかり気持ちが和んでいたし、スバルはろくに食事もしていなかった私のために色々世話を焼いてくれている。思えば私達はずっと一緒にいて…お互いのピンチを助け合ってきた…

「ん?どったの?ティア。私の顔に何かついてる?」

「な、なんでもないわよ!ばか!」

照れくさくてお礼なんて言える訳ないじゃない。

「それにしても…一人暮らしの女の部屋ってのは実にわびしいもんだねえ…洗濯溜めすぎて明日穿いていくストッキングがないとかさあ…これって女としてどうよ?ぶっちゃけあり得なくね?彼氏くらい作れよな…」

「なっ…て、てめえ…!余計なお世話よ!あんただって隊舎じゃなかったら似たようなもんでしょーが!」

「ざーんねんでした!最近はギン姉の指導のお蔭で私もかなーり脱“汚部屋”出来てるんだぜ?」

「ゴミキングのあんたが!?うそ!!マジで!?」

「へっへー!うそだよーん!だったらいいな~ってことを言ってみただけ」

「テキストよりも…あんたの方を先にリアルで片付けたくなってきたわ…いやガチで…(ガシャッ!!)」

「ひえええ!!たんま!たんま!私に銃口向けないでよ!テキストを死刑にするんじゃなかったのかよ!?狙いが違うくね?!」

「うっさい!!いっぺん死ね!!こっちは事件の捜査も試験勉強も一考に進まなくてイライラしてんのに!!」

「ちょ、落ち着けって!ティア!じ、事件って…例の…無差別連続テロ事件のこと、だよね?確か…プレアデスがどうのこうのって…」

「そうよ!フェイトさんのチームが主体になって捜査してるから私も色々調べ物とかの手伝いで忙しいのよ…ったく…あんたみたいにフラフラしてる余裕ないっつーの!」

「今月も既に2件発生してるんだよね?ニュースでみたけどさあ…ほんと大変だよね…」

「はあ~全くよ…これで去年の12月から合計4件…最近は捜査本部に部長まで日参してくるあり様で堪ったもんじゃないわ…」

「現場に部長級?首都が騒がしいのは分かるけどちょっと大袈裟じゃね?号令しかかけない偉い人がいるのは一種の拷問だよねえ…そんな雰囲気堪えられそうに無いよ…その空間を爆破したくなっちゃうよね」

「それは私も同じだよ…八神部隊長の機動六課とはまるで雰囲気も違うからさ、もう空気最悪ってレベルじゃないし…」

「手がかりとか…ないの…?」

「あったらとっくに私がこの手で犯人をぶちのめしてるわよ…」

「そっか…そうだよね…」

「でも…どっちかって言うと犯人とかウチ(執務官)の上とかに腹立つっていうより…すっごい悔しいんだ…」

「えっ?」

「まだ雑用係で…実際の捜査にも参加できないし、会議にすら呼んでもらえない…それでも…私はみんなを庇って一人で上から罵詈雑言を浴びせられているフェイトさんを少しでも助けたいのに…それも許されない自分の不甲斐なさが…たまらなく悔しい…悔しくて悔しくて…ホント…今にも感情が爆発しそうになるんだ…」

「ティア…もしかして…そのせいで…」

「違う!それは絶対に認めたくない!勉強が捗らないのは私が要領悪くてバカだから…絶対にそんなことを言い訳になんかするもんか…私は一刻も早く補佐官試験をパスしなくちゃいけないんだ…休んでる暇なんて私には無いんだ…」

また…抑えていた感情が爆発しそうになる…シャーリーさんにアレだけ諭されたっていうのに…

「なんか…安心したよ…いつものティアで…」

「え…?な、何がよ?」

「やっぱ…色々プレッシャーとかで大変な執務官キャリアの道に入っても…ティアはティアだから…思いっきりやりなよ!ティアが信じることを!私はいつもティアのこと応援してるし、それに信じてるしさ!もっと!熱くなれよ!」

