「魔法少女リリカルなのは」などの二次作品やオリジナル作品を公開しているテキストサイトです。二次創作などにご興味のない方はご遠慮下さい。
[PR]
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
サイレント・インパクト(2)
Case2 待人(まちびと)
子供の頃はお酒の匂いが嫌いで、
それ以上にお酒を飲む大人が嫌いだった
苦くて喉が痛くて
あんなもののどこが美味しいんだろうってずっと思っていた
でも
世の中って・・・・・・
お酒よりも、もっと苦くって、喉よりももっと心が痛くって
飲むんじゃなく、飲めるようになるもの
それがお酒だったんだ
たとえ住む次元世界が違っていても年の瀬に人間がやることには大して変わりがないらしく、どうやら忘年会というヤツも万国共通のようだ。今日は私みたいな本局付き執務官と はやて がボスをやっている管理局政策室合同の忘年会だった。
「それではみなさん!! 一年間お疲れっっしたあ!! かんぱーい!!」
「かんぱーい!!」
ミッドチルダロースクールからインターンで来ている若い学生君の乾杯と共に狂乱の宴は幕を 開ける。え?何が狂乱なのですって?それは後々明らかになると思う。
忘年会の会場になったパブは時空管理局の地上本部に近いということもあって普段から多くの局員が利用する馴染みのお店だった。言うまでもないけど、局は なのは の世界でいう警察組織、のようなものだ。気の置けない仲間(※ 気遣いをする必要がない)と気軽に利用出来るお店は貴重だから、こういうパーティーは部署単位で企画はしても会場を貸し切ったりはしないのが慣習というか暗黙の了解事項になっていた。もうお店の中の人たちの所属なんてカオス状態。局員ということしか分からない。自分がオーダーしたものに対してその場で支払いを済ませるシステムはその点でも便利だった。
こうした自由な雰囲気のイベントパーティーは出会いの機会が少ない管理局ではきっかけになることが多くて、毎年幸せそうなカップルが年末年始を境に誕生していた。リア充は爆発しろ。
「さっきからヘタクソなリポーター女みたいに何を一人でブツブツ言ってんねん。 自分……」
「うるさいわね…… 形式美ってやつよ……」
私の隣にいる 八神はやて は満面の笑顔で500ミリリットルのジョッキを傾けていた。その反対側にはティアがいる。二人とも肩くらいまで髪を伸ばしていた。もちろん、元特務6課の懐かしい面々もあった。と、言っても全体のほんの 一握りだったけど。
お店のドアが開くたびに私は視線を忙しく走らせる。待ち人の姿は、まだなかった。
「それにしても今年はミッドチルダにしてはホンマに珍しく平和やったな! 大した事件もなくてよかった! ははは! かんぱーい!」
確かに平和だったかもしれない。フッケバイン一連の騒動からあっという間に2年が経とうとしていた。私も27歳か。アップテンポのBGMと私達とは別の武装局員たちのグループの大騒ぎのせいで肩を寄せ合っていても会話が難しい。私は隣の はやて を肘で突いた。
「少しペース早すぎじゃないの? はやて……」
「なに言うてんの、フェイトちゃん。 宴は始まったばっかやで? それにまだ2杯目やんか! グビい!」
「ちょ、3杯目じゃん! それ!」
「ぷはあ! くー! 最近はこの為に生きてるわ。 わりとガチで」
注意しておくと忘年会が始まって15分しか経っていない。私と はやて の前ではシャーリーとティアが乾杯のシャンパン、つまり私と同様に一杯目のドリンクを飲んでいるところだった。二人とは私のオフィスから一緒にやって来ていた。とても同性とは思えない はやて の雄々しい飲みっぷりを、まるで珍獣でも眺めるように見ていたシャーリーが細身のシャンパングラスを傾けながらにっこりと微笑む。
