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サイレント・インパクト(4)
Case 4 転機



君達はいつもそうだね……

会社やお役所で人事異動の話になると決まって同じ反応をする……

まったく、わけがわからないよ……


                      by Q-bey

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「え……? こ、この私が!? 検事正…… ですか……?」

「そうだ。 ハラオウン。 管理局第17管区の時空公安部(※ 時空管理局の地方機関、という設定)を全面的に君に任せたいと思っているんだ」

「け、検事長! し、しかしですね! わ、私は残念ながら人の……」

本局付執務官(※ 検察官)を束ねている小柄で軽くメタボ気味な検事長(※ かなり偉い)の手が僅かに機先を制した。喉元まで出かかっていた反駁(はんばく)を私は飲み込まざるをえなくなる。

「私は人の上に立てるような立派な人間ではありませ~ん☆キラッ、だろ……? いい加減、その台詞は聞き飽きたんだけどね……」

ちょ…… 人の声色マネんな…… 普通にキモいんですけど……

出勤したばかりの私のところに同じ課で検事執務官として働いているティアがやって来て「なんか検事長がフェイトさんを探してるみたいっスよ」って耳打ちしてきた時から何となく話の内容には想像が付いていた。昇進の件は手を変え品を変えて過去にも何度か持ち上がったことがあるから、今回のことを青天の霹靂(へきれき)というのはちょっとさすがにオーバーだけど…… だけど……

フッケバインの1件を部隊付執務官として本局に書類送検した私は、いちいち解散するなと言いたいけど特務6課の解体と共に再び本局執務官に復帰し、程なくして“年齢制限”という名の“実績”に押し上げられる形で主席検事執務官(※ 主席検事に相当)となって現在に至っていた。つまり、本局に復帰したばかりの私が2年そこそこでいきなり検事正に、という話はさすがに予想の遥か斜め上をいっていた。滞留年数的に考えて普通ではちょっとありえない人事だ。しかし、その一方で私の年齢でいまだに現場サイドに身を置いているというのも周囲を見渡してみれば自明だがやはり同じくらいありえない話ではあった。

検事正というのはなのは の世界で言えば地方検察庁の長官に相当する役職のことで、簡単に言ってしまえばミッドチルダが管理する各次元世界に置かれる本局の出先機関の署長さん、ということになるだろうか。まあ派遣された先の管理世界にいる執務官と武装局員の全員を部下にするわけだからかなり偉い。ウミで例えたらちょっとした提督クラスだ。とうとう私を“PT事件”の共犯として逮捕した時の義母さんに私は階級で肩を並べることになる。当時の義母さんがウミで昇進スピードが微妙に遅かったのはまだ“義父さん(故人)”が存命で内勤の事務官兼子育て真っ盛りの主婦だったからだ。“闇の書事件”をきっかけにそこから一念奮起して提督にまでなったのだから、いろいろな意味で感慨深いものがある。

※ 因みに広大すぎる管理外世界には特定の拠点を置かずにウミの巡航艦を派遣して対応することになっており、巡航艦に最低1人の執務官が付くことが内規で規定されている、という設定。

しかも17管区(管理世界)アルヴァルドといえばミッドチルダの若い女性の間では大人気の高級リゾート地として有名なだけでなく、古代の魔法文明が栄えたノスタルジックな古都としてユーノと歴女に需要がある場所としても知られていた。仮にこの話を聞いたのが私ではなくてティアだったとしたら返事するのに1秒もかからないだろう。早い話が妙齢のご令嬢かユーノならホイホイと赴任してしまうような場所だった。

でもこれはそういう問題ではない。ただでさえ人付き合いの悪い私が高級リゾート地のある都会とはいえ一人で縁も所縁もない場所に住むということが一体何を意味するのか。

あえて言おう!ボッチであると!

