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第二話 Fundamentals (本質・・・)

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2nd piece / Fundamentals (本能)
 
 
フェイト…ねえ…フェイトってば…

「アリシア…」

フェイトはホントに母さんそっくりだよね…

「私が…母さんと…」

うん…そうだよ…そっくり過ぎたんだ…二人は…

「そう…かな…?そうなのかな…」

一途で…とっても優しい人だった…母さん…

だから…

「だから…?」

母さんは…壊れたんだよ…優しすぎたから…

「壊れた……待って……アリシア……待って!!」

そして…私は目を覚ます…



「夢…また同じ夢…」

カーテンの隙間から差し込む朝の光が睡眠不足の目に痛い。

脱ぎ捨てたブラウスとパンプス…そして…一人で眠るダブルベッド以外に何もない部屋…この風景にも…もう慣れた…

サイドテーブルで突然鳴り出す目覚まし時計…一緒に学校に通っていた時になのはからもらったこの時計を私はまだ使っている…

すっきりしない頭を抱えて緩慢な動作で起き上がる…二日酔いの様に頭がクラクラしていた…
いつもより熱めのシャワーを浴びればスッキリするだろうか…

何も変わらない…変わるわけがない…いつも通りの朝が…始まろうとしていた…
 新暦76年12月23日
1週間前…

新暦76年12月14日にミッドの首都クラナガンの中央区6番街で発生した未曾有のビル火災は、その後の本局所属の魔道技術検査課(鑑識)による詳細な調査で人為的に引き起こされた無差別テロ行為と正式に認定された。

あの日…最初のテロ事案が発生したStarsビルは地区政府の出先機関も入居する高層オフィスビルとして約半年前にオープンしたばかりの複合施設だった。クリスマスを祝う風習が元々ないミッドチルダとはいえ建物周辺は年末の買い物客で当然賑わっていた…

事件後に死亡した重傷者を含めた死者は33名、重軽傷者に至っては転倒などの軽度のものを含めても117名…瞬く間に炎に包まれた高層ビルは出火から僅かに2時間で崩落…まったく不謹慎な話だけど、思い出すだけで戦慄(せんりつ)するような事態が発生したにも関わらず被害がこの程度で収まったのはほとんど奇蹟といってよかった。

JS事件で執務官としての実績を買われた私は機動6課から本局本隊に復帰していたこともあってこの忌まわしい事件を担当することになったものの…史上最悪のビル火災が実はテロだったという事件性、そして特定人に当てる体裁を取ったセンセーショナルな犯行声明…そのどれをとっても世間の耳目を集めない筈はなかった。

当然…私の仕事の多くはマスコミ対策に費やされることになり、不本意ながらも私の顔は広く世間に知れ渡ることになってしまった。私の生活は以前とはまるで違う異質なものへと変り果てていた…

遅々として進まない捜査…濁流に押し流されるみたいにあっという間に過ぎ去っていく時間…焦燥感の様なものが対策本部の雰囲気を支配し始めたこの日…

最も恐れていたことが現実になってしまった…
 
 

新暦76年12月23日 PM11:51
本局地上本部 「中央区6番街無差別テロ事件対策室」
 
「フェ、フェイトさん!」

「どうしたの?シャーリー」

「ま、また犯行声明…い、いや犯行予告です!プレアデスからの!」

「犯行…予告…」

その場に居合わせた実際の捜査現場を担当する武装局員達の顔がみるみる引きつっていくのが分かる。

事件後に捜査関係者やマスコミに送られてくる、いわゆる犯行声明は、その真贋はともかく事後という気安さも手伝って捜査資料の一つにはなっても、犯人に迫る有力情報(手がかり)として扱うことはほとんどない。犯人サイドが捜査の霍乱を狙って無意味な情報を流している場合も少なくないからだ。

しかし…犯行予告は一見して犯行声明と大差が無いと認識する向きもあるけどその悪質性は捜査関係者にとっては較べるべくも無い。

国家権力に対する挑戦とか…プライドを傷つける挑発とか…そんな安っぽい言葉では到底済まされない…場合によっては世の中の人全てを脅迫するも等しい、傍若無人も甚だしい行為だ。