「5分で500ミリリットルの消費量だったらお開きまでに12リットルは軽く飲んじゃう計算になりますね。 でもお手洗いによるドレイン(排出)分を加味すると…… そうねえ…… 18リットルくらいは軽くいっちゃうんじゃないかしら。 ふふふ!」
「お願いだから絶望的な数字を冷静に叩き出さないでちょうだい…… シャーリー」
この子が言うと妙に信憑性が出てくるから正直笑えない。
出禁を喰らった個人経営のお店がこの界隈に何軒かあるという話をシグナムから聞いたことがあったけど、この“うわばみ”ぶりを見ていると思わず納得してしまう。さすがは“夜天の主”ならぬ“屋台の主”だ。3杯目のジョッキに入っていたビールは私の目の前でみるみるうちに はやて の小さなブラックホールに飲み込まれていく。
「まだ始まったばかりなんだしさ…… それに空きっ腹にあんまりよくないよ……」
「またまたフェイトちゃんのお得意が始まったで。 こんな時にそんな野暮を言うもんやない自分。 ある意味、人生楽しんだモン勝ちやで? まるで世話焼きのオカンみたいやんか」
「オ、オカ……!? あ、あのね! 私は心配して言ってるんだよ! (※ お店の方を)」
ひ、人が気にしてることを……
一体、この小さな体のどこに飲んだものは収納されているんだろう。まさかどこかに転送していないわよね。
「ぷはーっ! お゙がわ゙り゙ー!」
て、てめ…… あんま調子に乗ってるとプラズマなんとかで黒焼きにするぞ……
私を挟んでティアが感心したような視線を 次々とジョッキを空にする はやて に向ける。
「八神部隊長はさすがっスね! 普通の女子局員には出来ない事を平然とやってのける! そこに痺れる! あこが…… qぼt@ふ7ぼ!!」
煽るのはやめろ、のサインを私はパンプスの爪先でティアに“優しく”送っていた。
バーテンのお兄さんたちがシェーカーを振るカウンターに近い立ち飲み用の丸テーブルに陣取る私達の目の前に4杯目のジョッキが置かれる。私達はそれぞれがニコッと愛想よく会釈を返した。でも、はやて のジョッキが私の目の前にあるのは微妙に納得が行かない。4人の中で一番背が高いからジョッキはコイツって思われたのだろうか。お金は はやて が払ったのに。
小柄な はやて の手がにゅうっと伸びて自分の獲物の回収にかかる。それを見た私達3人は咄嗟に自分の胸をガードした。
「ちょ! き、急になんやの自分ら! いきなりビックリするやんか! 一斉に腕組みなんかして!」
何杯飲んでも“しらふ”のくせにアルコールが入ると酔った振りをしてすぐ人の胸とか触ってくるから はやて と飲む時はセクハラ親父以上に気が抜けない。
「い、いや…… な、なんとなく…… ね、ねえ! ティア!」
「へ?」
ちょ、おま…… ボサッと突っ立ってんじゃねえ!
隣のティアに私は鋭く肘を入れた。
「ぐ、ぐはぁ! (い、いまガチで入りましたよ!フェイトさん!) え、えっと…… 何となくっていうか…… さ、寒くないっスか? ここ?」
「そ、そうだよねー ちょっと寒くなってきたよねー(棒)」
もっと何かあるだろとか思いながらも苦し紛れのティアに私とシャーリーは軽く援護射撃を送った。
「そ、そうかなあ…… めっちゃエアコン効いてるやん……」
はやて は訝しそうに私達の顔を順々に見ていたけど、再びジョッキを傾け始めた。
「ま、そんなことよりフェイトちゃん」
ぐっと はやて が私に顔を近づけるとボソボソと耳打ちを始める。
「自分…… さっきからツッコミばっかりで全然飲んでへんやん…… もしかしてダイエット中? ひっひっひ」
「ん、んなわけないでしょ……! ていうか…… お酒で太るとか都市伝説に決まってるじゃん…… 全ての元凶は“アテ(※ おつまみ、酒肴のこと)”よ…… アテ!」