返答に(きゅう)している私を見ていた検事長が一つ咳払いをすると再び探るような視線を向けてくる。

「オッホン! でだ。 この話…… 勿論、受けてもらえるよね? 大人的に考えて」

「え、えっと…… は、はは、ははは……」

うん、それムリ……

無理やり笑顔を作ろうとして必死に顔に力を入れるため、かえって目の前の検事長にメンチを切るような有様だった。

この前(エリオに)フルボッコにされて凹んでたのに…… はあ…… どうしてこうも次から次へと問題が発生するのよ…… 冗談じゃないわ……

得体の知れない奇妙な沈黙の後で先に口火を切ったのは検事長の方だった。

「百歩譲って君が言うようにだね、ハラオウン。 君が立派な人間じゃなかったとしても、だ。 君は十分、一人の立派な大人の女性だよね? 嘱託(しょくたく)(※ 嘱託魔導師のこと。管理局では特に子供を表す隠語にもなっている)じゃあるまいし…… 物事の分別はちゃんと付く、よね?」

「ぐぬぬ……」

いえ!まだバリバリの現役魔法少女です!とかいうと自虐ネタにとられる恐れがあったのでさすがに思い止まる。つるっぱげの総長(※ 検事総長に相当。執務官長の次に偉い)と違って黒髪がふさふさしている検事長がすかさず畳み掛けてきた。

「じゃあ他に何か問題でもあるのかね? ハラオウン? なければここにある内示書に署名をしてもらいたい。 いいね?」

かつて特捜部の主席検事執務官として政界の大物を次々と法廷に引きずり出したことで一躍名を()せた検事長は“ミッドの首狩酋長”の異名を取っており、小柄とはいえ鋭い眼光の彼に(すご)まれて泣き出さない女の子は本局ではまずいない。若干、一名を除いては。

うっせー!バーロー!

急に検事長がため息をつく。

「ふう…… 君が不本意っぽいことはよく分かったよ…… やれやれ……」

「はっ、はい? わ、私はまだ何も言ってませんけど?」

「いや…… 君の顔を見ていれば考えていることはだいたい察しが付くからね……」

「は…… はは…… ですよねー」

ど直球で感情が顔に出ていると言われれば私も苦笑いするしかなかった。

はいはい…… すみませんねえ…… 自分、不器用っすから……

「はあ……」

検事長と私は同時にため息を付いていた。きっと同じ感慨に違いない。

すごく…… 気まずいです……

事あるごとに昇進機会を断ってきた私、と私の目の前にどかっと腰を下ろしている検事長は、実を言うと執務官任官当時の同期であり、誤解を恐れず言えばまだ私が局の嘱託磨導師だった頃からの知り合いだ。年齢的には執務官試験に2回失敗した私の方がロースクールから一発合格した検事長より1つ上、つまり、私は彼にとって年上の部下でかつ同期生というわけだ。ずっと本局執務官一本でキャリア街道を驀進(ばくしん)している“ミッドの首狩酋長”に面と向って抗弁できるのは私くらいのもので、検事長の方がむしろ自分より年上の部下を意識、というか苦手にしているみたいだった。

さらに付け加えると、私と検事長がまだお互いに駆け出しの執務官だった頃、折しもはやて が立ち上げた機動6課(当時)に私が出向を願い出て本局を去る時にちょっとした意見の対立から私達は衆目も憚らないほどの大喧嘩をしていた。


テスタロッサ! おまえは…… おまえは……  バカだ!!

は、はあ!? ちょっと! なによ! いきなり!

何度でも言ってやる!! おまえはバカだ!! 大バカだ!!

ちょ、さっきからバカ、バカって…… バカっていうほうがバカなのよ! このバカ! あっ……


今思い出してもまだわりとムカつく出来事だ。以来、休日に街中でばったり出くわしても、本局で顔を合わせてもお互いがお互いを眼中に入れないような完全(華麗)()没交渉(るスルー)状態が続いていた。出向の事情をよく知る はやて は機動6課に早々と合流した私から小柄な同僚執務官との確執を聞くと呆れるような顔をしたものだ。