まして…今、世間の注目を集めている“プレアデス”を名乗るのであれば尚更だ…
 
「それで…そのプレアデスさんはなんて言ってるの?」

「はい…じゃあ読みますね?Fへ…No.20…読書好きの次女は満月の夜に踊り出す…プレアデス…以上です」

人見知りを全くしないシャーリーの朗々とした声が響いた後、今度は一転して根拠の無い安心感が会議室を支配し始める。

多分…この瞬間、呼吸することも難しいほど緊張しているのは私だけかもしれない…

No.20…読書好きの次女…満月…何を言ってるんだ…こいつ…悪質ないたずらですよ、フェイトさん」

野太い局員の声がした。

「それに…この前は事後にメッセージを送りつけて来たのに今度は予告というのも一貫性を欠いていますね。まあ…以前が6番で今度が20番、そしてFとプレアデス…それ以外に共通するものがないし、別人の仕業じゃないでしょうかねえ…」

「あ…すみません…ちょっと補足っていいですか?」

全員の視線がシャーリーに集まる。

「実は…あの時は単なる事故だと思っていたこともあって端折っちゃったんですけど…最初のメッセージにもちょっとした謎かけ的な一文はあったんです。長女はなんとか…みたいに…」

「じゃあ…あながち別人の仕業とも言い切れんというわけか…」

「はい。悪戯の可能性も否定できないことと…あと全文をマスコミが掲載しちゃうと相手のメシウマ状態ですから…この2通目を受け取るまで大してあたしも気にしてなかったんですけど…一応…念のためお伝えしておこうと思って…はい、以上です」

静まり返った室内の静寂を私が破る。

20番…20番街で本に関係ある場所って何処かしら…」

「はいはーい!ちょっと待って下さい!ええっと…ミッド中央区の20番街っていうと…あ、あれ…?そこは市民プールとかフィットネスセンターとかが林立する運動公園ですねえ…」

「運動公園?出版社とか印刷所とかも付近にはないの?」

「はい。間違いありません。文科系っていうか、めがっさ体育会系って感じの場所です」

どういうことかしら…シャーリーの言葉に私は首を傾げる…

「ほら!やっぱ悪戯っすよ!」

「そうですよフェイトさん…まあ、悪戯だろうがなんだろうが…あとで発信元を炙り出して踏ん縛っちまいますけどね。おっと!もう日付が変わっちまうのか…そろそろ仕事上がりますかね」

「とかなんとか言いながらどうせまっすぐ家には帰らないんだろ?」

捜査員達の笑い声が響く。

本当に悪戯ならいいんだけど…何か悪い予感がする…でも漠然としすぎてどこに警戒指示を出せばいいのか…いやそれ以上に時期的なものも分からないんじゃ…手の施しようも…

「ねえ…シャーリー…満月っていえば…ミッドチルダの満月は確か…今日の筈だよね?」

「はい。確かに…あ、でもトリプルフルムーンって訳じゃなくて…西の月だけが満月です」

「西の月…じゃあ西の月が完全に満月を迎えるのは何時かな?」

「えっとですねぇ…ちょっと待って下さい…あっ!午後11時59分23秒…つまり…あと1分後ですねえ…」

シャーリーが言い終わると全員が申し合わせていたみたいに一斉に自分達の腕時計を見る。私もその一人だった。

1分って…直前通告もいいところだな…これじゃ何も出来ないじゃねえか…愉快犯にしちゃあ随分とまたせっかちだな…こりゃ…」

捜査員の誰かが独り言のように呟いた。そう…私が引っかかっていたポイントがまさにそれだった。

犯行予告をする目的の大半は悪戯にしろ本物にしろ世間や国家権力が右往左往する姿を見て悦に浸ることにあると言っていい…逆を言えば、予告と実行の期間は適当な長さを持つべきなんだ…その間隔が短いってことは…楽しむことを前提にしていないってことなんじゃないのかしら…

自分の目的に忠実だ、という考え方だって出来る…

「もうそろそろだな…」

祈るような気持ちだった…いたずらであって欲しい…管理局に悪戯の通報や手紙が届いたりするのはそんなに珍しいことじゃない…

軽口をたたく捜査員たちも内心はそう願っているに違いない…

5、4、3、2、1、はい!時間ですよ!フェイトさん!シャーリーさん!これでいたずら確定…」

突然の警報音…私たちの願いも虚しく…事件は発生した…

「緊急警報!首都航空機動隊より応援要請あり!西ガルフ=クラガン区20番街5番通り19番地にて爆発事件発生!武装局員は直ちに急行せよ!繰り返す…」

「ま、マジかよ!うそだろ…おい…」

「西ガルフ区20番街…20番…シャーリー!そこの住所には何があるの!」

「ちょ、ちょっと待ってください!!あ…こ、公立郷土文芸図書館です!!」

「図書館…読書好き…私たちも全員現場に急行します!」

「了解!!」

私たちは慌てて部屋を後にした…

「で、でも…郷土文芸図書館って…また…えらくどマイナーな場所を選ぶよなあ…利用者なんて日中でも殆どいないだろ?この前のStarsビルとは全く違うぜ…何考えてんだ」
 