「っるさい!わ、分かってるわよ…そんなこと…」

ありがとう…スバル…いつも自分を見失いそうになるけど…私は一人じゃない…そのことをこうして確認することで救われる…人間ってやっぱり自分が思うほど強くはないんだろうなぁ…一人では手の届かないものって、やっぱりこの世には多い気がする…

「でもさあ…ホント不思議な事件だよねえ…プレアデスってさあ…誰にも解けないイミフな予告を送りつけてくるんだよね?暗号ってわけでもないんでしょ?」

「そうよ…一体何が目的なんだか…ま、暗号っぽいのは謎かけ文と一緒に添えられる数字の方ね。こっちの方はガチだと思う」

「数字?」

「そう。第一の事件ではNo.6、以下No.20、No.20、そしてこの前の第四の事件でNo.19が手紙に書かれていた。これは明らかに住所を示しているわ」

キョトンとしているスバルの顔を見た私は小さくため息を付くとボロボロに擦り切れてしまった次元九法の解説テキストの上にユーノ司書長が監修した捜査資料の一つを広げて見せた。




「あ、ホントだ。じゃあ…犯人が送ってくるメッセージの数字で、何区かは分からないけど少なくとも何番街かは分かるようになってるんだね。伝承を読めば方位は類推できるから…あとは七姉妹の特徴を掴んでいれば犯行が起きそうな施設に何となく見当が付くって感じだね。ここまで続けば偶然の一致とはいえないのかぁ…なるほど…」

「なに関心してるのよ…どうせ自己顕示欲の強い変態が無差別に起こしてる事件よ。数字の件以外は規則性どころか、まるで事件に一貫性がないんだもの…これじゃ対処のしようもないわよ。それに一体何が目的なんだかも全く訳がわからない。まあ、お蔭で世間はすっかり犯人の思惑通り蜂の巣を突いたような大騒ぎだよ。挙げ句の果てに管理局仕分けの陰謀説まで囁かれる始末だしさ…」

関係者以外に見せてはいけない資料をスバルは食い入るようにしてじっと見詰めていた。

「目からビームとか出して焦がしたりしないでよね。悪いけど幾らあんたと私の間でもこの情報を渡すわけにはいかないんだ。ごめんね。ま、あんたが頭の中に入れて持ち歩く分には問題ないから、興味があるんならしっかり覚えて置きなさいよ」

「ありがとう、ティア!でもさ…こうして眺めているとやっぱり“古代伝承”のことが分かっていれば、どうにか類推出来るようにはなってるんだよね…一応…あ~あ!まさか武装局員になって古典の知識が必要になるなんて聞いてないよ~」

「そうね…あくまで結果論的に、だけどね…」

「そうなんだよね。結果論、なんだよねぇ…これが事前通告じゃなければ何とかなりそうなのにね…」


犯人が名乗っている“プレアデス”も、世間にばら撒かれているメッセージも古代伝承上の“天上の七姉妹“に因んでいることは分かっても、”謎かけ文“自体はユーノ先生が調査した結果、犯人の自作、つまり既存の文献などからの引用ではないことが確認されていた。

それに加えて、犯人は謎かけの全体像を事前に示しているわけではなく、例えばマザーグースを使ったミステリーのように将来を無理やりにでも予見する余地すら私たちには与えられていない。ただ、粛々と七姉妹の逸話に因んだ短文を送りつけてくるだけ…しかも第一の事件を除いて全てが常識外れの”事前通告“…それらがプレアデス事件をまったく謎のベールに包み込んでいた。

「ねえティア…プレアデスは世間や管理局なんて実はどうでもいいって思ってるんじゃね?私は逆にものすごく犯人の目的は明確な気がするんだけどなぁ…」

「は、はあ!?ちょっとあんた何言ってるのよ!!世間が大騒ぎすることに快感を覚えるから犯行声明や予告をしてきてるんじゃない!!どうでもいいって考えてるならなんでわざわざマスコミやら官公庁やらにそんなもの寄越すのよ?自分の存在をアピールしたいからに決まってるじゃないの!なにバカなことを…」