「自分ら…… ホンマ大人気ないやっちゃなあ…… シカト合戦もいい加減にしいや…… もう二十歳(はたち)やろ?」

「残念ながらまだ19よ! それに私ぜんぜん悪くないし!」

「め、面倒くさい女やな、自分…… ま、まあ…… フェイトちゃんの好きにしたらええんやけど…… せめて本局で顔合わせた時くらいは会釈したらどうなん? 他の人の目もあるし、それに同期やろ? 人生何が幸いするか、わからへんよ?」

「絶っっっっっ対!! いやっっっっっ!!」

「ちょ! 分かったから! 顔近いから!」

要は同じ部署にならなければいい。若い頃の私はバカなことに本当にそう考えていた。だが…… 

認めたくないものだな…… 自分自身の若さゆえの過ちというものを…… ふっ……

機動6課から復帰後は検事長が検事正として地方に飛んでいたので顔を合わせずに済んだ。

計画通り……!!

なのはここまでだった。今回、特務6課出向期間の満了と共に本局に復帰した私はめでたく検事長と再会を果たしていた。上司と部下という間柄で…… 

それは想像を遥かに絶するもので、その時の検事長と私のぎこちなさはとてもここで的確に表現することは出来ない。

まったく、着任挨拶の時のお互いの気まずさと言ったら……

それは私が初めて経験する“違和感“だった。ただのコミュ障ですがそれがなにか? とはさすがに機動6課当時ならいざしらず、今さらだけどピー歳(推定27)にもなって言えるはずもない。当たり前だけど。お互いが「マジ勘弁」とかお腹の中で思いながら引きつった顔でお互いをヨイショしまくるという地獄絵図はシャーリー曰く、「絶対零度が生温かく感じられるレベル」だったそうだ。

そんなぎこちなさは私の主席検事就任後もずっと続いていて、検事長が実は結婚していたことも、また、最近、その奥さんと突然離婚したことも同じ職場の若手検事官から人伝に聞く始末だった。話だけ聞けば不倶戴天の天敵状態だ。そんな亡母の資産(遺品)の返還訴訟を考えていた私に何故、あのおじいさん弁護士を紹介してくれたのか、気まぐれなのか何かを企んでいたのか、いまだによく分からない。ただ、感謝はしている。それに私の着任以来、やけに大人しいような気がする。今もどういうわけか頭ごなしに「上意である!」とは言わずに何とか私に翻意(ほんい)させようとしている。よっぽど離婚が心神に堪えたのだろうか。あるいは立場が人を作る、とも言うけれど。どっちにしても人間、変われば変わるものだ。相変わらず私は昔のままだったけど。え?全然成長していないだけ?なに?聞こえない。

