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第一話 First of all (はじまり・・・)
1st Piece / First of all (はじまり)
オイルの黒煙に混じって何かが焦げる臭いがする。
今はその何かについて深く考えている余裕はない、いや考えたくないという方が正しかった。
「こちら首都防衛隊第81部隊!ミッドチルダ中央区6番街にて魔力干渉による第一級物理破壊現象を確認!現場付近にいる局員の支援を至急乞う!」
こんな状況下で断る理由なんてあるわけが無い。私はヒールを脱ぎ捨てていた。
「こちらは本局執務官フェイト・T・ハラオウン!6番街のビル火災を目視で確認している!直ちに空から支援をします!指示を願います!」
「ハラオウン執務官殿!協力感謝します!それでは早速ですがビル西側方面の要救助者の保護をお願いします!火の勢いが激しすぎて一般局員では近付くこともままなりません!お願いできますか!」
「了解!バルディッシュ…」
「Yes, Sir…」
聳(そび)え立つ摩天楼に切り取られた夜天の空に普段ではありえない朱色が混ざっていた。
高層ビルの森を潜り抜けて私は空へと駆け上がる。バリアジャケットが風を孕んでいつにも増して棚引(たなび)いていた。
ビル風に加えて灼熱の上昇気流が私の肌を焦がし、そして赤色に染め上げていく。
「ひどい…」
眼前に広がる光景…それは筆舌に尽くしがたい地獄そのものだった…
天を突く巨大な火柱…荒れ狂う炎の海…そして…焼け爛れた大地と灼熱の炎にまかれた逃げ惑う人々…何度となく休日に訪れた場所があまりにも無残な姿に変わり果てていた。
私は…これまでに一体どれほどの事件や事故に立ち会ってきたことだろう…
人格を疑われるかもしれないけどそれらのいちいちを数えて感傷に浸っている暇(いとま)は私達、執務官には無い。時が追い立てるように私の背中を押し、新たな事件が記憶やそこに残留する感情を忘却の彼方へと押し流してゆくのだから…
しかし…例外がある。実は…いつまで経っても私の心に染み付いて離れないものが一つだけある。
「私だって本当は怖いんだよ…バルディッシュ…もしかしたらこのまま…今日、死んじゃうかもしれないって思うと…」
「…I know, Sir…But…Don’t worry, Sir…Trust me…」
普段、ほとんど喋らない子(デバイス)なのに…
「…今日はおしゃべりなんだね…でも…お前は本当にいい子だ…行くよ!!」
次の瞬間、私は炎の海の中に飛び込んでいた…無口だけど私にいつも忠実な相棒と共に…
そうだ…起こってしまったことを幾ら嘆いても仕方が無い。零れたミルクは元に戻らない(覆水盆に帰らず)のだから…
ここで命の灯火が潰えてしまった人は本当に不運で不幸だけど…私はまだ風前の灯ながらも生きながらえている命を…一人でも多くの人を助けなければ…
負の連鎖を断ち切ることを今は考えなくてはいけないんだ…
「バルディッシュ…カートリッジロード!!」
まるで巨人が携えている炎熱の槍のように炎が私たちの行く手を阻む。
ザンバーフォーム…ジェットザンバー…
「撃ち抜け!雷神!せいっやあああ!」
建物の中は完全に焔(ほむら)に包まれ、一呼吸で私の肺胞を瞬く間に焼き尽くす高温の酸欠ガスで埋め尽くされていた…
フィールドが発動していなければどんな高ランク保持者でも一瞬でアウト…巨大な火葬場の中に飛び込んでしまったも同然の状態に私は言葉もなかった。
そんな生と死が交錯する場所で私は被災者を一人ずつ抱えてはビルの外の武装局員に引き渡すという地道な救護活動を繰り返した…そう…何度も…何度も…同じ場所をぐるぐる回るみたいに…
壊れたレコードのように往復した…
「地上200階と完全制御の安全対策を売りにしていた筈のビルなのに…どうして一つも消火設備が作動しないのかしら…うっ!ち、近い…」
建物に戻った私の背後で轟音が鳴り響く…もう…何が爆発しているのかさえ分からない…
「ハラオウン執務官殿!耐火装備の武装局員の一部をそちらの助勢に回します!交代して下さい!」
「了解しました。ですが局員の姿をこの目で確認するまで私はこの場に待機して救助活動を続けます」
「し、しかし!もう30分近くも火の中で…幾らなんでも限界ですよ!」
