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サイレント・インパクト(3)

Case 3 哀愁


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老兵は死なず、ただ消え去るのみである

Old soldiers never die; they just fade away.

 
                                         D. マッカーサー
                                        

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早朝の模擬戦用特殊シェルター内に激しい火花を散らす2つの影があった。

本局地上本部の地下施設内には8つのシェルターがあり、職員や局の嘱託(しょくたく)魔導師が教導の一環として利用する他、時々、技術開発室の実験場としても利用される。シェルターはやや(ゆが)んだ立方体に近い空間を持っており、その一面は優にテニスコート4面分くらいの広さがあった。8つのシェルターは使用目的に合わせてそれぞれを独立して使うことは勿論の事、いくつでも連結させて一つの巨大な空間を形成する事も可能だった。

さっきまで全くの無人だった観戦エリアに人影がパラパラと目立つようになっていた。そろそろ出勤時間が近いことを物語る。

「誰と誰が模擬戦やってるんですか?」

局員の一人がコーヒー片手に観戦している同僚に話しかける。

「主席検事(※ 本局付き執務官は検察の職務を担当する、という設定)のフェイトさんと、もう一人は地方の自然保護隊から出て来た局員らしいんだけどさ」

「なんか…… 激しい戦いですね……」

「ああ、お互いマジでやってるみたいだね。 ここから見てても振動がビリビリ伝わってくるしさ」

外壁は魔力中和コーティングが(ほどこ)されているため、実戦さながらの真剣勝負が出来ることもこの模擬戦用シェルターの人気の一つだった。それでも、時々、勢い余って壁に穴を開けるバカ魔力、じゃなくて、並々ならない才能の持ち主もいるにはいたが。

「ふーん、そうなんですか…… って、9戦全勝!? あのフェイトさんを相手に!? つ、つーか普通にありえなくね?」

「そうなんだよ…… 俺も最初は早番の奴がどうせ寝ぼけて見間違えたんだろうって思ってさ、こうして見に来たらマジだったんでみんなビックリってわけ……」

ホログラムに表示されているスコアは目まぐるしく変わっていた。有効打を受けたらその当りの大きさに応じて持ち点(スコア)を失っていく方式の模擬戦であることが一目で分かる。1セット15分の10セットマッチでどちらかの持ち点がゼロになった時点で1セット終了、制限時間内に勝負が付かなければ残り持ち点の多い方が勝者となる。

ギャラリーたちが盛んに首を傾げるのは既に6セットを先取した自然保護隊の局員の勝利は動かないにも関わらず、2人が最終セットに入っていることだった。一方的な展開になった場合は途中で切り上げることも、例え教導でもそれは決して珍しい事ではなかった。

完膚なきにまで相手を叩きのめす、ということはよっぽどの事情がない限り憚られていたから尚更だ。

「何かちょっと信じられないなあ…… 模擬戦の当り判定デバイスが壊れてるんじゃないですか?」

「いいえ、壊れてなんかいないわ。 全て異常なしよ」

「シャ、シャーリーさん! す、すみませんでした!」

シャーリーがピシャッと放った一言で周囲の老若男女はしんと静まり返る。それらを一顧(いっこ)だにすることなく、一進一退の攻防を続ける2つの影をシャーリーはじっと目で追っていた。

フェイトさん…… エリオくん……

そこには紛れもなくフェイトの(ふる)うバルディッシュをストラーダーで受けるエリオの姿があった。フェイトも女性局員の中では長身の方だったが、エリオはそれよりも更に高く、肩幅もフェイトとは比べるべくもない。

二人の体格差は歴然だった。

「ほう、朝早くから二人とも精が出るな」

首都高速機動隊を束ねているシグナムが何かを(おもんばか)っているような様子のシャーリーの(となり)に並ぶ。

「シ、シグナムさん、いえ、司令もいらしてたんですか!?」

慌てて敬礼しようとするシャーリーをシグナムは静かに手で制した。

「機動隊の若い連中がぞろぞろとこっちの方に向っていく姿を見かけたからな。 そこそこの使い手が朝錬でもしているのだろうと思ってつられて来たというわけだ。 まさかテスタロッサとエリオだったとはな……」