やけに高そうなデスクに両肘を突いて顔の前で組んだ両手を額に当てていた検事長が不意に顔を上げる。検事長の生え際を凝視していた私と視線がぶつかった。

やっばー

慌てて私は視線を逸らした。

「ハラオウン…… プレッシャーを与える意図は毛頭無いんだが、これは君に取っても大きなチャンスになると思うんだ」

「は、はあ!? チャンスえ!?」

なのは から離れることの一体どこが!!じゃ、じゃなくてミッドから地方に飛ばされることの一体どこら辺がチャンスなのかと小1時間問い詰めたい。

「そうだ。 これは君にとって重要な事なんだよ。 率直に聞くがハラオウン。 君は自分の将来についてどう考えているのかね?」

「え゙…… しょ、将来…… ですか……?」

息巻く私は予期しない検事長の言葉に思わず面食らってしまっていた。

「え、えっと、そ、そ、それはですね……」

「なにか…… 具体的にプランでもあるのかね? よかったら聞かせてもらえるかな?」

「き、き、禁則事項です! キリッ」

「腹パンされたいのかね?」

で、ですよねー

「や、やはり…… き、近年の…… しょ、少子高齢化問題を鑑み…… げ、現行政権の社会補償制度は……」

「え? もしかして…… 結婚する予定があるのかね!?」

私も驚いたが検事長も身を乗り出すほど驚いていた。

「ははは! ある、ある、ある、あるって…… ねーよ。 ねーよ…… まあ…… さっきのは言葉のあやというか……」

悪かったわね。そんなに意外かよ。全フェイトさんが泣いた……

「ふう、ビックリさせないでくれよ…… じゃあ少子高齢化も社会保障制度も関係ない、よね?」

「少子化は関係なくても。また特殊且つ特例的事案の発生に伴ってタスクフォース的な何が必要になると思いますし」

「君は…… 何か異変が起こらないと行動しない銭クレイジーにでも憧れているのかね?」

「最近、サークル数も減少に転じましたよね。 ていうか私はどちらかというと普通の魔法使い派なんで」

だめだ…… コイツ…… 早く何とかしないと……

ため息交じりに検事長の顔がそう言っている。

「ふざけてる場合じゃないんだけどね…… これは……」

おいおい…… てめえだろ…… なんとかプロジェクトの話を振ってきたんは……

「だからそういう外的な要因ではなくてだね。 もっと内的というか、君自身が今後どうなりたいのかということが聞きたいんだよ」

「そ、それは…… その……」

「君は他のことはそつなくよく出来るのに…… 自分のこととなると本当にからっきしダメだね……フェイト・テスタロッサ・ハラオウンとしての、一人の女性としての、自分の未来、人生設計ともキャリアプランとも言う向きもあるがね。 そういう自分の人生をどう考えているのか、という話だよ」

うっわー 今、超ダメ出しきた…… ダメ女って遠回しに言ってるじゃん…… それ…… まあ、確かにダメなんだけど……

シュンとなる私だった。この瞬間に喪女とか言われてたら多分泣いてたと思う。わりとマジに。

「そう。 他の誰でもない。 君自身のことだよ。 君は人の世話は散々焼くくせに自分のこととなるといつも後回しだ。 縁の下の力持ちももちろん組織であるからには必要欠くべかざるものだが、君は局に奉職する間、ずっと地下に篭って他人の後ろだけを付いて行くつもりなのかね?」

「え…… あ…… ぐ…… ぎ……」

喉がカラカラだった。業務のことならば幾らでも“言い訳”をすることが出来る。でも、“自分の将来”とか“未来の自分”とかいう搦め手から攻められたことが今まで一度もなかった私はどう対処していいのか、全く分からなかった。自分自身に言い訳出来るはずがない。

ずっと他人の後についていくつもりなのか……

いきなり面と向って言われれば、例えそれが図星だったとしても「はい、そうです」とは心理的にはなかなか言えないものだ。それでは完全に自分という存在を自ら否定する事になりかねない。極論、私は必要ない人間ですからどうぞご随意に、と言っているようなものだ。

なのはや はやて とも一緒にいられなくなってしまうだけじゃない……

職を失えば自分のことすらままならなくなる。それは“立派”とか“立派じゃない”とかいう以前の問題になってしまう。難関の執務官試験をクリアしているから、いわゆるヤメ検(※ 執務官を辞めて弁護士に転身する事)という道もなくはない。

でも…… それには……

「まあ、民間の弁護士という道も確かにあるけど…… 調べたところ、君の場合は部隊付き執務官に自己都合で出向する機会が非常に多かったから、いまだに検事実務経験連続5ヵ年の要件を全然満たしていないじゃないか。 ハラオウン…… いいたかないけど…… その…… つまりだね…… 君が執務官試験に受かったのは10年以上も前だよね?」

「ぐ、ぐはあ!!」

私はガックリと膝を折ってその場にヘナヘナと思わずへたり込んでいた。

「だ、大丈夫かね? ハラオウン?」

久々きたわ…… これ…… かなりグサッと…… なにこれ? 会心? いや、痛恨の一撃ってやつ?