 

新暦76年12月24日AM00:38
ミッド首都西ガルフ区20番街 公立郷土文芸図書館
 
私たちが現場に到着した時…まだそこかしこから不気味に煙が幾筋も立ち上ってはいたものの殆ど鎮火していた。ただ…公立図書館らしき建物の姿はどこにも見当たらず、瓦礫の山が累々としているような有様だった。

まるでピンポイントに爆発炎上させたかのように…

「ん?テスタロッサ…お前…ここに来ていたのか?」

「シグナム…あなたがここの指揮を?」

「ああ…警ら中にここから火の手が上がるのを空からたまたま目撃してな…」

「そうだったんですか…」

付近には航空機動隊を始めとして、災害救助消防隊、そして首都防衛の陸士部隊の姿もあり、物々しい雰囲気に包まれていた。

「すまない…テスタロッサ」

「えっ?どうしてシグナムが謝るの?むしろ初動体制の的確さと見事な現場指揮に私の方が驚いています…それに爆発規模の大きさにしては周辺への被害も少なくて不幸中の幸いでした」

「ああ…確かに善処はしたつもりだ…だが、建物も蔵書も全て灰塵と化してしまったし…なによりも…お前が追っている“プレアデス”の犯行となればまた世間が不必要に騒ぐ…出来るだけ被害を最小限に食い止めたかったがあまりにも火の回りが早くてな…」

「…お気持ちだけで十分です…シグナム…でも…どうしてこれが“プレアデス”の犯行と?」

「前回の中央区の事件の時と同じだ…そういえば十分だろ?」

「なるほど…あなたのところにも…あれが…」

「ああ…まず間違いなくマスコミにもリークされているだろうよ…残念だが今日は一段と騒がしいクリスマス・イブになるな?」

シグナムが冬の夜空を見上げながら呟く…

かつてなのはやはやてと同じ世界にいた私とシグナムは「クリスマス」の習慣をよく知っていた。八神家の家長であるはやてが管理局の仕事に就いてからというもの、八神家のクリスマスも年々簡素化する一方ということは前にシグナムから聞いたことがあった。それでも毎年、昔と変わらず家族で出来るだけ集まって祝っているらしい。

本当に仲のいい家族…

「覚悟はしています。これも仕事のうちですし…特に予定もありませんから…」

「ん?そうなのか?ああ…そういえばそろそろなのはも退院が近かったな?」

「日付が変わったから…今日の筈…です…多分」

不思議そうに私を見詰めるシグナムの視線…

口実を作ってこの場から逃げ出そうとしたその時、誰かが私たち二人に近付いてくるのが分かった。

「シグナム姐さん!おっ!フェイトさん、久しぶりですね!来てたんですか?」

「ヴァイスさん…」

「おいヴァイス、きさま勤務中に“姐さん”は止めろと言ってるだろう。…ったく…お前らはまだ6課の癖が抜けていないらしいな」

「へへ、そいつぁどうもすみませんねえ。直そうとは思ってるんですけどこれがなかなか…おっと!そんなことより消防隊の連中が現場検証の結果のことで隊長とお話したいそうですよ?」

「消防隊が?何か掴んだのか?分かったすぐ行く。そうだ…テスタロッサお前も来い。何か事件の手がかりが得られるかも知れん」

「はい…是非…」

事件はこの日を境に一過性のものではなく…連続犯罪の性質を帯び始めていた…

そして…私たちのチームの名前も「プレアデス連続無差別テロ事件対策室」と改められることが決まった。
 


新暦76年12月24日 PM05:00人類が生んだ偉大なる凡人
本局地上本部

「フェイトさーん!」

「ティア…」

ティアナ・ランスター…はやての機動6課で一緒だったなのはの教え子の一人…

6課解散後、本人のキャリア希望が執務官であることもあって私が声をかけた。今は私のオフィスで事務官の一人としてシャーリーのアシスタントをそつなくこなす毎日だった。

「今日は本当にお疲れ様です!結局…昨夜から徹夜だったんですよね…?フェイトさん」

「たまたまだよ…毎日徹夜してるわけじゃないから…それよりもあと2ヶ月切っちゃったね?どう?補佐官試験の勉強捗(はかど)ってる?」

「えっ!?ああ…あの…ははは…な、なんとか…要点だけ頭に詰め込むようにしてるんですけど…ちょっと最近スランプ気味で…特に時空間訴訟法の賠償請求権解釈の辺りがちょっと…苦手っていうか…おかしいっていうか…」