最初、互いに激しく切り結ぶフェイトとエリオの姿に懐かしむような眼差しを送っていたシグナムだったがすぐに異変に気が付く。

「あいつ…… ちょっと見ない間に…… 相当、腕を上げているな……」

「ええ…… まるで別人を見ているみたいで……」

肩で激しく息をするフェイトに対してストラーダーを前面に押し立てるエリオは額に汗を滲ませる程度で、相手に与えたバリアジャケットへのダメージも段違いという有様だった。2人の勝負は素人目にはほとんど互角のようにも見えるのだが、勝負の趨勢(すうせい)はセットカウントが示す通りエリオのワンサイドゲームであることは明らかだった。

エリオの(いちじる)しい成長に感嘆(かんたん)の声を上げるシグナムだったが、シャーリーのどこか浮かない様子に気が付くとそっと肩に手を置く。

「お前のその複雑な気持ち、私にも分からなくはない」

「シグナム司令……」

「昔のベルカの言葉にこういうのがある。 “あやした子に剣を折られたらもう鍛冶屋は呼ぶな”とな」

シャーリーはハッとした表情を浮かべると思わず自分の隣のシグナムの横顔を見る。シグナムは窓越しにシェルターの“親子”の姿を静かに目で追っていた。

「私はここ(首都)に来たばかりのエリオとキャロをテスタロッサに頼まれて迎えに行ったことがあった。 あの時、あいつはまだ9歳、近代ベルカ式の使い手とは聞いていたが…… 自分の得物もロクにコントロールも出来ないような、正直、デバイスの力に頼り切っているだけの“はな垂れ小僧”だったが…… フッケバインの1件が更にあいつを大きくしたのかもしれないな」

シグナムは(わず)かに遠くを見るような目をした。

「ま、確かにあの当時から非凡なものを節々に感じさせてはいたが、素質だけで強くなれるほど魔導師の世界は甘くはない。 得てして神童ほど大成はしないものだろ? よくここまで研鑚(けんさん)を積んできたものだと、さすがの私もそれは認めざるをえないな。 思えば……」

一つ間合いを置くとシグナムは一層感慨(かんがい)深げに呟く。

「主はやて の立ち上げた機動6課の時代からずっとあいつ等の成長を見守ってきているんだな…… 私やおまえたち…… いや…… 何よりも今、この瞬間、あいつとしのぎを削り合っているテスタロッサが一番それを実感している事だろう……」 

「そう…… ですよね……」

私の知っているエリオ君がどこか遠くに行っちゃったような気がして、それが嬉しいような寂しいような複雑な気持ちだったけど…… 私なんかよりフェイトさんの方がもっともっと……

目の前で繰り広げられている勝負の枠組みを超えた戦いは、とても模擬戦には見えない鬼気迫る戦いだった。だからこそなのだろう。たまたま通りすがった局員たちですらふと足を止めるのは。

しかし、横たわる現実は厳しかった。

辛勝惜敗を重ねていたとしても勝ち負けの差は埋めがたく、傍目には全勝と全敗という、居た堪れない結果しか分からない。第三者からは無様(ぶざま)にしか見えないような戦い、それの意味することが果たして何なのか。

例え醜態(しゅうたい)(さら)したとしても必死に(いど)むフェイトの気持ち、そして、それを真剣に受けているエリオの葛藤(かっとう)や痛みのことを考えるとシャーリーは思わず目頭が熱くなった。その雰囲気をシグナムが目敏く見つける。

「ふっ、私としたことが…… 少し感傷に浸りすぎたか? すまんな。 これはあくまで私見、戯言の類だ。 忘れてくれ」

「い、いえ! そんなこと! そんなこと…… ありませんよ…… ご、ごめんなさい!」

シグナムはポンッとシャーリーの背中を軽く叩くと(きびす)を返す。

「テスタロッサのやつは負けず嫌いだ。 案外、ヒスを起こしているだけかもしれん。 あいつは根っからのバトルマニアだからな。 はっはっは じゃあな。 私はもう行くぞ」