「そんなら…… はよ2杯目いかな、全然おもろくないやんか…… 仲間内で一人だけ素ってめっちゃ引くわ…… 何か悩みごとでもあるん?」
「う、うるさいわね…… ペースってものがあるのよ……」
「二人で飲んでる時はウチと大して変わらへんピッチやんか……」
その時、お店のドアに付けられていた金属製のベルが鳴る。思わず反射的に目を向けると同じ部署のおじさま軍団が入ってきたところだった。軽く手を振ってやり過ごす。思わずため息が口を突いて出てしまう。
ほんとバカだな…… 私……
いくら待ってもしょうがないっていうのに。
「ふ~ん」
隣の はやて が肘で突いてくる。
「な、なによ…… そのいやらしい目つきは……」
「さっきから随分落ち着きないところを見ると…… やっぱ自分…… ひっひっひ! もしかして……」
「ちょ! て、てっめ!!」
このパターンはまずい。ハッと我に帰って私はチラッと周囲に目を向ける。シャーリーとティアの目はまるで手負いの獲物が力尽きるのを待っているハイエナのようになっている。
迂闊だった……
あんまり心ここにあらずの状態を続けていたら今日のいじられ役は私で確定してしまう。女の駆け引きは既に始まっていたというのに。最近、5試合(※ 飲み会)の恋愛話でハートフルボッコにされたのはティアとティアとティアとティアとティアの5人だった。果たしてどれが本体でどれが分身だったのかはこの際あまり重要ではない。なぜなら、説教部屋という名の二次会で、毎回、号泣させていたことはティアファンには秘密だ。
「なのは ちゃんから聞いたで? 最近、めっきり酒量が増えてるらしいやん? 何か悩み事かあ? ひょっとして…… まだあのこと引き摺ってるんか? ひっひっひ」
こ、こんの…… 真綿でじわじわと首絞めにかかりやがって……
「くっ!! 分かったわよ!! 飲むわよ!! 飲めばいいんでしょ!! 言われなくても飲むわよ!!」
私は琥珀色の液体が入ったグラスを引っ手繰るとそれを一気に飲み干した。辛口がほどよく空きっ腹に沁み込んでいく。酒量のキャパシティー勝負に持ち込めばもはや小賢しい計略は私に通用しない。頭脳派を力でねじ伏せる弱肉強食の場に持ち込むしかない。
「へへへ…… さすがフェイトちゃんやな。 いい飲みっぷりや。 次は? 何飲むん?」
頬杖をついて私の横顔を見ていた はやて がにこっと微笑む。その表情があまりにも可愛すぎてドキッとした自分がちょっと悔しい。今まで何で肩に力が入っていたんだろう。もうどうにでもなれって感じだった。
「よーし! 今度はフェイトさん白のフルボトルいっちゃうぞ~☆」
「いつも通りラッパ飲み? フェイトちゃん? ニコッ」
「それ以上言うと殺すわよ? はやて? ニコッ」
2時間後……
「うっ…… うっ…… うっ…… これってどう思います? 酷いと思いません? 私だって仕事とかあったしい…… 苦手な料理もがんばったのにい……」
私達の目の前には泣き崩れているティアの姿があった。
「うんうん…… せや…… せやな…… 分かるよ…… よ~く分かるで…… ティアのその気持ちは…… 相手がちょっと神経質すぎたんちゃうかな……」
「ですよね!! あたし悪くないですよね!!」
「そやな…… ちょっと相手の態度はウチもいただけへんなあ…… さてっと……」
すっと テーブルを離れた はやて が壁にかけていたコートを手に取るとティアの肩に優しくかける。
「ほな…… 続きは二軒目できこか……」
「え゙…… あ…… い、いや……」
さすがの私もこれは引くわ…… 仕方がないなあ…… ティアに助け舟出してあげるか……
「ちょっと、はやて…… まだ飲むつもり? 終電なくなっちゃうし、いい加減にしなよ…… ティアももう限界みたいだし…… ね? ティア」
「は、はい…… す、すみません…… フェイトさん……」
