忍者ブログ

「魔法少女リリカルなのは」などの二次作品やオリジナル作品を公開しているテキストサイトです。二次創作などにご興味のない方はご遠慮下さい。

[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【外伝】 Fragment補完計画(1)
君よ…心優しき白銀の風になれ
2007y06m07d_144415258.jpg
本編ではボツになった「キャロちゃんの盟約の儀」のパートです。
ご興味のある方は下からどうぞお進みください。
 

拍手

魔導師になるためにはミッドチルダの行政窓口に魔導師登録をしなければならない。

何かにつけて役所に雑多な書類関係を提出しないといけなくなるのはどこの世界にも共通する話だけど、この魔導師登録に特徴的なのが“盟約の儀”で、登録書類を提出したお役所の片隅に設けられた祭壇の前で行われる。

かつては魔導師を志す者が最初に経験する厳粛で荘厳な儀式だったけど、時代の変遷と共に儀式の中身や形式の簡素化が進んで5分程度で終わる非常に短いセレモニーになってしまっていて、今ではすっかり和気藹々(わきあいあい)とした家族イベントの一つになっていた。

「フェイト・ハラオウンさんですね?」

「は、はい…」

「この度はおめでとうございます。お子様がこの晴れの日を迎えられたことに一言お慶びを申し上げます」

「は、はあ…まあ…そうですね…ありがとうございます…」

お役所の職員が兼ねる司祭が言う通り、確かに世間ではめでたい門出の日、ということになっている。なのはの世界の「七五三」の風習に近くて魔法資質に恵まれた子供達にとっては人生最初の晴れ舞台となる。親族総出でこの盟約の儀を行う家庭もあるくらいだ。

儀式自体はとても簡単だった。魔導師の道を志す者を後見人たる魔導師の先達が盟約者として迎え入れ、術の研鑚(けんさん)と主上なる神の導きの元でその力を行使することを誓って終わり。儀式の流れはざっとこんな感じだ。

「では…次の方は…キャロ・ル・ルシエさん」

「は、はい…!」

私の隣に座っていたキャロの緊張した声が幾重にも反響した。簡素な作りではあったけど礼拝堂の中に作られた祭壇の前に進めばやはり厳粛な気持ちになる。静まり返った堂内には私とキャロ以外に幸せそうな家族連れが3組…そう…ミッドでは幸せの象徴になっている日だ…

ここには幸せが溢れている…

「ルシエさんの後見人はフェイト・テスタロッサ・ハラオウンさん、で宜しかったですね?」

「……」

「あ、あの?ハラオウンさん?」

予期せぬ沈黙に司祭の顔がたちまち強張っていく。

人生とは…なんて皮肉に満ちているんだろう…

私もかつてこの盟約の儀を行って魔導師の道に足を踏み入れた一人だった。

私の後見人は…母さん…だった…

話だけ聞けばごく普通の家族となんら変わるところがないけれど、私の場合、何もかもが幸せから程遠いものだった。

私を魔導師にしたら使い魔としての命を失ってしまう契約を結ばされたリニスは、盟約の儀の後、バルディッシュを遺して消えていき、そして、母さんは心労が祟ってさらに病が進み、アリシアへの思慕の念を一層強めていき…最期は虚無の狭間に飲み込まれてしまった。

ホームドラマの題材にも使われる一コマの筈なのに…これほど悲しみに満ちた“盟約の儀”を私は後にも先にも知らない…

司祭に肩を叩かれて私の逡巡はたちまちかき消される。

「あの…後見人…大丈夫ですか?お顔が優れないようですが…どこか具合でも?」

「あ…い、いえ…!何でもありません…つ、ついボーっとしていました…」

「そうですか…ならいいんですけど…」

キャロが不安そうな眼差しを私に向けていた。

「ご、ごめんね、キャロ…!え、えっと…私のことなら大丈夫だから…」

人一倍、感受性の高い子だから敏感に私の躊躇いに薄々気が付いているかもしれない。これ以上、キャロを心配させるわけにはいかなかった。

「ルシエ嬢の後見人は…フェイト・ハラオウンさん」

「はい…」

司祭の合図と共に入祭唱、“主上は汝の天性を愛せり”の斉唱の録音が堂内に流れ始める。

荘厳な旋律に時折見え隠れする悲哀の音…

運命から誰も逃れることはできないことを暗示しているようだった。魔道の道はかつて呪いの道とも言われていた。それもすっかり過去の迷信として置き去りにされている。でも…“力”が必ずしも人を救うとは限らない…このことを果たして魔力を行使する者が忘れてしまっていいのだろうか。ため息しか出なかった。