「あ、シグナムさ…… いや、司令!」

「なんだ?」

「あの…… 見ていかないんですか? 二人を……」

シャーリーの言葉にシグナムは少し考える素振りを見せたがやがて小さく首を横に振っていた。

「いや、その必要はない。 それに9時から“例の事件”のことで対策会議があるしな」

というよりも……

「もう潮時だろう…… 何もかも、な……」

「えっ……」

意味深長なシグナムに何か言葉を繋ごうとシャーリーがしたその時だった。

おおっ!という歓声が辺りに響く。シャーリーが背後を振り返ると中空のフェイトが渾身(こんしん)の力を込めたプラズマスマッシャーの光弾を地上のエリオに向って繰り出すところだった。

「フェイトさん!! エリオくん!!」

一瞬の隙を突かれた格好になったエリオの反応が僅かに遅れていた。

「くっ!」

シャーリーは観戦席の最前列へと駆け寄っていった。その後姿を目で追っていたシグナムは再び(きびす)を返すと事の顛末を見届けることなく眩い光が差し込む観戦エリアを後にした。

耳を(つんざ)く轟音が辺りにこだまする。

「キター!! 今のは決まっただろ!!」

その場に居合わせた武装局員と思しき豊かな体躯(たいく)の持ち主がグッと拳を握り締める。

追いつき、追い抜かれる…… いつか来た道というやつではあるが…… うざったい理屈やありがたいご高説だけで割り切れるほど人間というやつは単純には出来てはいない…… 魔導師の感情やプライドというものがあればなおさらだ……

魔導師の世界は早熟だった。正式任官していないとはいえ10歳、いや下手をすれば6歳の子供たちが局の嘱託魔導師として出入りする事も全く珍しい事ではなかった。むしろ20代後半になっても第一線に身を置いている なのは たちの方が異色ですらあった。

「老兵は去るのみ、か……」

お前はそれとどう向き合う…… テスタロッサ……

長い廊下を歩きながらシグナムは小さく嘆息する。やがて、観戦エリアからため息にも似た声が洩れていた。



「ま、参った…… エリオ…… 私の…… 完敗だ、ね……」

喉笛に穂先を突きつけられたフェイトがポツリと呟く。

「フェイトさん……」

ストラーダーを収納したエリオはゆっくりと手を引いてフェイトが上体を起こすのを手伝う。

「小型のプロテクション・サークルを足場にして一気に駆け上がってくるなんて…… 正直…… 想像すら出来なかったよ……」

「いえ、咄嗟(とっさ)に体が動いただけで……やっぱりまだまだですね。 空戦適性の訓練は落第寸前ですし、もう少し鍛えて頂かないと」

もう少し、か……

「そうね…… そうよね…… 私の…… い、いや、空戦魔導師の家庭で育ったのに落第は許さないからね!」

「はいっ! これからも宜しくお願いします! フェイト先生……」

すっかり声変わりしたエリオはニコッと小さく微笑むとフェイトの傍らに片膝をつく。

「えっ…… ちょ、ちょっと…… エ、エリ……」

フェイトの身体は軽々とエリオの両腕で持ち上げられていた。

「ば、バカ……!? 自分で立てるって! そ、その…… 大丈夫だから……」

「いいじゃないですか。 すぐそこのエントリーエリアまでですから。 それに少しは役得もないと」

「何言ってんだか……」

フェイトはわざと怖い顔をすると精悍な顔つきの青年の額を軽く小突いた。

「あっ! フェイトさん!」

「何よ?」

「最近、ちょっと重くなりました?」

「え゙…… そ、それって…… マジなの……?」

「いえ。 言ってみただけっていうか、冗談で…… ご@#%87お!!」

「あんまり大人のレディーをからかうもんじゃないの!」

「は、はい…… すみませんでした……」

思いっきりフェイトに臀部を抓り上げられたエリオはすっかり涙目になっていた。

「後でバルディッシュを回収しておきます。 壊れちゃったみたいだし……」

「そうね……」

シェルターの中央には真っ二つになったバルディッシュが無残な姿を晒していた。

「シャーリーさんのところには僕が……」

「その必要は無いわ」

「え? あ、は、はい…… 分かりました……」

私もバルディッシュも…… もっと…… 別の生き方を探すべきなのかも知れない……

二人はもう、それ以上、何も言わなかった。




つづく
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