「そうなんだ…でも…時空間訴訟の請求権棄却の判例はすごく重要だよ?あそこは補佐官試験だけじゃなくて本試験でもよく出てくるから…」

「そーなんですよねえ…はあ~シャーリーさんにも全く同じこと言われましたよ…でも…なんか理屈に合わないっていうか…明らかに誰得って感じの規定とかあるんですよ?おかしくないですか?」

「ふふふ。まあ…時空間訴訟法は新暦2年施行だから相当古いし、殆ど法改正もないから現代の感覚ではちょっと納得できない部分もあるよね。あそこは考えるんじゃなくて感じる、って方がいいかも…あと…筆記以外にそろそろ口頭試問対策もしておかないと、だね?」

「あーあー聞こえないっす…あたし…プレッシャーっていうか…本番に弱いんで…」

ティアは今年の1月末に執務官補資格の試験を控えている…これに合格すれば今のような雑用係ではなく、シャーリーのように執務官補佐として正式に事件捜査に携わることが出来るようになる。将来のためにも今はとても重要な時期だった。

「ティアなら大丈夫だよ。この一年間がんばってきたんだから。自分を信じなきゃ…」

「は、はい!あ、ありがとうございます。でも…ぶっちゃけ、無謀なのは自分でも分かってるんですけどね(エヘッ)」

「えっ…無謀?」

「だって士官学校ですら落ちたこのあたしがそもそも最難関の執務官キャリアを目指すっつうのもどんな無理ゲーだよって感じで…」

「向いてる…向いてない…そんな問題じゃないんだよ…これは…ティア…すごく頑張ってるじゃない?自分が自分を信じられなくてどうするの?(ジロッ)」

「う、うわっ!す、すみません!(滅多に怒らないフェイトさんを怒らすとか…吊るしかねえ!!)」

「(し、しまった…)あ…ご、ごめんね!別に怒ってるわけじゃないんだよ…?ちょっと…ほとんど徹夜状態だったから…あの…その気にしないで…(アセアセ…)」

「は、はい…(いやかなり怒ってたっスよ…シュン…)」

ちょっと気まずかった…別に徹夜明けで妙なテンションがあったわけでもない…私の中の別の感情がティアの自虐的な言動に過剰に反応していた…

私と並んで歩くティアもある事件がきっかけで唯一の肉親だったお兄様を失っている…執務官志望だったお兄様の夢を継ぐことに並々ならない情熱を傾けるティア…日中の仕事をこなした後で禄に睡眠もとらず次元九法全書を丸暗記するような勢いで必死に勉強している…

この子もまた…失ったパズルの欠片を捜し求めているんだ…

私もシャーリーもそれぞれ自分なりに努力をして現在の職務に就いているけど…シャーリーの家は代々執務官や行政機関キャリアを多く輩出する家系だったし、私は義母さん(リンディー・ハラオウン)の扶養家族という立場で勉強に集中できる環境を与えてもらっていた。だから難関の執務官試験にもパス出来た様なものだ…

でも…ティアは違う…

特別扱いを受けた私とは違って誰の支援も受けずに本当に一人でここまでやってきている…正直言ってこの凄まじい気迫に私もシャーリーも驚いていた…いや、圧倒されているって言った方がいい…

将来のある子たちを壊してしまわないように…なのはいつもそう言っていた…そんななのはから預かった大切な子(ティア)なのに…私はティアの気持ちを思うとこれ以上無理をするなとも、逆に更に背中を押すようなことも出来ず…ただただ…ハラハラ、オロオロしながら見守ることしか出来ない…