敵もさるものだった。さすがは数々の露骨な妨害工作を物ともせず、政界汚職を粛々と法廷に送り込んだ手腕は伊達じゃない。ある意味、被告席に立たされている私はもうタジタジだった。ちょっと役者が違うってレベルではなかった。はやての立ち上げた機動6課、そして特務6課には局の辞令ではなく、自己都合ということで半ば強引に出向していたため、この期間は本局付き執務官、つまり検事としての実務経験にカウントされない。

すなわち……

今、局を辞めても弁護士資格すら得られず、単に空が飛べるだけのニートになる、ただそれだけのことだった。これはもう完全に退路を断たれた、という感じだった。自分の置かれている立場を痛感させられた私は生まれたばかりの子ジカのようにヨロヨロと弱々しく再び立ち上がる。

「は、はあ…… まあ…… その…… な、何と申ひ上げてよひやら…… た、大変…… 申し訳…… ありまそん…… ですた……」

「いや…… 噛み噛みの状態で僕に頭を下げられても困るんだけどね…… 君の問題だからさ…… 君はちょくちょく外局に出向していたみたいだから、もしやと思っていたけどまさか本当に勤続5年の要件をいまだに満たしていないとはね。 さすがの僕もこれは意外だったよ…… ま、とにかくだ、ハラオウン。 僕が意地悪でこういうことを君に言っているわけじゃないってことはこれで理解してくれるかな?」

「は、はい…… とてもよく……」

いびられている、とか、存在を煙たがられている、とか、さすがにそこまで穿ったことはない。若気の至りとはいえ、お互いにやりにくいことが多い、とは常々感じていたため心のどこかで異動があるかもしれない、とは感じていた。だけど検事長から示されている人事がそういう次元とはかけ離れたものであることにようやく気が付いた私は自分が恥かしくなっていた。

「君が他人の事ばかりで自分の足元がお留守だという何よりの物証の一つだよね…… これなんかさ…… フッケバインの1件が終わって本局に復帰してまだ2年弱だから、局を円満退職するにしても少なくともあと3年強は執務官(※ 検事)としての経験を積む必要があるよね?」

「あばばば……」

「しかも…… 君たち三人娘は局の中でもかなり名物だからよく引き合いに出されると思うが…… 君の場合は高町空尉のように武断派というわけでもなさそうだし……チラッ」

この前、エリオにボロ負けしたことを言っているですね…… 分かります……

「かといって八神参事のようにバリキャリを目指しているわけでもなさそうだし…… チラッ」

ボッチ? コミョ障? なにそれ? おいしいの?

「こうしてぶっちゃけて君自身に将来の進路を聞いてもいまいちよく分からないし、ハラオウン、君は自分の将来を本当にどう考えているのかね?」

あああああああああああ!! 止めて!! フェイトさんのライフはもうゼロよ!!

結構、叫びたかった。わりとガチで。

「まあ地検で2年くらい実績を積んだ後、再びクラナガンに帰ってくればいいじゃないか。 これは既に執務長閣下の内諾も得てあるし……」

や、やばい…… 完全に落としにきている……

そういう雰囲気をひしひしと感じる。

「し、しかし! は、はやてが! な、なのはだし! あ、あとエリオが総長のキャロなので!」

「錯乱するような話かい? まあ、人の事は置いておいてだ…… とりあえず君も今年で27…… だよね?」

「ま、まだだ…… まだ慌てるような年齢(じかん)じゃない……」

「戦わなきゃ…… 現実と……」

次々と繰り出されるパンチの応酬に、もはや、私は立っていることすら難しかった。今まで目を背けてきた現実を目の前にして茫然自失の状態に追い込まれていく。

「率直に言うとだね…… ハラオウン…… この人事案はね…… 君のお義母さんであるリンディ局長も是非にとおっしゃっておいでなんだ」

「なん…… だと……!?」

お、お義母さんが一枚噛んでた!! ち――――ん!!  はい詰んだ……! いまフェイトさん完全に詰んだ……!