「だっておかしいと思わない?もともとプレアデスから送られてくる謎かけ文って“私信っぽい”んでしょ?単純に考えたらそれは“私信の呈を装っている”じゃなくて、ホントに“私信”なのかもしれないじゃん?だったら世間とか局とかプレアデスにとってマジ関係なくね?それに手紙の内容が内輪ネタっぽいのはプレアデスが本当にFさんしか類推できないことをメッセージにしてるからなんじゃないの?」

えっ?な、なんだろ…今、凄い頭に閃光が走った…

「そ、そっか…じゃ、じゃあプレアデスがわざわざ“私信”を“Fさん”に送りつけて、しかも凶悪事件をミッドで引き起こしている動機は何なのよ?」

「え?だから会いたかったんでしょ?単純にさ。プレアデスはFさんと。ま、それが全部とは言わないけど少なくとも動機っていうか目的の一つだと思うけど?凶悪事件の方はよく分かんないけど…何かやっぱ意味があるんだろうね。少なくとも世間を騒がせたいだけにしてはちょっと違和感があるんだよね…」

シャーリーさんもそういえばスバルと同じ様なことを言っていた…プレアデスはもしかしたら人間の男と駆け落ちしたっていう雷神フォノンの末娘を探しているのかもって…

考えてみれば犯人が犯行声明の類で”私信を装う”必然性はまるでない。じゃあ…プレアデスは本当に雷神の末娘を、いや、さすがにそれは…とにかく氏素性は置いておいて、特定人”Fさん”を探しているだけなのかもしれない。

最初はスバルがまた素っ頓狂なことを言い出したと思っていたけど…改めて目の前で起こっていることを冷静に、そして単純に縺(もつ)れた糸を解(ほぐ)すように考えてみると、愕然とするような難事件の筈だったプレアデス事件の構図が驚くほどすっきりしてくる。

「ちょっと待って!スバル…だとしたら…もし、あんたの言う通りだとしたら…ど、どうして犯行声明や予告をする必要があるんだろう…私信を衆目の目に晒す目的は何だ?、てことになるじゃん」

「逆に考えるんだ、ティア。個人宛の手紙だけど別に公開しちゃってもいいさって考えるんだ」

「なん…だと…?」

「犯行声明も予告も犯人が全部一人でやっちゃうとは限らないじゃない?手紙を最初に受け取った“Fさん以外の人物”でもそれは可能じゃね?もし、受取人が公的な立場の人でそれなりにステータスのある人だったらアシスタント的な人間が届いた手紙を一括で開封して処理するのって珍しくないじゃん。“親展(Private)”とか書いてあれば別だけどさ」

「そうね。例えば事務官や補佐官のデイリーワークには執務官宛に届いた山のような書類や手紙の開封と整理があるし…この世の何処の“Fさん”かはよく分からないけど、個人宛の手紙が必ずしも個人の間で済まされるとは限らないのか…」

「そうそう!しかも手紙の内容ってかなり痛いんだろ?分かりやすく“ヌッ殺す”とか“爆発させちゃいます”って書いてあるならまだしも…犯罪とは全く予見できないようなイミフなことが書いてあったら十中八九、いたずらって思うじゃん?“当事者”以外は…だから始めは放置プレーしてんだよ。そしたら…」

「実はマジだった…」

「その通り!そこで慌てて広めたから“声明文”になっちゃった!それが第一の事件だけが“後出し”になった真相なんじゃね?第二の事件からはプレアデスがガチだと分かったからちゃんと“予告”に切り替えたってわけよ。だから事件を重ねる毎に予告と実行時間の間隔が延びて来てるでしょ?」

「確かに…第二の事件ではおっかなびっくりで直前もいいところだったけど、第四の事件になると一時間弱、か…“余裕”が出てきたって感じよね…その辺りからもFさん宛の私信を第三者が意図的に操作してるって感じがするわね…スバル!あんた、実は天才?これってすごい発見だわ…そっか…必ずしも犯人と予告する人間が同一人物である必要は無いし、またその保証もない…事件を第三者が別の目的のために利用するというのはよくある話よね…」