「うんうん…… ティアは本当によくがんばったと思うよ? 大丈夫! その人とはきっと仲直りできるって…… だから……」
私はハンカチでティアの涙を優しく拭いてあげる。
「続きは外でしよっか? 寒さで”酔い”も覚めるだろうし」
「え…… ちょ…… (そっちかよ!)」
いや、もう許してやれよ……
私と はやて に両脇を抱えられたティアが引き摺られていく姿をシャーリーが遠い目で見送っていた。
この日…… けっきょく、私の待ち人は現れなかった……
つづく
「それではみなさん!! 一年間お疲れっっしたあ!! かんぱーい!!」
「かんぱーい!!」
ミッドチルダロースクールからインターンで来ている若い学生君の乾杯と共に狂乱の宴は幕を 開ける。え?何が狂乱なのですって?それは後々明らかになると思う。
忘年会の会場になったパブは時空管理局の地上本部に近いということもあって普段から多くの局員が利用する馴染みのお店だった。言うまでもないけど、局は なのは の世界でいう警察組織、のようなものだ。気の置けない仲間(※ 気遣いをする必要がない)と気軽に利用出来るお店は貴重だから、こういうパーティーは部署単位で企画はしても会場を貸し切ったりはしないのが慣習というか暗黙の了解事項になっていた。もうお店の中の人たちの所属なんてカオス状態。局員ということしか分からない。自分がオーダーしたものに対してその場で支払いを済ませるシステムはその点でも便利だった。
こうした自由な雰囲気のイベントパーティーは出会いの機会が少ない管理局ではきっかけになることが多くて、毎年幸せそうなカップルが年末年始を境に誕生していた。リア充は爆発しろ。
「さっきからヘタクソなリポーター女みたいに何を一人でブツブツ言ってんねん。 自分……」
「うるさいわね…… 形式美ってやつよ……」
私の隣にいる 八神はやて は満面の笑顔で500ミリリットルのジョッキを傾けていた。その反対側にはティアがいる。二人とも肩くらいまで髪を伸ばしていた。もちろん、元特務6課の懐かしい面々もあった。と、言っても全体のほんの 一握りだったけど。
お店のドアが開くたびに私は視線を忙しく走らせる。待ち人の姿は、まだなかった。
「それにしても今年はミッドチルダにしてはホンマに珍しく平和やったな! 大した事件もなくてよかった! ははは! かんぱーい!」
確かに平和だったかもしれない。フッケバイン一連の騒動からあっという間に2年が経とうとしていた。私も27歳か。アップテンポのBGMと私達とは別の武装局員たちのグループの大騒ぎのせいで肩を寄せ合っていても会話が難しい。私は隣の はやて を肘で突いた。
「少しペース早すぎじゃないの? はやて……」
「なに言うてんの、フェイトちゃん。 宴は始まったばっかやで? それにまだ2杯目やんか! グビい!」
「ちょ、3杯目じゃん! それ!」
「ぷはあ! くー! 最近はこの為に生きてるわ。 わりとガチで」
注意しておくと忘年会が始まって15分しか経っていない。私と はやて の前ではシャーリーとティアが乾杯のシャンパン、つまり私と同様に一杯目のドリンクを飲んでいるところだった。二人とは私のオフィスから一緒にやって来ていた。とても同性とは思えない はやて の雄々しい飲みっぷりを、まるで珍獣でも眺めるように見ていたシャーリーが細身のシャンパングラスを傾けながらにっこりと微笑む。
「5分で500ミリリットルの消費量だったらお開きまでに12リットルは軽く飲んじゃう計算になりますね。 でもお手洗いによるドレイン(排出)分を加味すると…… そうねえ…… 18リットルくらいは軽くいっちゃうんじゃないかしら。 ふふふ!」
「お願いだから絶望的な数字を冷静に叩き出さないでちょうだい…… シャーリー」
この子が言うと妙に信憑性が出てくるから正直笑えない。