「いえ…これも仕事ですから…お気遣いなく」
「り、了解しました!本当にご協力感謝します!」
一人に構っている時にもう一人が…そんな葛藤は事故現場では禁物だ。とにかく目の前の被災者に全身全霊を傾けるしかない。
例え…自分のやっていることが徒労に終わるとしても…信じるしかない…
「誰かいらっしゃいませんか!!時空管理局です!!」
九死に一生を得た人はその後の人生観を大きく変えてしまうという…
これはどこの世界でも共通して言われていることで何もミッドチルダに限定した話ではない。私たち、次元世界の法を司る執務官が被災した人たちに直接会うことは次元犯罪の可能性が無い限り滅多にないけれど…会えば必ず実感させられることだった。
幾重にも連なる炎のカーテンを私は潜り抜ける…
「どなたかおられませんか!!声が出ない時は周囲の物を叩いて知らせて下さい!!助けに来ました!!」
状況は人によってまちまち…
憔悴(しょうすい)しきってまるで幽鬼か何かのようになってしまう人もいれば…現実を受け止めることが出来ず常軌を逸した言動を取る人もいる。
その人の過去は資料ファイル以外のデータでは分からない…起こってしまった「事件」という一事のみで私が無機質に接点を持った人々…その人たちみんな・・・
かつては全く普通の人たちだった…
全く普通の…ごく有り触れた何気ない日常を送る人々が…ふとした弾みで凶悪事件や悲惨な事故の当事者になっていく…そこに何の法則性があってどんな基準で誰が選んでいるのか…凡人の私には分からない…
でも…私は知っている…
一度…その当事者になってしまえば…もう…後戻りは出来ないってことを…
母さんみたいに…
「誰か!!時空管理局の者です!!助けに来ました!!」
「Sir!!」
「はっ!ば、バインド!!はあ…はあ…はあ…」
支柱がそのまま倒れてくるなんて…崩落が既に始まっているんだ…
「…Sir…」
「ありがとう…バルディッシュ…ちょっと…油断してた…でも…まだ…あと少しだけ…がんばろう…」
もう…この建物は限界が近い…二次災害の可能性が出てくると退避勧告が出される…それまでに探せるだけ探そう…
助けるんだ…とにかく…一人でも多く…
「誰か!!誰かいませんか!!」
虚しく響く声…果たして私の声は届いているのだろうか…
PT事件…あの時に私の母さんはアリシアと共に虚数空間の狭間に消えていった…助けるために差し伸べたその手でさえ…母さんに拒絶されたこの私が…人を救うことなんて出来るのだろうか…
今にも崩れ落ちそうな炎の塔の中で私は今…何をやってるんだろう…
その理由は自分でもよく分からない…拭い去れない後悔なのか…自虐的な何かか…
スローモーションのように床が抜け…生き物のように天井に亀裂が走る…
そう…事件現場も…悲惨な過去の記憶もこうして何もかもが崩れ去っていくんだ…時の庭園と同じ様に…そして…
巻き込まれてしまった人々が今まで積み上げてきた人生も…
一体…何処で間違ってしまったんだろう…失ってしまった命、そして時間…それは一生埋まることなく…完成させることが出来ない絶望のパズルのようだ…
それでも人は探そうとする…喪失感を埋めるために…失ったものの替わりになる…
自分のかけらを…
「基礎構造の崩壊を確認!!総員退避!!繰り返す!!総員退避せよ!!」
「退避勧告、か…仕方が無い…ここまでだね…」
「Sir…?」
「な、何?バルディッシュ…珍しいね…お前の方から私に話しかけてくるなんて…何か見つけたの?」
「I must stand by you in any case…」
「え?も、もちろんそうだよ?私もお前といつでも一緒にいるよ?」
「…」
「バ、バルディッシュ…?」
バルディッシュはそれ以上、何も言わなかった…
なのはのレイジングハートとは対照的に普段は殆ど喋らない子なのに…私に何かを伝えたかったのだろうか…
「じゃ、じゃあ行くよ…バルディッシュ…」
そうだよ…お前は私にとってただのデバイスじゃないんだよ…?母さんが私に与えてくれた最初で最後の贈り物なんだから…
離れ離れになるわけないじゃない…
規模や性質によらず事件の後には決まって虚しさしか残らない…後ろ髪を引かれるような、複雑な思いがいつも胸に去来する…
今日の事件も…多分その一つになるんだ…
満天の星が輝く夜空の中に立つ自分の足元で轟音を立てて崩れていくビルを見詰める私はその時そう思っていた…