そうだ…全く一貫してないように見えてプレアデスのやることは、実は自分の目的にとても忠実かもしれない。ヤツは鼻っから私たちに謎を解かせる心算がない、もっと言えば眼中にすら入ってない。だから特定人に当てた私信なんだ。なまじっか、世間にばら撒かれているから誰もが”単なる手紙”を”犯人の挑戦状”と勝手に決め付けているけど…

これは誰もが参加できるクイズじゃないんだ…パズルだ…当てはまる要素があるか、ないか…プレアデスが提示しているものはただそれだけだ…

そう考えると…ごく単純な私信を別の目的のために勝手にばら撒く第三者、こいつのせいで実はFさんに会いたいだけだったプレアデスが史上稀に見る策士で次元世界史上、最悪の犯罪者と決め込んで捜査員達が事件を勝手に不可解なものにしているだけかもしれない。

「プレアデスが凶悪事件を起こす動機は依然としてよく分からないけど…でもかなりすっきりしてきた感じがするわね。第三者の介入も確証があるわけじゃないけど可能性としては十分だわ…でもさ、スバル…犯人がFさんに会うだけのためにわざわざ破壊活動に励むかしら?回りくどくてかったるい事してるのはやっぱ何か他に明確な目的があるからだと思うわ…愉快犯説を否定するなら常識的に考えて目的や動機はジェイル・スカリエッティみたいに反政府行動なのかも…あるいは局潰しの陰謀説と何か繋がってるかもね…」

「確かにこれだけの手間隙をかけているんだから目的は何かあるだろうけどさあ…やっぱり世間や局は関係ないって私は思うけどなぁ…」

「だーかーらー!なんでそう思うのよ!」

「だって、犯人だけじゃなくて、仮に第三者が存在していて話をややこしくしていたとしてもさあ…どっちにしても局潰しや世間に対する示威行動が目的ならいつ起きるかハラハラさせる時間が長いほど世間に対しては効果的だし、局を本当に潰したいならわざわざ自分で難易度を上げる必要ないじゃん」

「難易度?」

「そうだよ。だってかなり前から分かってることに対して対処療法しか出来ないっていうなら局が無能集団って言われても仕方が無いけど、事前通告に近くってしかも分かりにくい内輪ネタみたいな謎かけ文でドヤ顔されてるわけでしょ?これはちょっと局っていうか…捜査関係者にむしろ世間は同情しちゃうんじゃないの?実際、こんな状態でどうにかしろって言われても無理ゲーなんだけどね。勿論、感情論で文句は言われるだろうけど…」

「なるほど…そういう捉え方もあるのか…確かに陰謀ならもっと分かり易くすべきかも…難易度を上げて敵に同情集める必要なんて無い、か」

「そ!確かにマスコミは大騒ぎしてるけど、局っていうか、捜査関係者に対しては意外と同情的じゃん?批判は皆無じゃないけどね。さすがにマスコミだって分かるよ。5分前に届いた予告でどうにか出来ただろ!とか言わないって。むしろ…局をボロクソに言ってるのはミッドの地区政府の方じゃん。ま、連中にしてみれば当てが外れてかなりビビってると思うよ?だってマスコミのターゲットになっているのは自分達の方なんだから」

「確かにそうね。もし、局潰しの陰謀をヤツラが仮に企てていたならもっと世論を味方に付けるべきだわ。だったらもっと効果的なやり方が幾らでもあった筈…いや、それ以上に自分達に火の粉が降りかかっているのに事件は一向に収まる気配がないってことは…地区政府筋の陰謀説では説明が付かないし、第一、享受できるメリットがあまりにも少なすぎるわ。他人の作ったシナリオに乗りかかっているだけだから空回りしているってことか…」