とんでもないラスボスの出現に私はグシャッと崩れ落ち、両手を付いていた。

ああ…… なんという無理ゲー…… 無理…… 絶対無理…… 人脈という言葉とまるで無縁なボッチな私の到底敵う相手ではない……

最後の最後に突きつけられた検事長の切り札は目標を完全に沈黙させるのに十分、いや、激しく ()(-)(バ-) ()SLB() だった。

「まあ…… 確かに検事長のおっしゃる人事案はそんなに悪い話ではないと私も思います。 第17管区アルヴァルドといえば…… 若い女の子たちの憧れの高級リゾート世界ですし、歴史ロマン溢れる古都でもあって、さらに商工業も発達していてミッドチルダに引けを取らない大都会の魔法文明世界です。 フッケバインの1件が終わって本局に復帰して2年弱の私にはまったく身に余るお話だと……」

私の中で得体の知れない何かが胎動していた。

「だ、だよね? そうだよね? じゃあ早速、人事の方には僕から……」

「だが断る」

「はい?」

窮鼠猫を噛む。完全に追い詰められて玉砕寸前の私は完全に吹っ切れていた。

「だ…… か…… ら…… 断るって言ってるのよ! 人が黙って聞いてれば調子に乗って! 冗談じゃないわよ! 誰がそんな(ボッチ当)ところ(選確実)に行くか!」

最初、ポカンと口を開けていた幹事長だったけど、ふと我に帰った途端、みるみる顔を真っ赤にしていく。

「き、君は…… 君っていうやつは…… だから…… だから!! 君はバカなんだ!!」

検事長はイスを蹴ると口角泡を飛ばし始めた。

「はあ? 何それ? きゃーこわーい!とか私が“あんた”に言うとでも? バカで結構! 話は以上? じゃあ私はこれで!」

「ま、ま、待て!! ハラオウン!!

バカ女ですけど待てと言われて待つ程度のバカではない。スタスタと出口に向って颯爽(※ 脳内変換済)と歩いて行く。

「待て!! 待ってくれ!! テスタロッサ!!」

「!?」

不意に旧姓を呼ばれた私はハッとして思わず振り返る。そこには、ゆでダコの様に頭の先から爪先まで真っ赤にした幹事長が私を睨みつけている姿があった。私を指差す手がワナワナと震えている。

「1ヶ月…… いや、2ヶ月の猶予をお前にやる!! 今日が12月頭だから1月末までにお前が決めろ!!」

何を?と問うのはいまさら愚の骨頂だ。公職に就く者にとって上意は絶対なのだから。それを拒否するとなると相応の対価は当然要求されることになる。

「局を去るか!! それとも命令に従うか!! 2ヵ月後の今日、またここでお前の答えを聞く!! それまでによく頭を冷やして考えておけ!! バカ!!」

「何を言い出すかと思えば…… そんなこと“あんた”に言われるまでもないわよ!! バカ!!」

「その言葉忘れるなよ!! テスタロッサ!!」

検事長の執務室のドアノブを回すとそこには鈴なりの人だかりが出来ていた。先頭にはシャーリーとティアの顔がある。

「は…… はは…… ははは…… フェイトさん、ちーっす……」

「あら…… 珍しいところで会うわね…… 二人とも…… 頼んどいた例の汚職事件の訴状はどうなってるのかしら……?」

「は、はい!! ちょ、ちょうど起訴方針についてご相談しようかとか思いまして…… で、ですね? シャーリーさん」

「は? 技官の私に無茶振りされても困るけど?」

こ、この人…… こんな非常事態でも全っっっ然融通きかねえしっ!!

ティアの顔が青ざめていく。何をそんなに恐れているのかしら?軽くブチ切れてますけどそんなに怖いかしら私?

「そう…… 相談事があるなら盗み聞きしていても仕方がないわよね…… 執行猶予くらいは付けてあげなくもないわよ? そのためには早くここから立ち去ったほうがよさそうね…… 全員!」

「ひ、ひえええ!!」

私の一言でその場にいた全員がクモの子を散らすように霧散していく。

「ったく…… どいつもこいつも…… バカにしてんじゃないわよ……」

啖呵(たんか)
を切ったしまった後だっていうのに……

涙が今頃になって零れてくるのは何故なんだぜ?




つづく
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