でも…これははじまりの序曲にしかすぎなかった…
「フェイトさん!お疲れのところをすみません!本局のシャーリーです!」
「シャーリー?どうしたの?」
「たった今…不審者から奇妙なメッセージが本局の方に届いたんです!」
「まさか…犯行声明…」
背筋に悪寒が走り、全身が鳥肌立つのが分かった…
これだけの大惨事が…事故ではなく故意に起こされたとしたら…私が知る限りミッドチルダ史上最悪の無差別テロ事件になる…
「犯人は…犯人はなんて言ってきてるの!」
「は、はい…そ、それが……」
「なに?ビルの崩落の音でよく聞こえないよ?」
「は、はい…Dear F…It is 6…from Pleiades…以上です…」
それは…私にとって信じがたい言葉だった…
プレアデス…
「フェ、フェイトさん…?大丈夫ですか?聞こえてますか…?」
「あ…う、うん…大丈夫」
「もちろん、事件の報道を見た何者かがした悪質ないたずらって線もありますけど…これ…航空機動隊本部は言うに及ばず…ミッドの政府機関やマスコミにまで流されているんです…単なるいたずらにしてはちょっと手が込んでるような気がして…念のためにお伝えしました…」
「ありがとう…シャーリー…よく分かった…自己顕示欲の強い異常犯罪者にはありがちな傾向だね…世間が騒げば騒ぐほど相手の思う壺だ…」
鳴り止まないサイレン…そして小さい子供の泣き叫ぶ声・・・思わず耳を覆いたくなる無数の音が私の足元で響いていた…
自分の存在を誇示するために…罪もない多くの人を巻き込むなんて…狂ってる…こんなの…許せない…
思わずバルディッシュを握る手に力が入る。
「私はこれから至急そっちに戻るからシャーリーはみんなを集めておいて。これは広域次元犯罪に発展する可能性が高いと思う」
「は、はい!了解です!あ、あのフェイトさんも…どうかお気をつけて…」
「えっ?私?私は大丈夫だけど…どうしたの?一体…」
「だ、だって…このDear FのFって…フェイトさんのことじゃないのかなって…ちょっと思ったものですから…」
「…」
「あと…何か根拠があるわけじゃないんですけど…6って…ひょっとして…中央区6番街のことを言ってるんじゃないでしょうか?」
犯行声明の中の「6」がミッドチルダ首都中央区6番街を意味するとすれば…
それは誰でも思いつくような捻(ひね)りも何もない実に分かりやすい話…事件報道に倣えばあたかも自分が犯人のように振舞える…この部分にはあまり深い意味は無いような気がした。
でも問題は…
「あ、あの…ご、ごめんなさい!どうか気にしないで下さい!フェイトさん!単なる妄想って言うか…」
私の心臓を鷲掴みにするほどの衝撃を受けた…「F」と「プレアデス」の方だ…
「…ありがとう…シャーリー…用心するに越したことは無いよね…私も気をつけるようにする…」
シャーリーとの交信が終わっても私の頭の中はまだ混乱していた。
もし…仮に「F」がフェイト(Fate)を意味するなら…プレアデスを名乗るこの血に飢えた狂信者は…私の内情を知り過ぎるほど知っていることになる…
「バルディッシュ…帰ろう…」
「…」
「あれ?今日はよく喋るから…ちょっとだけ何か言うかなって期待したけど…いつもの無口なお前に戻ったんだね?いっ…痛ぅ……」
身体を捻った途端に鎖骨の後ろ辺りに鈍い痛みが走る。
背後で起こった爆発のブロック片が当ったせいだ…防御フィールドを張っていてもさすがに至近からの直撃を受けるとダメージを完全には相殺出来ない…
「なんか…バリアジャケットも煤けてる感じがするな…みんなに会う前にシャワーくらい浴びた方がいいのかな…」
張り詰めていた緊張の線が一気に切れたせいなのか…全身が異様に気だるかった…痛みを堪えながら急に重たくなった身体を引き摺るようにして私は本部を目指した…
「それにしても…今日は色んなことがあり過ぎたな…自分の気持ち…整理もできない…」
なのは…ごめんね…でも…
私はいつも願ってるんだよ…なのはの幸せ…
それは…その事だけは信じていて欲しいの…
「Fragment」テーマソング (勝手に決定)
Pray / 水樹奈々(勝手にテーマソング サーセン)
第一話 完 / つづく
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