犯人のターゲットから全く“局”が外れている、と考えるのはさすがにまだ早計だけど…無政府主義者の仕業にしてはあまりにも“目的(得られるメリット)”と“手段”が乖離(かいり)し過ぎている。確かにこれだけの事が起こってしまったんだから局もタダではもちろん世間の感情的に済まない。済まないけど今の同情的な世論を見れば潰される恐れはない。せいぜい上が全員、無職になるだけだ。

スバルが言うように、プレアデスが局なんて始めからどうでもいいと考えているなら、第三者の介在、こいつのせいで全て話がややこしくなっているだけ、ってことになる。いずれにしても事件の片棒を握っている奴が局の内部にいるのかもしれない。

まず、この得体の知れない“仲介者X”を確保することが先決…そしてその後で素直に犯行メッセージを読み解いて直接、破壊活動の実行犯を押さえる!そうだ…これがプレアデス事件解決のための基本戦略になる!

「よし…みなぎって来た!勉強する!こうしちゃいられない!早く補佐官になって私がこの事件を解決してやる!」

「さっすが!ティア!ということで…私は上から指示があるまでティアの世話をしながらここでのんびりさせてもらうからね」

「勝手にすれば?おもてなしは出来ないけどね。よーし!やったるぜえ!」

お礼は言わないわよ…スバル…わたしが試験に受かるまで…いや、プレアデス事件を解決するまでは!

昨日、シャーリーさんから貰ったメールで、ついに腰の重かった管理局幹部が捜査本部だけではなく局員の総動員を私の休暇中に決定したらしいことを知った。どうやら地道な捜査よりも現行犯で押さえて早期決着を図る方針に転換したらしい。フェイトさんが事件当初に考えていたタスクフォース体制とは質的に比べ物にならないけれど、動員数的には悪い方向ではない。但し、足を引っ張り合っていがみ合う烏合の衆ではあるけど…

スバルが部隊から離れてここにやってきたのも総動員の一環かと穿(うが)ったりもしたけど、こいつの様子だとさすがにそれは考え過ぎみたいだった。

「それだけ…ウチ(局)も追い込まれてるってことなのかなぁ…あーあ、やだやだ…」

「局の上の方は今回の騒動で軒並み責任取らされるだろうけど…ま、しょうがないよね。上のことは私達には関係ないからどうしようもないし…ティアもそう思うでしょ?」

「そうね…ホント私達にとってはどうでもいい話よね…ジジイたちがどうなろうとさ…」

不謹慎な言い方だけど、自分以外の人間がどうなろうと自分達には関係ない、キャリアと呼ばれる人種になれば他人は“その程度”の存在でしかなくなる。冷酷非道の椅子取りゲームが延々と繰り返されるだけの不毛な世界…それが局という存在だ。誰が寝首を掻こうとするか…いつ足元をすくわれるか…人臣位を極めようとする人間ほど気が気ではなくなり、権力への意思はやがて狂気へと人間を駆り立てていく。上の方でもそれがよく分かっているだけに、あのハゲ(部長執務官)みたく、目立つ若手は自派閥に取り込むか、或いは潰すかの二択になる。だから…エリートと呼ばれる人ほどこの世界では苦労する。フェイトさんや…そして兄さんみたいに…

だから…違法と分かっていてもあらゆる手段を講じて“力”を得ようとする。小心者の猜疑心ほど見境がなくなるものだ。八神元部隊長達みたく誰からも慕われるという人の方がやはり例外的なんだと、六課を離れて改めてそう思うようになった。

今の局が腐りきっているのは組織体が肥大化し過ぎて査察官だけでは目が行き届かなくなってしまっている、というのも一因だ。もう少しスリム化して風通しをよくすれば組織の毒素を浄化出来ると期待する声はむしろ局内の若手を中心にして大きいのは確かだ。局の分離分割論は何も政府や行政キャリアという外部だけで囁かれている話ではない。シャーリーさんが前に言っていた事が分かる気がした。組織に対する絶望が大きいほど…プレアデスの存在は天啓に感じられるのかもしれない。