出禁を喰らった個人経営のお店がこの界隈に何軒かあるという話をシグナムから聞いたことがあったけど、この“うわばみ”ぶりを見ていると思わず納得してしまう。さすがは“夜天の主”ならぬ“屋台の主”だ。3杯目のジョッキに入っていたビールは私の目の前でみるみるうちに はやて の小さなブラックホールに飲み込まれていく。
「まだ始まったばかりなんだしさ…… それに空きっ腹にあんまりよくないよ……」
「またまたフェイトちゃんのお得意が始まったで。 こんな時にそんな野暮を言うもんやない自分。 ある意味、人生楽しんだモン勝ちやで? まるで世話焼きのオカンみたいやんか」
「オ、オカ……!? あ、あのね! 私は心配して言ってるんだよ! (※ お店の方を)」
ひ、人が気にしてることを……
一体、この小さな体のどこに飲んだものは収納されているんだろう。まさかどこかに転送していないわよね。
「ぷはーっ! お゙がわ゙り゙ー!」
て、てめ…… あんま調子に乗ってるとプラズマなんとかで黒焼きにするぞ……
私を挟んでティアが感心したような視線を 次々とジョッキを空にする はやて に向ける。
「八神部隊長はさすがっスね! 普通の女子局員には出来ない事を平然とやってのける! そこに痺れる! あこが…… qぼt@ふ7ぼ!!」
煽るのはやめろ、のサインを私はパンプスの爪先でティアに“優しく”送っていた。
バーテンのお兄さんたちがシェーカーを振るカウンターに近い立ち飲み用の丸テーブルに陣取る私達の目の前に4杯目のジョッキが置かれる。私達はそれぞれがニコッと愛想よく会釈を返した。でも、はやて のジョッキが私の目の前にあるのは微妙に納得が行かない。4人の中で一番背が高いからジョッキはコイツって思われたのだろうか。お金は はやて が払ったのに。
小柄な はやて の手がにゅうっと伸びて自分の獲物の回収にかかる。それを見た私達3人は咄嗟に自分の胸をガードした。
「ちょ! き、急になんやの自分ら! いきなりビックリするやんか! 一斉に腕組みなんかして!」
何杯飲んでも“しらふ”のくせにアルコールが入ると酔った振りをしてすぐ人の胸とか触ってくるから はやて と飲む時はセクハラ親父以上に気が抜けない。
「い、いや…… な、なんとなく…… ね、ねえ! ティア!」
「へ?」
ちょ、おま…… ボサッと突っ立ってんじゃねえ!
隣のティアに私は鋭く肘を入れた。
「ぐ、ぐはぁ! (い、いまガチで入りましたよ!フェイトさん!) え、えっと…… 何となくっていうか…… さ、寒くないっスか? ここ?」
「そ、そうだよねー ちょっと寒くなってきたよねー(棒)」
もっと何かあるだろとか思いながらも苦し紛れのティアに私とシャーリーは軽く援護射撃を送った。
「そ、そうかなあ…… めっちゃエアコン効いてるやん……」
はやて は訝しそうに私達の顔を順々に見ていたけど、再びジョッキを傾け始めた。
「ま、そんなことよりフェイトちゃん」
ぐっと はやて が私に顔を近づけるとボソボソと耳打ちを始める。
「自分…… さっきからツッコミばっかりで全然飲んでへんやん…… もしかしてダイエット中? ひっひっひ」
「ん、んなわけないでしょ……! ていうか…… お酒で太るとか都市伝説に決まってるじゃん…… 全ての元凶は“アテ(※ おつまみ、酒肴のこと)”よ…… アテ!」
「そんなら…… はよ2杯目いかな、全然おもろくないやんか…… 仲間内で一人だけ素ってめっちゃ引くわ…… 何か悩みごとでもあるん?」
「う、うるさいわね…… ペースってものがあるのよ……」
「二人で飲んでる時はウチと大して変わらへんピッチやんか……」
その時、お店のドアに付けられていた金属製のベルが鳴る。思わず反射的に目を向けると同じ部署のおじさま軍団が入ってきたところだった。軽く手を振ってやり過ごす。思わずため息が口を突いて出てしまう。
ほんとバカだな…… 私……