指導者として…私は明らかに失格だ…

「な、なんか…今回の事件って…と、とっても気持ち悪いですよね?」

「えっ?ああ…一連のテロ事件のことだよね…?それって…多分…」

私の方がティアを励まさないといけないのに…気を遣わせてしまう自分が情けない…

「はい…あ、あの!フェイトさん!あたしも何かお手伝いとかしますから!何でもおっしゃって下さい!」

「ありがとう…ティア…でもその気持ちだけで十分だよ?今はティアが集中しなきゃいけないことに全力を傾けて欲しいんだ。それが私の願いでもあるから…」

「は、はい…分かりました…あっ!そういえばなのはさん、今日退院なんですよね!」

なのははこの秋からずっと入院していた。始めは検査入院という形だったけど…シャマルさんの勧めもあって療養を兼ねた入院に途中から変更されていた。そして、本人たっての希望で今日…クリスマス・イブの日に退院する予定になっていた。

「うん…そうだよ…でも…技術検査部(鑑識)から送られてきた昨日の現場データの解析をしないといけないし…ちょっと気になることもあるから…あっ!ちょ、ちょっと!ティア!」

急に手が伸びてきたかと思うと私が両手に抱えていたテロ事件関係の書類ファイルはあっという間にティアに奪われていた。

「これ…アタシが全て解析しておきますから!フェイトさんは…えっと…なのはさんのお迎えに行って差し上げて下さい!」

「で、でも…」

「じゃ、じゃあ!あたしはこれで!なのはさんによろしくお伝え下さい!(スタコラサッサ!)」

「…」

今から本局を出れば間に合う…予定に変更がなければ…

私の気持ちが揺れていた。

多分…私はティアに感謝すべきなんだろうね…でも…正直言うととても重いんだ…
 


なのはが倒れたのは…フォワードチームが6課を除隊した日から3ヵ月経ったある夜のことだった…

JS事件の時の無理が祟って…身体に後遺症を残すほど…なのはの身体はボロボロになっていた…いつもそうなんだよ…なのはは…辛いことや苦しいことを一人で抱え込むクセは昔のまま…

さすがに入院の事実は隠せなかったけど…後遺症のことは元6課の限られたメンバーにしかしらされていない…

勿論、ティアも知らない…
 

なのはが倒れた時…私の目の前は真っ暗になった…本当にすべてを失ってしまったようだった…

情けないことに救急車を呼んだのは…その時、一緒にいた私ではなく…ヴィヴィオの拙い電話を受けたはやてだった…勘のいいはやては断片的な情報から事態の重さを瞬時に理解して万全の体制を整えてくれた。

「アホ!!ヴィヴィオちゃんがすぐに知らせてくれたからよかったものの…一歩間違っていたらとんでもないことになってたんやで!何考えてるんや!自分!甘えるのもいい加減にしいや!」

病院内で反響するはやての声…泣きじゃくるヴィヴィオ…私たちのやり取りを遠巻きに見ている義兄さんとユーノ…全てがはるか遠くのもののように感じられた…

「やめてー!フェイトママ怒らないで!」

はやての平手打ちが私に飛んできた。

「フェイトちゃん!私の話聞いてるんか!何ぼーっとしてるんや?」

「あ、あの…ごめん…なさい…」

「ごめんって…あれだけ考えてた挙げ句にごめんなんか…ちょっと…フェイトちゃんらしくないよ?」

「ママー!ママー!」

「ほら、ヴィヴィオちゃんも心配してるやん…安心させてあげたら?フェイトちゃんの得意分野やないの…」

「う、うん…ヴィ…ヴィヴィオ…あの…あのね…」

はやても助け舟のつもりだったんだと思う…

小さい子供をあやすのは苦手じゃない筈なのに…私はオロオロするばかりで何も出来なかった…私は…戸惑い、そして激しく動揺していた…ヴィヴィオにどう反応していいのか、まるで分からなかった…