類稀な才能に恵まれたが故に疎まれて故郷を去らなければならなかったキャロ…その横顔に私は魔導師として覚醒したが故に遠ざけられ、そして母さんを苦しめてしまったかつての自分の姿をもしかしたら重ねていたのかもしれない。

ごめんね…キャロ…やっぱり私は素直に喜べない…君やエリオが…この罪深い道に入ってしまうことを…魔導師の宿業が君の美しい魂をどす黒く焦がしはしないか、その純粋な心を蝕んでしまわないか…それを思うと私は…本当に辛くて、頭がどうかなってしまいそう…でも、君たちはもう選んでしまったんだよね…

「フェイトさんのようになりたいんです!」

もし…それがすべての理由だとしたら…

私が君たちをこの道に誘い、運命を狂わせたことになる。

私はそれをどう詫びて、償えばいいんだろう…

後見人は盟約者に“二つ名(魔導師としての称号)”を授与しなければならない。

魔導師に絶望し、魔導師としての極みに背を向けようとしているこの私が、大切な…恐らく愛していると言ってもいい目の前のこの子の盟約者となり、そして二つ名を与えなければならないなんて…これはなんていう皮肉なのかしら…

入祭唱を聞きながら私はふと思った。もしかしたら…あの時、テスタロッサの家に代々伝わる儀式を厳格に執り行い、今みたいなお役所の祭壇ではなくて時の庭園の母屋にあった雷神の祭壇の前で、母さんもひょっとしたら今の私と同じ気持ちだったのかもしれない。

どうして?どうして私は魔導師になってはいけないの?私も母さんみたいになりたい!

そうだ…選んでしまったんだ…魔導師の道を自ら…君もエリオも…そしてかつての私も…それで全てが狂ってしまった…でも、他の誰でもない…この道を選んでしまったのは自分自身だ…

異様に長く感じられた入祭唱がようやく終わりを告げる。

キャロ…君が何になりたいかによる…

そう言って判断を君に委ねたのは私だ。適当に儀式を終わらせる心算だったけど、それはどうやら間違いだったみたい。それは幼い顔を緊張させている君に対する重大な裏切り行為になってしまう。

是非もない…君は選んだ…

だから、私は自分を殺して君のために精一杯のことをしなくちゃいけない。

「あの…司祭様…」

「なんでしょうか?後見人」

「形式はアルトセイム式で行いたいのですが…お認め頂けますか?」

私の言葉に一瞬、周囲が水を打ったように静まり返る。

「ア、アルトセイムですか?今日日(きょうび)珍しいですね…だいたい皆さん、近代ミッド式か、ベルカ式なんですが…後見人がそうおっしゃるならどんな形式でも構いませんよ?もちろん」

「ありがとうございます…」

私は大小二つの漆黒のローブを呼び出すと大きい方を自分が羽織り、そして小さい方をキャロに肩にそっとかけてやった。

かつて…この二つのローブを使って盟約を交わした親子がいたように…

「黄金の双頭竜に槍と戦斧…こ、このローブの紋章はフォノンの…この紋章を下賜されたのは金色の疾風と謳われた古の大魔導師のみのはず…ま、まさか…後見人…あなたは…」

「盟約の詠唱を…始めます…」

顔を引きつらせている司祭を尻目に私はキャロをじっと見据える。目が合うとキャロは怯えるように円らな大きな瞳を固く閉じた。

そう、あの時の私もこうやって固く目を閉じていた…怖かったんだ…母さんの目が…優しかった母さんが遠くに行ってしまう気がして…とても悲しかった…

「我、心優しき金色(こんじき)の閃光、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは…そなた、キャロ・ロ・ルシエを新たな盟約者と認め、今、ここにその後見人となることを約す」

かつては盟約を交わす後見人たる魔導師の“格”がそのまま盟約者の地位、ひいては運命を決めたといわれている。そして魔導師の巡礼には自派の術式を使役、継承する新しい盟約者を探すため、という側面もあったらしい。

だが、一方で強大な魔法を使役する大魔導師ほど神々に支払う対価も大きくなるのは必然だ。古の大魔導師たちはやがて己の力とその対価の大きさに恐怖するようになり、やがて、盟約の儀は対価の支払いを繰り延べるためだけに行われるようになっていったそうだ。因縁の継承はこうして脈々と続いた。