いくら待ってもしょうがないっていうのに。
「ふ~ん」
隣の はやて が肘で突いてくる。
「な、なによ…… そのいやらしい目つきは……」
「さっきから随分落ち着きないところを見ると…… やっぱ自分…… ひっひっひ! もしかして……」
「ちょ! て、てっめ!!」
このパターンはまずい。ハッと我に帰って私はチラッと周囲に目を向ける。シャーリーとティアの目はまるで手負いの獲物が力尽きるのを待っているハイエナのようになっている。
迂闊だった……
あんまり心ここにあらずの状態を続けていたら今日のいじられ役は私で確定してしまう。女の駆け引きは既に始まっていたというのに。最近、5試合(※ 飲み会)の恋愛話でハートフルボッコにされたのはティアとティアとティアとティアとティアの5人だった。果たしてどれが本体でどれが分身だったのかはこの際あまり重要ではない。なぜなら、説教部屋という名の二次会で、毎回、号泣させていたことはティアファンには秘密だ。
「なのは ちゃんから聞いたで? 最近、めっきり酒量が増えてるらしいやん? 何か悩み事かあ? ひょっとして…… まだあのこと引き摺ってるんか? ひっひっひ」
こ、こんの…… 真綿でじわじわと首絞めにかかりやがって……
「くっ!! 分かったわよ!! 飲むわよ!! 飲めばいいんでしょ!! 言われなくても飲むわよ!!」
私は琥珀色の液体が入ったグラスを引っ手繰るとそれを一気に飲み干した。辛口がほどよく空きっ腹に沁み込んでいく。酒量のキャパシティー勝負に持ち込めばもはや小賢しい計略は私に通用しない。頭脳派を力でねじ伏せる弱肉強食の場に持ち込むしかない。
「へへへ…… さすがフェイトちゃんやな。 いい飲みっぷりや。 次は? 何飲むん?」
頬杖をついて私の横顔を見ていた はやて がにこっと微笑む。その表情があまりにも可愛すぎてドキッとした自分がちょっと悔しい。今まで何で肩に力が入っていたんだろう。もうどうにでもなれって感じだった。
「よーし! 今度はフェイトさん白のフルボトルいっちゃうぞ~☆」
「いつも通りラッパ飲み? フェイトちゃん? ニコッ」
「それ以上言うと殺すわよ? はやて? ニコッ」
2時間後……
「うっ…… うっ…… うっ…… これってどう思います? 酷いと思いません? 私だって仕事とかあったしい…… 苦手な料理もがんばったのにい……」
私達の目の前には泣き崩れているティアの姿があった。
「うんうん…… せや…… せやな…… 分かるよ…… よ~く分かるで…… ティアのその気持ちは…… 相手がちょっと神経質すぎたんちゃうかな……」
「ですよね!! あたし悪くないですよね!!」
「そやな…… ちょっと相手の態度はウチもいただけへんなあ…… さてっと……」
すっと テーブルを離れた はやて が壁にかけていたコートを手に取るとティアの肩に優しくかける。
「ほな…… 続きは二軒目できこか……」
「え゙…… あ…… い、いや……」
さすがの私もこれは引くわ…… 仕方がないなあ…… ティアに助け舟出してあげるか……
「ちょっと、はやて…… まだ飲むつもり? 終電なくなっちゃうし、いい加減にしなよ…… ティアももう限界みたいだし…… ね? ティア」
「は、はい…… す、すみません…… フェイトさん……」
「うんうん…… ティアは本当によくがんばったと思うよ? 大丈夫! その人とはきっと仲直りできるって…… だから……」
私はハンカチでティアの涙を優しく拭いてあげる。
「続きは外でしよっか? 寒さで”酔い”も覚めるだろうし」
「え…… ちょ…… (そっちかよ!)」
いや、もう許してやれよ……
私と はやて に両脇を抱えられたティアが引き摺られていく姿をシャーリーが遠い目で見送っていた。
この日…… けっきょく、私の待ち人は現れなかった……
つづく
PR