その場が凍り付いていくのが分かる…結局、私に抱きついたまま離れないヴィヴィオが泣き止むことはなかった…

そしてその時…私は気がついた…

私にとってなのはは”全て”だったことに…フェイトという人格がここには無いことに…

私は…あの時…倒れたなのはを抱きしめたまま泣くことしか出来なかった…まるで子供みたいに…ヴィヴィオにすら心配される私…

フェイトママとか…

あの日以来、まるでままごと遊びのように虚しく私の心の中で響くその言葉は呼ばれる度に私の胸を締め付けるようになった…

私は…あなたのママになんかなれない…いや、私にはその資格が無いんだ…

もうヴィヴィオとはまともに向き合えなかった…

なのはにも会わせる顔がない…

何一つとして自分では成し遂げられない…全くダメな人間…それが私の正体…

それなのに…どうして私は泣くんだろう…まるで被害者ぶるみたいに…同情を買おうとしているみたいに…私は卑しい人間…いや、本当はやっぱり人間じゃないのかもしれない…

だって…こんなに涙が出るんだもの…おかしいよ…
 


病院付属のパーキングエリアに車を止めてもう30分以上経っていた。車の中から病院の正面玄関が見える。

私は何をやってるんだろう…折角、ティアが仕事を変わってくれたっていうのに…最悪の気分だった…目を見られてしまえば泣いたことがすぐなのはにばれてしまう…また心配させてしまう…

考えていることがすぐ顔に出てしまう私とは対照的に自分の痛みや苦しみを私に見せないなのは…
はやてが言うとおり…私はなのはに甘えていた…

いつも自分を全力で受け止めてくれる…なのはに…頼り切っていた…

私はただ…なのはの胸に顔を埋めて泣けばよかった…温かいぬくもりに包まれて笑えばよかった…
なのは…会いたい…でも…会えない…

「なのはママー!こっちだよ!」

こ、この声は…ヴィヴィオ…

「ヴィヴィオ、静かにしてなきゃダメだよ。ここは病院なんだから」

なのはだ…

「なの…は…」

私は弾かれたように車から飛び出していた。でも…

「それにしてもごめんね…ユーノ君。仕事で忙しいのにわざわざ迎えに来てもらっちゃって…一人で家まで帰れるのに…」

「仕事の方は全然大丈夫。今度、新しく出来る考古学博物館の工事の方も順調だしね。それにヴィヴィオがどうしてもママを迎えに行きたいって言って聞かなくってさ。だからどっちかっていうと…なのはっていうよりヴィヴィオのお願いを聞いたっていう方が正しいかもね」

「ふぇぇ!そうだったんだ。何かはっきりそういわれると何か複雑だなあ…」

なのは以外の人の声が聞こえてきた瞬間、なぜか私は物陰に隠れていた。

な、なにやってんの…こ、これじゃ…怪しすぎるじゃない!?

みんな…私の大切な人たちなのに…他人じゃないのに…足が凍りついたように動かなかった…身体が硬直して全く動かず…激しい動悸に襲われる…何度、呼吸を整えようとしても全く意味がなかった。

そして…ユーノの車に乗り込んだなのはとヴィヴィオはそのまま病院を後にした。

「…バカだ…私…」

バシャッ!

目が眩むような閃光に驚いて私は思わず顔を上げる。街路樹の陰から高価な一眼レフデバイスを手にしている中年の男が姿を現していた。

「な、なんなんですか!あなたは!」

「いや…驚かせてしまって申し訳ありません。ミッドタイムスで記者をやってるものです。どうも初めまして…」

「ミッドタイムス…マスコミの方は挨拶代わりにフラッシュを他人に浴びせるんですか?失礼にも程があります!」

「こいつは手厳しいな…いやね、退院した高町一等空尉の姿を一枚頂こうかと思って私もそこの角から狙っていたんですよ。そしたらね、ちょうど物陰から高町一尉の様子を伺っている美人さんの姿が見えたもんですからね。つい…」

不愉快極まりない男だった。まるで人を値踏みするようにニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている表情に生理的嫌悪を覚えた。

「ふざけないで下さい!!肖像権(※1)は次元法でも規定があるんですよ!!盗撮行為は十分逮捕の理由になりえますから以後気をつけて下さい!!」

「公職に就いてる方の肖像権はその公共性が加味されますから違法性は阻却されるでしょ?私人とは区別されて然るべきじゃないですか?ハラオウン執務官…」

男の横を通り過ぎようとした私は名前を呼ばれて驚いて足を止める。

「ど、どうして…私のことを…」

「どうしてって…あなたも高町一尉と同様に結構有名人じゃないですか?それに…10年以上前になりますかねえ…例のPT事件の一件から…」

PT…事件…」

こいつ…何者…

 
第二話 完 / つづく

※1 日本の法律では盗撮は肖像権侵害ではなくて迷惑行為防止条例等の別の規定で処罰対象にしています。ここでは面倒なので肖像権侵害に盗撮も含まれて且つ刑事罰の対象となりえる、というありあり状態にしています。実際の法律と混同しないように注意してください。
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