罪深く…業な道…魔導師になるというのはこういうことなんだ…

「出でよ。不浄を打ち砕く雷神の槍、聖なるバルエルの鍛えし槍、バルディウスよ。我が友、バルディッシュ(戦斧)と対を成したる神の槍よ」

黄金色の光が堂内に満ち、私とキャロの間に私の身の丈と同じ長さの槍が姿を現した。司祭以下、その場に居合わせてい色とりどりに着飾る全員の顔が真っ青になっていた。

あの時は…この槍がとても大きく見えたのに…

現代はインテリジェントデバイスが魔導師の友となっているけど、従来は匠たちが鍛えた法具こそが魔導師を魔導師たらしめた時代があった。

「雷神フォノンの御名において…汝バルディウスと我が友バルディッシュに命じる…この者の穢(けが)れを払い…新たな我が盟約者とせよ…」

私は眩いばかりの光に包まれる槍を握ると雷神の槍の穂先をキャロの右肩に当てた。

「高潔のアルカス(反義:嫉妬)より栄光を、慈悲のクルタス(憤怒)より正義を、謙譲のエイギアス(傲慢)より思慮を、研鑚のバルエル(怠惰)より勤勉を、豊穣(節制)のザルゼル(暴食)より自制を、救じゅつのブラウゼル(強欲)より勇気を、そして、純潔の…名を奪われし乙女(色欲)より慈愛を…七徳(七罪)の法衣をまといし我が盟約者に今与えよ…」

キャロ…ごめんね…

「君よ…心優しき…」

二つ名を得た君はもはや後戻りが出来ない…

「心優しき…白銀の風となれ…」

「はい…ありがとうございます…この地上を統(す)べる主上なる神と…後見人の守護神の忠実なる僕となり…わたくし…心優しき白銀の風キャロ・ル・ルシエは…我が術の日々なる研鑚をここに誓います…」
今…音もなく流れる涙は…何の涙だろうか。一言では言い表せない複雑な気持ちが入り混じる。でも、やはり最後に胸に込み上げてきたものは虚しさだった。

「そ、それでは…ルシエ嬢の二つ名は…心優しき白銀の風…ということで…」

腰を抜かしたのか、床にへたり込んでいた司祭が儀式の終わりをかなり遅れて宣言する。

「ま、待ってください!ぜ、是非!ウチの子の後見人になってください!」

「う、ウチの子もぜひお願いします!」

「な、なにさっきの…?まじかっけえじゃん…」

「ルシエさんが羨ましいわ…テスタロッサといえば名門大魔導師の家筋でしょ?これ以上ないブランドじゃない…」

本来、魔法を使っていい者は神々にその対価を支払う覚悟があるものだけだ。その意味も分からずただのパフォーマンスと捉えるのは不心得も甚だしい。ブランドとか、外聞とかでしか自分の子供の運命を測れないなんて…

そんなものよりも大切でかけがえのないものを…母さんや私が持つことが出来なかったものを…あなた達は既に持っているのに…

「いえ…やはりお子様の二つ名はご両親がお付けになった方が…私のような知らない人間が後見するよりも子供さん達はきっと嬉しいと思います…じゃあ、行こうか…キャロ…」

「は、はい、フェイトさん…」

その場を逃げるようにして後にした私達二人は無言のまま市役所の中庭に出ていた。色とりどりの花が咲く美しい季節の中で私達は黙々と歩く。

当てもなく…

「あ、あのう…フェイトさん…」

手を繋いでいたキャロに腕を引っ張られて私はハッとする。

「今日は…えと…ありがとうございました…」

「キャ…キャロ…」

「私…フェイトさんに感謝してます…怒らずに…私が選んだ“居場所”を認めてくださったことに…」

にこっと微笑むとキャロは駆け出していった。小さい身体がどんどん小さくなっていく。

「ありがとう…キャロ…」

母さんの人形として生きるべきだった私…いや…そもそも生まれるべきではなかった私だけど…キャロ…エリオ…君達の笑顔を見守るためだけに私は存在していてもいいのかもしれない…

でも…

もし、君達がよからぬ因縁に巻き込まれそうになったその時は…私は…心を鬼にして君達の行く手をはばまならなければならない…

春の優しい日差しが滲んでいく。それはけっして春の霞のせいだけではなかった。




のちにフェイトはプレアデス事件(別名:フェイト・テスタロッサ事件)でエリオとキャロの盟約を解消することになる…



おわり
PR
プロフィール
HN:
Togo
性別:
非公開
文句とかはここに
※事前承諾なしに頂いたコメント内容を公開することは一切ありません。
Copyright ©  -- Initial Fの肖像 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by 妙の宴 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]