「でも…やっぱり…逮捕しなくちゃいけない…何が何でも…」

“揺るぎない信念”を持つ大切さと難しさ…それをあの人(なのは)は私に身をもって教えてくれた。そして、フェイトさんはチャンスを与えてくれただけじゃない…じっと私のことを見守ってくれていることを…不器用な人だけど私はそれをよく知っている。

見守るというのは手や口を出す以上にかなり自分を追い込んで負担を強いる、とてもしんどい指導法だ…本当に優しくて真面目な人じゃないと出来ないことだ…

今度は私が受けた恩を返す番だ…いつまでも守られているだけじゃない…

こうして…私の戦いは再び始まった…
 



 
【補佐官試験日程】 

1月27日 執務官補筆記予備試験一日目 / 一般常識(国語、数学、外国語、選択科目二教科)
1月28日 執務官補筆記予備試験二日目 / 必須科目(ミッド人民憲章、次元宣言、次元九法一般)
1月29日 試験結果中間発表
1月30日 執務官補筆記本試験 / 専門科目(訴訟法、執務官基本法等)
1月31日 口頭試問(但し、筆記試験合格者のみ) 
2月1日   魔道実技(但、要件を満たす者は免除)
2月3日   合否発表
 

新暦77年1月30日付で最難関の口頭試問への参加と実技免除の決定通知を受領…

ティアナ・ランスター候補生、貴殿は本試験において合格基準を満たしたので口頭試問への参加を許可する。尚、魔道実技はハラオウン執務官の推薦状及び高町一等空尉の候補生の職務経歴に係る証明書を持って相当とし、これを免除する。
 

そして、同年2月3日…運命の日…

受験者総数5231名中、本試験に進んだのは僅かに56名。さらにその中から補佐官試験に合格した者は7名。私ことティアナ・ランスターは晴れて執務官補となり、即日、ハラオウン執務官付補佐官に補任されることがその場で決定された。

本当にそれは小さな一歩だった…私はやっとスタートラインにたったに過ぎない…でも…

「やった………やった……やった…やったぁ!!うおおお!!」

死ぬほど嬉しかった…


・ 



翌朝、喜び勇んでオフィスに出勤した私は真っ先にフェイトさんの姿を探した。会いたかった。そして早く安心させたかった…優しくて…いつもオロオロとまるで私の母親みたいに気にかけてくれていたあの人を…

でも…そこにいるべき人の姿はなく…替りに…目を真赤に泣き腫らしているシャーリーさんが一人立っていた…

「ティ…ティア…フェイトさんが…フェイトさんが…」

えっ………なに?これ?

ぜんっぜん声が出ない。

何かよくないことが起こったことは、シャーリーさんの姿を見ればよく分かる。間違いなく私が聞きたい話じゃない。補佐官試験に合格した喜びは…どっかに吹っ飛んでいた。

こ、怖い…な、なんだ…なんだよ…これ…

あり得ないってくらい自分の膝がガクガクしているのが分かる。結界内に拉致られて…しかも戦闘機人三人に囲まれて…ガチで死亡フラグびんびんだった、あの時ですら正直、こんなに震えたことはない。

怖くって、ホントに怖くって…私はただ俯(うつむ)くしかなくって…ただ…その場に立ち尽くすしかなかった…

昨夜、首都クラナガン、フリード北区8番街でフェイトさんは腹部に重症を負って入院、命には別状が無いということだった。そして、第五の事件が発生していたことも、シグナムさんやヴィータさんも意識不明の重体でフェイトさんとは全く別の病院に収容されていることもその時に分かった。

先に落ち着きを取り戻したシャーリーさんの話す声が途轍もなく遠くに聞こえる…

問題はそこじゃない。問題は…フェイトさんが搬送された先が次元法院附属医療センター、すなわち、治療が必要な犯罪者、あるいは容疑者が厳重監視の元で収容加療される施設だということだ。

分かんない…事態がうまく呑み込めなくてよく分かんないけど…一つだけ確かなことがある…それは兄の時と全く同じになってしまったということだ。

私はまた…間に合わなかった……

要は…そういうことだ…


第10話 完 / つづく

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